57 / 77
57.王女の真意
しおりを挟む
「で……でも……どうして、ルチア様はそこまでしてくださるのですか?」
ステファニアは、あまりにも都合がよすぎることに疑問を抱く。
後宮を解体、ひいてはゴドフレードに対する復讐なのだろうが、だからといって隣国の王妃にまで協力を取り付けるという労力は並大抵のものではないはずだ。
ルチアがそこまでの思い入れをステファニアに対して持つ理由が、わからない。
「……そうね、包み隠さずに申しましょう。国王の寵愛が最も深いあなたが逃げると、あの方の傷が大きいでしょう? それが一番の理由ですわ」
ステファニアの幸福など一切考慮しない理由だったが、かえってそれがすんなりと納得できた。あなたのため、などという口当たりのよい言葉よりも、よほど真実味がある。
「それと、正直に言えば騎士様のほうは、私にはどうでもよいのです。ただ、マルツィア叔母様はその騎士様を救うことを条件に、いろいろと便宜を図ってくださるというので、それに乗らせていただいただけですわ」
「……マルツィア様が、どうして……?」
宴の席で、マルツィアはゴドフレードに対して何か含むような物言いをしていたことを、ステファニアは思い出す。
アドリアンの母がマルツィアの侍女をしていたようだから、その関係で何かあるのだろうが、それが何かはわからない。
「騎士様の母君は、マルツィア叔母様の侍女だったそうですわ。でも、当時の王太子が熱を上げてしまい、揉めごとが起こったというのです。王太子は他国の姫を正妃として迎えることになっていたので、そのようなときに一介の侍女との仲など認められなかったというわけですわね。そこで当時の国王の命令で、侍女は遠方の貴族に嫁がされたのですわ。当時の王太子というのが、現国王ですわね」
淡々と語るルチアの言葉を聞き、ステファニアは胸が締め付けられるような思いだった。アドリアンの母が置かれた境遇を思うと、いたたまれない。
「マルツィア叔母様は、侍女にもっとよい結婚をしてほしかったそうですわ。当時の王太子が一方的に熱を上げたと言っていましたけれど……そのあたりは、正確なところはわかりませんわ。ただ、マルツィア叔母様も他国に嫁ぐことが決まっていて、侍女に対して何もできなかったそうですの。だから、せめて侍女が産んだ唯一の子くらいは、幸せになってほしい、とのことですわ」
言葉を区切ると、ルチアはまっすぐにステファニアを見つめた。
深い藍色の瞳は、どことなく硬質な光をたたえており、優しいとは言いがたいが嘘偽りのない真摯さを持って、ステファニアを映す。
「こうして通行手形をお渡しするのも、ステファニア様のためではなく、私自身のためなのです。たまたま、互いの利益が一致したというだけですわ。だから、ステファニア様が気に病むような必要はありません。どうぞ、お互いのために、騎士様とお逃げになってくださいな」
ステファニアは、あまりにも都合がよすぎることに疑問を抱く。
後宮を解体、ひいてはゴドフレードに対する復讐なのだろうが、だからといって隣国の王妃にまで協力を取り付けるという労力は並大抵のものではないはずだ。
ルチアがそこまでの思い入れをステファニアに対して持つ理由が、わからない。
「……そうね、包み隠さずに申しましょう。国王の寵愛が最も深いあなたが逃げると、あの方の傷が大きいでしょう? それが一番の理由ですわ」
ステファニアの幸福など一切考慮しない理由だったが、かえってそれがすんなりと納得できた。あなたのため、などという口当たりのよい言葉よりも、よほど真実味がある。
「それと、正直に言えば騎士様のほうは、私にはどうでもよいのです。ただ、マルツィア叔母様はその騎士様を救うことを条件に、いろいろと便宜を図ってくださるというので、それに乗らせていただいただけですわ」
「……マルツィア様が、どうして……?」
宴の席で、マルツィアはゴドフレードに対して何か含むような物言いをしていたことを、ステファニアは思い出す。
アドリアンの母がマルツィアの侍女をしていたようだから、その関係で何かあるのだろうが、それが何かはわからない。
「騎士様の母君は、マルツィア叔母様の侍女だったそうですわ。でも、当時の王太子が熱を上げてしまい、揉めごとが起こったというのです。王太子は他国の姫を正妃として迎えることになっていたので、そのようなときに一介の侍女との仲など認められなかったというわけですわね。そこで当時の国王の命令で、侍女は遠方の貴族に嫁がされたのですわ。当時の王太子というのが、現国王ですわね」
淡々と語るルチアの言葉を聞き、ステファニアは胸が締め付けられるような思いだった。アドリアンの母が置かれた境遇を思うと、いたたまれない。
「マルツィア叔母様は、侍女にもっとよい結婚をしてほしかったそうですわ。当時の王太子が一方的に熱を上げたと言っていましたけれど……そのあたりは、正確なところはわかりませんわ。ただ、マルツィア叔母様も他国に嫁ぐことが決まっていて、侍女に対して何もできなかったそうですの。だから、せめて侍女が産んだ唯一の子くらいは、幸せになってほしい、とのことですわ」
言葉を区切ると、ルチアはまっすぐにステファニアを見つめた。
深い藍色の瞳は、どことなく硬質な光をたたえており、優しいとは言いがたいが嘘偽りのない真摯さを持って、ステファニアを映す。
「こうして通行手形をお渡しするのも、ステファニア様のためではなく、私自身のためなのです。たまたま、互いの利益が一致したというだけですわ。だから、ステファニア様が気に病むような必要はありません。どうぞ、お互いのために、騎士様とお逃げになってくださいな」
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
可愛すぎてつらい
羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。
初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。
初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。
しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。
***
なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。
ムーンさんでも同じものを投稿しています。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる