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65.錯乱
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明け方に、ドロテアの子が生まれた。
月足らずで生まれたのは小さな女の子で、もしかしたら育たないかもしれないという医師の宣告を受けた。
一時は母子共に危ないと言われたものの、どうにか二人とも命を取り留めることができたようだ。ただ、ドロテアはずっと昏睡状態が続いている。
ステファニアも医師に退室を促されるまでドロテアに付き添い、ずっと一睡もせずに無事を祈っていたのだ。弱々しいながらも赤子の泣き声が聞こえてきたときは、安堵のあまり力が抜けていった。
だが、周囲からは生まれたのが女の子だから、世継ぎにはならないし、正妃の座も遠のいたと噂する声が聞こえてきて、ステファニアは無性に腹立たしい思いを抱えた。彼女らの関心ごとは世継ぎや正妃であって、ドロテアへの気遣いはないのだ。
「……ステファニア様も、お休みくださいませ。お疲れでございましょう」
年かさの侍女に気遣われ、ステファニアは自室に戻った。
アドリアンはどうしているのかという心配と、真実を知ってしまったドロテアはどうなるのだろうという不安が絡み合いながらも、睡魔には抗えずに寝台に倒れこむ。
やがて目覚めると、空が暗くなり始めていた。すっかり昼夜逆転してしまっていると苦笑しながら、ステファニアは身を起こす。
普段用のドレスを身に纏い、身支度を整える。
すると、ドロテアの侍女が慌てた様子で駆け込んできた。
「ドロテア様がお目覚めになったのですが、錯乱しておいでで……ステファニア様にこのようなことをお願いできる筋ではないと存じておりますが……どうか、ドロテア様を……」
「わかったわ、すぐに行きます」
涙ながらに語る侍女が言い終わる前に、ステファニアは歩き出す。
自分に何ができるかはわからないが、それでもステファニアはドロテアを放っておくことはできなかった。
ドロテアがいる部屋に近づくと、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「死なせて! わたくしを死なせて! もう、陛下に顔向けなどできませんわ!」
悲痛な叫び声を聞き、ステファニアは胸が締め付けられる。
予想はしていたが、やはりドロテアの傷つきようは尋常ではなかった。
部屋の近くには様子を伺う他の寵姫や侍女たちもいるが、事情を知らない彼女らにしてみれば、いくら生まれたのが世継ぎの王子ではなかったからといって、それほど気に病まなくても、といった表情だ。
ステファニアが部屋に入ると、憔悴しきったドロテアの姿が目に入ってきた。たった一日でげっそりと頬がこけてしまったようだが、目だけが狂気を帯びたように爛々と輝いている。
「……ねえ、あなたもなの?」
「え?」
ステファニアの姿を認めると、ドロテアは泣き喚くのをやめて、じっとステファニアを見つめてきた。
しかしステファニアは何を言われたかわからず、首を傾げる。
月足らずで生まれたのは小さな女の子で、もしかしたら育たないかもしれないという医師の宣告を受けた。
一時は母子共に危ないと言われたものの、どうにか二人とも命を取り留めることができたようだ。ただ、ドロテアはずっと昏睡状態が続いている。
ステファニアも医師に退室を促されるまでドロテアに付き添い、ずっと一睡もせずに無事を祈っていたのだ。弱々しいながらも赤子の泣き声が聞こえてきたときは、安堵のあまり力が抜けていった。
だが、周囲からは生まれたのが女の子だから、世継ぎにはならないし、正妃の座も遠のいたと噂する声が聞こえてきて、ステファニアは無性に腹立たしい思いを抱えた。彼女らの関心ごとは世継ぎや正妃であって、ドロテアへの気遣いはないのだ。
「……ステファニア様も、お休みくださいませ。お疲れでございましょう」
年かさの侍女に気遣われ、ステファニアは自室に戻った。
アドリアンはどうしているのかという心配と、真実を知ってしまったドロテアはどうなるのだろうという不安が絡み合いながらも、睡魔には抗えずに寝台に倒れこむ。
やがて目覚めると、空が暗くなり始めていた。すっかり昼夜逆転してしまっていると苦笑しながら、ステファニアは身を起こす。
普段用のドレスを身に纏い、身支度を整える。
すると、ドロテアの侍女が慌てた様子で駆け込んできた。
「ドロテア様がお目覚めになったのですが、錯乱しておいでで……ステファニア様にこのようなことをお願いできる筋ではないと存じておりますが……どうか、ドロテア様を……」
「わかったわ、すぐに行きます」
涙ながらに語る侍女が言い終わる前に、ステファニアは歩き出す。
自分に何ができるかはわからないが、それでもステファニアはドロテアを放っておくことはできなかった。
ドロテアがいる部屋に近づくと、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「死なせて! わたくしを死なせて! もう、陛下に顔向けなどできませんわ!」
悲痛な叫び声を聞き、ステファニアは胸が締め付けられる。
予想はしていたが、やはりドロテアの傷つきようは尋常ではなかった。
部屋の近くには様子を伺う他の寵姫や侍女たちもいるが、事情を知らない彼女らにしてみれば、いくら生まれたのが世継ぎの王子ではなかったからといって、それほど気に病まなくても、といった表情だ。
ステファニアが部屋に入ると、憔悴しきったドロテアの姿が目に入ってきた。たった一日でげっそりと頬がこけてしまったようだが、目だけが狂気を帯びたように爛々と輝いている。
「……ねえ、あなたもなの?」
「え?」
ステファニアの姿を認めると、ドロテアは泣き喚くのをやめて、じっとステファニアを見つめてきた。
しかしステファニアは何を言われたかわからず、首を傾げる。
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