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57.王女の真意
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「で……でも……どうして、ルチア様はそこまでしてくださるのですか?」
ステファニアは、あまりにも都合がよすぎることに疑問を抱く。
後宮を解体、ひいてはゴドフレードに対する復讐なのだろうが、だからといって隣国の王妃にまで協力を取り付けるという労力は並大抵のものではないはずだ。
ルチアがそこまでの思い入れをステファニアに対して持つ理由が、わからない。
「……そうね、包み隠さずに申しましょう。国王の寵愛が最も深いあなたが逃げると、あの方の傷が大きいでしょう? それが一番の理由ですわ」
ステファニアの幸福など一切考慮しない理由だったが、かえってそれがすんなりと納得できた。あなたのため、などという口当たりのよい言葉よりも、よほど真実味がある。
「それと、正直に言えば騎士様のほうは、私にはどうでもよいのです。ただ、マルツィア叔母様はその騎士様を救うことを条件に、いろいろと便宜を図ってくださるというので、それに乗らせていただいただけですわ」
「……マルツィア様が、どうして……?」
宴の席で、マルツィアはゴドフレードに対して何か含むような物言いをしていたことを、ステファニアは思い出す。
アドリアンの母がマルツィアの侍女をしていたようだから、その関係で何かあるのだろうが、それが何かはわからない。
「騎士様の母君は、マルツィア叔母様の侍女だったそうですわ。でも、当時の王太子が熱を上げてしまい、揉めごとが起こったというのです。王太子は他国の姫を正妃として迎えることになっていたので、そのようなときに一介の侍女との仲など認められなかったというわけですわね。そこで当時の国王の命令で、侍女は遠方の貴族に嫁がされたのですわ。当時の王太子というのが、現国王ですわね」
淡々と語るルチアの言葉を聞き、ステファニアは胸が締め付けられるような思いだった。アドリアンの母が置かれた境遇を思うと、いたたまれない。
「マルツィア叔母様は、侍女にもっとよい結婚をしてほしかったそうですわ。当時の王太子が一方的に熱を上げたと言っていましたけれど……そのあたりは、正確なところはわかりませんわ。ただ、マルツィア叔母様も他国に嫁ぐことが決まっていて、侍女に対して何もできなかったそうですの。だから、せめて侍女が産んだ唯一の子くらいは、幸せになってほしい、とのことですわ」
言葉を区切ると、ルチアはまっすぐにステファニアを見つめた。
深い藍色の瞳は、どことなく硬質な光をたたえており、優しいとは言いがたいが嘘偽りのない真摯さを持って、ステファニアを映す。
「こうして通行手形をお渡しするのも、ステファニア様のためではなく、私自身のためなのです。たまたま、互いの利益が一致したというだけですわ。だから、ステファニア様が気に病むような必要はありません。どうぞ、お互いのために、騎士様とお逃げになってくださいな」
ステファニアは、あまりにも都合がよすぎることに疑問を抱く。
後宮を解体、ひいてはゴドフレードに対する復讐なのだろうが、だからといって隣国の王妃にまで協力を取り付けるという労力は並大抵のものではないはずだ。
ルチアがそこまでの思い入れをステファニアに対して持つ理由が、わからない。
「……そうね、包み隠さずに申しましょう。国王の寵愛が最も深いあなたが逃げると、あの方の傷が大きいでしょう? それが一番の理由ですわ」
ステファニアの幸福など一切考慮しない理由だったが、かえってそれがすんなりと納得できた。あなたのため、などという口当たりのよい言葉よりも、よほど真実味がある。
「それと、正直に言えば騎士様のほうは、私にはどうでもよいのです。ただ、マルツィア叔母様はその騎士様を救うことを条件に、いろいろと便宜を図ってくださるというので、それに乗らせていただいただけですわ」
「……マルツィア様が、どうして……?」
宴の席で、マルツィアはゴドフレードに対して何か含むような物言いをしていたことを、ステファニアは思い出す。
アドリアンの母がマルツィアの侍女をしていたようだから、その関係で何かあるのだろうが、それが何かはわからない。
「騎士様の母君は、マルツィア叔母様の侍女だったそうですわ。でも、当時の王太子が熱を上げてしまい、揉めごとが起こったというのです。王太子は他国の姫を正妃として迎えることになっていたので、そのようなときに一介の侍女との仲など認められなかったというわけですわね。そこで当時の国王の命令で、侍女は遠方の貴族に嫁がされたのですわ。当時の王太子というのが、現国王ですわね」
淡々と語るルチアの言葉を聞き、ステファニアは胸が締め付けられるような思いだった。アドリアンの母が置かれた境遇を思うと、いたたまれない。
「マルツィア叔母様は、侍女にもっとよい結婚をしてほしかったそうですわ。当時の王太子が一方的に熱を上げたと言っていましたけれど……そのあたりは、正確なところはわかりませんわ。ただ、マルツィア叔母様も他国に嫁ぐことが決まっていて、侍女に対して何もできなかったそうですの。だから、せめて侍女が産んだ唯一の子くらいは、幸せになってほしい、とのことですわ」
言葉を区切ると、ルチアはまっすぐにステファニアを見つめた。
深い藍色の瞳は、どことなく硬質な光をたたえており、優しいとは言いがたいが嘘偽りのない真摯さを持って、ステファニアを映す。
「こうして通行手形をお渡しするのも、ステファニア様のためではなく、私自身のためなのです。たまたま、互いの利益が一致したというだけですわ。だから、ステファニア様が気に病むような必要はありません。どうぞ、お互いのために、騎士様とお逃げになってくださいな」
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