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50.お守り
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憂鬱な宴の日がやってきて、ステファニアは控え室でぼんやりと時間を待っていた。
連れてきた侍女はリナ一人だけだったが、そのリナも所用のために部屋を出て行ってしまったので、今はステファニアが孤独にたたずむだけだ。
特にすることもなく、テーブルに飾られた黄色い花を眺めていると、ややあって扉が開かれた。
リナが戻ってきたのかと扉に視線を向け、ステファニアは目に入ってきたのは幻かと、瞬きを繰り返す。
扉の前にいたのは、アドリアンだった。
白を基調とした近衛騎士の制服に身を包み、立っている。
ステファニアがいつも寝室で見ているのは、女物のヴェールに全身が包まったものだ。後宮に入るので、侍女のふりをしてごまかすための変装である。中身も何の変哲もない普通の服だった。
初めて目にする、アドリアンの騎士としての姿に、ステファニアは今の状況も忘れて見とれてしまう。
かつて、立派な騎士になると夢を語ったアドリアンが、夢を叶えた姿で目の前にいる。
感慨深さに、ステファニアは目頭が熱くなってきた。幼い日に誓い合った将来が、そのまま形になったかのようだ。
「失礼いたします、ステファニア様」
しかし、抑揚のないアドリアンの声で、ステファニアは現実に引き戻される。
アドリアンはずっと、ステファニアのことを昔の名で呼んでいた。その声で今の名を呼ばれると、ざらりとした違和感を覚える。とはいっても、職務上の用事で訪れたというのならば、当然の態度ではある。
今、ここにあるのは幼い日の延長線上のものではなく、まったく異なった未来に来てしまったのだと、ステファニアは思い知らされた気分だった。
「リナ嬢に通していただきました。ステファニア様の気が滅入っておいでだそうで、憂鬱にならないためのお守りをお持ちいたしました」
落ち込むステファニアを慰めるように、アドリアンは懐から卵のようなものを取り出した。通常の卵を半分にしたよりもやや小ぶりで、ほんのりと淡いピンク色をした石だ。ステファニアは紅水晶だろうかと、石を眺める。
なめらかに磨かれ、楕円形となった石は透明感があり、優しい色合いが心を和ませてくれるようだった。
「まあ……可愛らしいわね」
ステファニアはうっとりと呟いて、口元をほころばせる。
石の可愛らしさももちろんだが、アドリアンの気遣いが何よりも心を癒してくれた。落ち込んでしまった気分も浮上してくる。
「宴には、口さがない連中もいることでしょう。どうぞ、このお守りを身につけていてください」
「ありがとう……でも、どうすればいいかしらね」
ステファニアは首を傾げながら、石を眺めた。
鎖がついているわけでもない石を、どこに身につければよいだろうと考えていると、アドリアンがステファニアの耳に唇を寄せてくる。
「俺が身につけさせてやるよ、サラ」
不意にいつもの口調に戻ったアドリアンの声に、ステファニアは心臓がどきりと脈打つのを感じた。
甘みを帯びた低い囁き声は、寝台の上で聞くものと同じだ。夜の秘め事が思い起こされ、ステファニアの身体の心が疼いた。
「んっ……ふぅ……」
耳たぶを軽く噛まれ、ステファニアは鼻から抜けるような吐息を漏らしてしまう。
たったこれだけのことで、じわりと秘所から蜜があふれてくるのがわかった。
アドリアンはドレスのスカートの中に手を差し入れ、秘裂をつるりとした何かで撫で上げてくる。
「なっ……」
ステファニアは息をのむが、アドリアンは構わずに硬いものを蜜口に押し入れてきた。そのまま、ぐいぐいと隘路をこじ開けるように押し込んでいく。
「やっ……やぁっ……これ、さっきの石……」
身につけるとはいっても、これはないだろうとステファニアは顔から火が出そうな羞恥に満たされる。
「こっ、こんなの……バカっ! 変態っ!」
大声にならないように声を潜めながらも、ステファニアはアドリアンを罵った。
しかし、わずかに身体をよじっただけで、体内に侵入したピンク色の石は媚肉をこすりあげ、甘い疼きを生じさせる。
快楽と羞恥が混ざりあい、ステファニアは涙目になってアドリアンを睨みつけるが、彼はニヤニヤと笑うだけだった。
「そうそう、その調子で俺のことを罵っていろよ。宴の間中そうしていれば、余計なことを考えなくてすむだろ?」
彼なりの気遣いなのだろうが、だからといって恥ずかしすぎるとステファニアはさらに抗議しようとする。しかし、それよりも先にアドリアンの唇が再び耳元に寄ってきた。
低い、わずかに憂いを帯びた囁き声が耳をくすぐる。
「……俺のことだけ考えていろよ、サラ」
連れてきた侍女はリナ一人だけだったが、そのリナも所用のために部屋を出て行ってしまったので、今はステファニアが孤独にたたずむだけだ。
特にすることもなく、テーブルに飾られた黄色い花を眺めていると、ややあって扉が開かれた。
リナが戻ってきたのかと扉に視線を向け、ステファニアは目に入ってきたのは幻かと、瞬きを繰り返す。
扉の前にいたのは、アドリアンだった。
白を基調とした近衛騎士の制服に身を包み、立っている。
ステファニアがいつも寝室で見ているのは、女物のヴェールに全身が包まったものだ。後宮に入るので、侍女のふりをしてごまかすための変装である。中身も何の変哲もない普通の服だった。
初めて目にする、アドリアンの騎士としての姿に、ステファニアは今の状況も忘れて見とれてしまう。
かつて、立派な騎士になると夢を語ったアドリアンが、夢を叶えた姿で目の前にいる。
感慨深さに、ステファニアは目頭が熱くなってきた。幼い日に誓い合った将来が、そのまま形になったかのようだ。
「失礼いたします、ステファニア様」
しかし、抑揚のないアドリアンの声で、ステファニアは現実に引き戻される。
アドリアンはずっと、ステファニアのことを昔の名で呼んでいた。その声で今の名を呼ばれると、ざらりとした違和感を覚える。とはいっても、職務上の用事で訪れたというのならば、当然の態度ではある。
今、ここにあるのは幼い日の延長線上のものではなく、まったく異なった未来に来てしまったのだと、ステファニアは思い知らされた気分だった。
「リナ嬢に通していただきました。ステファニア様の気が滅入っておいでだそうで、憂鬱にならないためのお守りをお持ちいたしました」
落ち込むステファニアを慰めるように、アドリアンは懐から卵のようなものを取り出した。通常の卵を半分にしたよりもやや小ぶりで、ほんのりと淡いピンク色をした石だ。ステファニアは紅水晶だろうかと、石を眺める。
なめらかに磨かれ、楕円形となった石は透明感があり、優しい色合いが心を和ませてくれるようだった。
「まあ……可愛らしいわね」
ステファニアはうっとりと呟いて、口元をほころばせる。
石の可愛らしさももちろんだが、アドリアンの気遣いが何よりも心を癒してくれた。落ち込んでしまった気分も浮上してくる。
「宴には、口さがない連中もいることでしょう。どうぞ、このお守りを身につけていてください」
「ありがとう……でも、どうすればいいかしらね」
ステファニアは首を傾げながら、石を眺めた。
鎖がついているわけでもない石を、どこに身につければよいだろうと考えていると、アドリアンがステファニアの耳に唇を寄せてくる。
「俺が身につけさせてやるよ、サラ」
不意にいつもの口調に戻ったアドリアンの声に、ステファニアは心臓がどきりと脈打つのを感じた。
甘みを帯びた低い囁き声は、寝台の上で聞くものと同じだ。夜の秘め事が思い起こされ、ステファニアの身体の心が疼いた。
「んっ……ふぅ……」
耳たぶを軽く噛まれ、ステファニアは鼻から抜けるような吐息を漏らしてしまう。
たったこれだけのことで、じわりと秘所から蜜があふれてくるのがわかった。
アドリアンはドレスのスカートの中に手を差し入れ、秘裂をつるりとした何かで撫で上げてくる。
「なっ……」
ステファニアは息をのむが、アドリアンは構わずに硬いものを蜜口に押し入れてきた。そのまま、ぐいぐいと隘路をこじ開けるように押し込んでいく。
「やっ……やぁっ……これ、さっきの石……」
身につけるとはいっても、これはないだろうとステファニアは顔から火が出そうな羞恥に満たされる。
「こっ、こんなの……バカっ! 変態っ!」
大声にならないように声を潜めながらも、ステファニアはアドリアンを罵った。
しかし、わずかに身体をよじっただけで、体内に侵入したピンク色の石は媚肉をこすりあげ、甘い疼きを生じさせる。
快楽と羞恥が混ざりあい、ステファニアは涙目になってアドリアンを睨みつけるが、彼はニヤニヤと笑うだけだった。
「そうそう、その調子で俺のことを罵っていろよ。宴の間中そうしていれば、余計なことを考えなくてすむだろ?」
彼なりの気遣いなのだろうが、だからといって恥ずかしすぎるとステファニアはさらに抗議しようとする。しかし、それよりも先にアドリアンの唇が再び耳元に寄ってきた。
低い、わずかに憂いを帯びた囁き声が耳をくすぐる。
「……俺のことだけ考えていろよ、サラ」
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