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63.王位交代の可能性
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「ねえ、ドロテア、せめてもう少しゆっくりと……」
どうにか説得を試みるが、ドロテアは聞く耳を持たず歩き続け、ついステファニアも一緒になって後宮と王宮を結ぶ通路まで来てしまった。
寵姫は理由なく後宮から出ることはできない。
王宮に行く程度ならば申請すれば許可は下りるだろうが、今のドロテアは何も準備などなく、思い立ってやってきただけだ。当然、足止めされてしまう。
「わたくしは陛下にお会いしたいの! ここを通してくださらないこと!?」
見張りに向かってドロテアは騒ぎ立てるが、見張りも困惑する。通すことはできないが、かといって興奮状態にある身重の寵姫をどう扱ってよいものかわからず、見張りはおろおろするだけだ。
「通してさしあげろ」
膠着状態にあるこの場を打開する声が響いた。
ゴドフレードの声を聞いたような気がして、ステファニアはびくりとして声の主に視線を向ける。しかし、声の主はゴドフレードではなく、彼の弟であるバルトロだった。
「ドロテア殿のご心痛、ごもっともだ。私が責任を取るから、通してさしあげろ」
バルトロが命じると、見張りはほっとしたようにドロテアに道を譲る。
「しかし、まだ兄上はお目覚めになってはいない。控えの間で待つとよい。私が案内しよう。さあ、ステファニア殿も」
何となくドロテアについてきてしまっただけのステファニアだったが、バルトロに促されて抗えずに、一緒に歩いていく。
やがて控えの間に着くと、そこにはすでにルチアがいた。
ステファニアがはっとしてルチアを見つめると、ルチアも無念そうな視線を返してくる。しかしこの場では互いに何も言えず、しばし目を合わせた後、そっと視線をそらした。
「さて、兄上はやや危険な状態らしい。……もしかしたら、王位交代もありうる」
「そ……そんな……」
静かにバルトロが告げると、ドロテアが蒼白になって、自らの腹を押さえた。
「しかし、今は微妙な時期だ。現在の第一位王位継承権者は、ルチアだ。だが、ドロテア殿の腹の子が王子であれば……」
「わ……わたくし、今はそのような話など、聞きたくはございませんわ……陛下にもしものことがあるなんて……」
ふるふると震えながら、ドロテアはバルトロの言葉を遮る。
ステファニアも、バルトロの言葉に衝撃を受けていた。
ゴドフレードにもしものことがあれば、どうなるのだろうか。
もしやアドリアンは解放されるのではないかと、かすかな希望がわきあがってくる。
ただ、それはゴドフレードの死を願うことでもある。アドリアンの命と比べれば、どちらがステファニアにとって重要かは明白であるが、だからといって積極的に死を願うなど、心が耐えられない。
ステファニアはだんだんと胃がむかむかして、気分が悪くなってくる。
「……まあ、今は兄上の回復を祈るのみだ。ただ、いざというときにはルチアであれ、ドロテア殿の子であれ、王家の血を引く者がいるのだから、大丈夫だろう。ただ、ステファニア殿は……」
残念そうに言葉を区切り、バルトロがステファニアにねっとりとした視線を向ける。
もう、限界だった。
ステファニアはこみあげてくる嘔吐感を我慢できず、テーブルの上に置かれていた空っぽの花器をひったくると、部屋の隅に駆けていって胃の中のものを戻す。
突然のステファニアの行動に、残された三人は呆気に取られるだけだった。
どうにか説得を試みるが、ドロテアは聞く耳を持たず歩き続け、ついステファニアも一緒になって後宮と王宮を結ぶ通路まで来てしまった。
寵姫は理由なく後宮から出ることはできない。
王宮に行く程度ならば申請すれば許可は下りるだろうが、今のドロテアは何も準備などなく、思い立ってやってきただけだ。当然、足止めされてしまう。
「わたくしは陛下にお会いしたいの! ここを通してくださらないこと!?」
見張りに向かってドロテアは騒ぎ立てるが、見張りも困惑する。通すことはできないが、かといって興奮状態にある身重の寵姫をどう扱ってよいものかわからず、見張りはおろおろするだけだ。
「通してさしあげろ」
膠着状態にあるこの場を打開する声が響いた。
ゴドフレードの声を聞いたような気がして、ステファニアはびくりとして声の主に視線を向ける。しかし、声の主はゴドフレードではなく、彼の弟であるバルトロだった。
「ドロテア殿のご心痛、ごもっともだ。私が責任を取るから、通してさしあげろ」
バルトロが命じると、見張りはほっとしたようにドロテアに道を譲る。
「しかし、まだ兄上はお目覚めになってはいない。控えの間で待つとよい。私が案内しよう。さあ、ステファニア殿も」
何となくドロテアについてきてしまっただけのステファニアだったが、バルトロに促されて抗えずに、一緒に歩いていく。
やがて控えの間に着くと、そこにはすでにルチアがいた。
ステファニアがはっとしてルチアを見つめると、ルチアも無念そうな視線を返してくる。しかしこの場では互いに何も言えず、しばし目を合わせた後、そっと視線をそらした。
「さて、兄上はやや危険な状態らしい。……もしかしたら、王位交代もありうる」
「そ……そんな……」
静かにバルトロが告げると、ドロテアが蒼白になって、自らの腹を押さえた。
「しかし、今は微妙な時期だ。現在の第一位王位継承権者は、ルチアだ。だが、ドロテア殿の腹の子が王子であれば……」
「わ……わたくし、今はそのような話など、聞きたくはございませんわ……陛下にもしものことがあるなんて……」
ふるふると震えながら、ドロテアはバルトロの言葉を遮る。
ステファニアも、バルトロの言葉に衝撃を受けていた。
ゴドフレードにもしものことがあれば、どうなるのだろうか。
もしやアドリアンは解放されるのではないかと、かすかな希望がわきあがってくる。
ただ、それはゴドフレードの死を願うことでもある。アドリアンの命と比べれば、どちらがステファニアにとって重要かは明白であるが、だからといって積極的に死を願うなど、心が耐えられない。
ステファニアはだんだんと胃がむかむかして、気分が悪くなってくる。
「……まあ、今は兄上の回復を祈るのみだ。ただ、いざというときにはルチアであれ、ドロテア殿の子であれ、王家の血を引く者がいるのだから、大丈夫だろう。ただ、ステファニア殿は……」
残念そうに言葉を区切り、バルトロがステファニアにねっとりとした視線を向ける。
もう、限界だった。
ステファニアはこみあげてくる嘔吐感を我慢できず、テーブルの上に置かれていた空っぽの花器をひったくると、部屋の隅に駆けていって胃の中のものを戻す。
突然のステファニアの行動に、残された三人は呆気に取られるだけだった。
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