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64.早産の兆し
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「……あなたも、もしかしてお子を……?」
ややあって、ようやくステファニアが落ち着いてくる頃、ぼそりとドロテアが沈黙を破った。
ステファニアはどきりとしながら、ハンカチで口元を拭う。
「子、だと……?」
凍てつくようなバルトロの声が響き渡る。
「それは本当か? 子ができたというのか? 答えろ!」
激しい剣幕でバルトロは怒鳴る。
ステファニアは振り向くこともできず、何も言えずに部屋の片隅で固まっていた。
「べ……別に、ずっと陛下の寵愛を受けていたのですし、お子ができたところで、何ら不思議はないのではありませんこと……?」
おそるおそるといったようにドロテアが口を開くが、バルトロは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「不能の兄上に、子ができるものか。……ステファニア、その子の父親は誰だ? どこで、男を引き込んで股を開いた? よくぞ、王家を裏切って男を咥え込んだものだな。このアバズレが!」
口汚く罵られ、ステファニアは恐怖と屈辱に震える。
途中からはステファニアの意思でアドリアンに抱かれたとはいえ、きっかけはゴドフレードが作り出したものだ。
まるでステファニアが身勝手に男漁りをする淫乱であるかのような言い草には反論したかったが、この場にはドロテアがいる。余計なことは言うまいと、ステファニアは口を閉ざす。
しかし、ステファニアの気遣いも、すぐに無に帰すこととなってしまった。
「不能って……どういうことですの? 陛下が不能って……それでは、わたくしの子は……」
目を見開き、わなわなと震える唇で、ドロテアがかすれた声を紡ぐ。
「なんだ、ドロテア。そなたは気づいていなかったのか。……あの夜は楽しかったな、ドロテア。処女でありながら、すぐに従順に快楽を追うようになったそなたは、なかなか素質があるぞ。すぐに懐妊してしまったのが残念……いや、喜ばしいことなのだがな」
くつくつと笑いながら、バルトロはあっさりと種明かしをした。
ステファニアの全身から、力が抜けていく。これまで、ドロテアの耳に入れないようにしてきたステファニアの思いも、すべて踏みにじられたのだ。
「な……なんで……すって……」
ドロテアの顔から、みるみる色彩が失われていく。全身がぶるぶると震えだし、引きつったような呼吸音が断続的に響いた。
何と声をかけてよいのかわからず、ステファニアは痛ましいドロテアの姿を眺めることしかできない。
「おっ……お腹が……っ……!」
不意にドロテアが両手で腹を押さえて、うずくまった。苦痛の呻き声をもらしながら、ドロテアは美しい顔を歪める。
「ドロテア!」
ステファニアは駆け寄ってドロテアに寄り添い、背中をさする。しかし、ドロテアは落ち着くどころか、ますます呼吸が荒くなっていく。
「誰か!」
ルチアが呼び鈴を鳴らし、侍女たちを呼んだ。やってきた侍女たちに、ドロテアを休ませる部屋の手配と、医師を呼ぶようにルチアは命じる。
「……もしかしたら、お生まれになるのかもしれません。早く寝台に……」
年かさの侍女が、ドロテアの様子を見て心配そうに呟く。
だが、ドロテアは産み月まではまだ二か月ほどあったはずだ。大丈夫なのだろうかと思いながら、ステファニアは苦しむドロテアの手を握って励ます。
「ドロテア、しっかりして……ドロテア……」
自分の励ましなど、ドロテアの慰めにならないだろうとわかってはいたが、それでもステファニアは声をかけずにはいられなかった。
ややあって、ようやくステファニアが落ち着いてくる頃、ぼそりとドロテアが沈黙を破った。
ステファニアはどきりとしながら、ハンカチで口元を拭う。
「子、だと……?」
凍てつくようなバルトロの声が響き渡る。
「それは本当か? 子ができたというのか? 答えろ!」
激しい剣幕でバルトロは怒鳴る。
ステファニアは振り向くこともできず、何も言えずに部屋の片隅で固まっていた。
「べ……別に、ずっと陛下の寵愛を受けていたのですし、お子ができたところで、何ら不思議はないのではありませんこと……?」
おそるおそるといったようにドロテアが口を開くが、バルトロは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「不能の兄上に、子ができるものか。……ステファニア、その子の父親は誰だ? どこで、男を引き込んで股を開いた? よくぞ、王家を裏切って男を咥え込んだものだな。このアバズレが!」
口汚く罵られ、ステファニアは恐怖と屈辱に震える。
途中からはステファニアの意思でアドリアンに抱かれたとはいえ、きっかけはゴドフレードが作り出したものだ。
まるでステファニアが身勝手に男漁りをする淫乱であるかのような言い草には反論したかったが、この場にはドロテアがいる。余計なことは言うまいと、ステファニアは口を閉ざす。
しかし、ステファニアの気遣いも、すぐに無に帰すこととなってしまった。
「不能って……どういうことですの? 陛下が不能って……それでは、わたくしの子は……」
目を見開き、わなわなと震える唇で、ドロテアがかすれた声を紡ぐ。
「なんだ、ドロテア。そなたは気づいていなかったのか。……あの夜は楽しかったな、ドロテア。処女でありながら、すぐに従順に快楽を追うようになったそなたは、なかなか素質があるぞ。すぐに懐妊してしまったのが残念……いや、喜ばしいことなのだがな」
くつくつと笑いながら、バルトロはあっさりと種明かしをした。
ステファニアの全身から、力が抜けていく。これまで、ドロテアの耳に入れないようにしてきたステファニアの思いも、すべて踏みにじられたのだ。
「な……なんで……すって……」
ドロテアの顔から、みるみる色彩が失われていく。全身がぶるぶると震えだし、引きつったような呼吸音が断続的に響いた。
何と声をかけてよいのかわからず、ステファニアは痛ましいドロテアの姿を眺めることしかできない。
「おっ……お腹が……っ……!」
不意にドロテアが両手で腹を押さえて、うずくまった。苦痛の呻き声をもらしながら、ドロテアは美しい顔を歪める。
「ドロテア!」
ステファニアは駆け寄ってドロテアに寄り添い、背中をさする。しかし、ドロテアは落ち着くどころか、ますます呼吸が荒くなっていく。
「誰か!」
ルチアが呼び鈴を鳴らし、侍女たちを呼んだ。やってきた侍女たちに、ドロテアを休ませる部屋の手配と、医師を呼ぶようにルチアは命じる。
「……もしかしたら、お生まれになるのかもしれません。早く寝台に……」
年かさの侍女が、ドロテアの様子を見て心配そうに呟く。
だが、ドロテアは産み月まではまだ二か月ほどあったはずだ。大丈夫なのだろうかと思いながら、ステファニアは苦しむドロテアの手を握って励ます。
「ドロテア、しっかりして……ドロテア……」
自分の励ましなど、ドロテアの慰めにならないだろうとわかってはいたが、それでもステファニアは声をかけずにはいられなかった。
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