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44.わずかな間の夢だろうと
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「国境を越えるためには、通行手形が必要だよ。そう簡単にはいかないんだ」
「じゃ……じゃあ……身分を偽装して……」
なおも食い下がろうとするステファニアだったが、アドリアンは笑って首を横に振った。
「そういうのには、つてと準備期間がいるんだ。それに……たとえ一人で逃げたとして、何になる? 今、こうしてサラと会っているのだって、奇跡のようなものなんだ。一度手放せば、もう二度と手に入らないだろう。ずっと欲しかったものが目の前にあるのに、逃げられるかよ」
アドリアンの瞳に、物騒な光が宿ったようだった。ぞくりと身を震わせながらも、ステファニアは身体の奥で熱が蠢くのを感じる。
「サラが国王陛下の寵姫になったと聞いたとき、どれだけ俺が愕然としたか……。忘れるために国境の争いに志願したんだよ。いっそ、死んでしまってもいい、ってな」
「で……でも、あなたは婚約したって……」
「婚約? 俺が? そんなのしてないよ」
「えっ!? そんな……母上様がアドリアンが婚約した……って……」
言いかけたところで、はっと気づいた。
養母はステファニアの心がアドリアンに傾いていることを知り、諦めさせるために偽りを述べたのではないだろうか。
種馬をあてがうくらいだ、それくらいのことは簡単にするだろう。
「……なるほどな。俺も、サラをエルドナート侯爵家の養女にしたから、これからは上級貴族として嫁ぎ先も云々って嫌味ったらしく聞かされたんだが……俺たちを引き離すためだったんだな」
戸惑うステファニアを眺めながら、アドリアンも納得することがあったらしい。唇の端を吊り上げて、嘲るように鼻を鳴らした。
「侯爵令嬢になったサラにふさわしくなろうと、俺は頑張ったよ。でも、サラは寵姫になって……国王陛下が相手じゃ太刀打ちできるはずがない。それが、何の因果かこうしてサラに触れることができるようになった」
アドリアンの手が、そっとステファニアの頬を撫でる。口元には優しい微笑みを浮かべていたが、瞳には欲望の光が揺らめいていた。
ぞくぞくと背筋が震えるが、ステファニアは目をそらせなかった。
「……殺されたっていい。たとえわずかな間の夢だろうと……俺は、サラが欲しいんだ」
静かな宣言と共に、唇が重ねられた。
熱い舌がぬるりと忍びこみ、ステファニアの舌先は絡め取られて吸い上げられる。
口内を愛撫されながら、ステファニアは今までにない昂ぶりが身体の奥底からわきあがってくるのを感じる。
操り人形として淡々と行為をこなしていただけの今までとは違い、アドリアンの意思をもって求められているのだという実感が、ステファニアの熱を煽っていく。
「じゃ……じゃあ……身分を偽装して……」
なおも食い下がろうとするステファニアだったが、アドリアンは笑って首を横に振った。
「そういうのには、つてと準備期間がいるんだ。それに……たとえ一人で逃げたとして、何になる? 今、こうしてサラと会っているのだって、奇跡のようなものなんだ。一度手放せば、もう二度と手に入らないだろう。ずっと欲しかったものが目の前にあるのに、逃げられるかよ」
アドリアンの瞳に、物騒な光が宿ったようだった。ぞくりと身を震わせながらも、ステファニアは身体の奥で熱が蠢くのを感じる。
「サラが国王陛下の寵姫になったと聞いたとき、どれだけ俺が愕然としたか……。忘れるために国境の争いに志願したんだよ。いっそ、死んでしまってもいい、ってな」
「で……でも、あなたは婚約したって……」
「婚約? 俺が? そんなのしてないよ」
「えっ!? そんな……母上様がアドリアンが婚約した……って……」
言いかけたところで、はっと気づいた。
養母はステファニアの心がアドリアンに傾いていることを知り、諦めさせるために偽りを述べたのではないだろうか。
種馬をあてがうくらいだ、それくらいのことは簡単にするだろう。
「……なるほどな。俺も、サラをエルドナート侯爵家の養女にしたから、これからは上級貴族として嫁ぎ先も云々って嫌味ったらしく聞かされたんだが……俺たちを引き離すためだったんだな」
戸惑うステファニアを眺めながら、アドリアンも納得することがあったらしい。唇の端を吊り上げて、嘲るように鼻を鳴らした。
「侯爵令嬢になったサラにふさわしくなろうと、俺は頑張ったよ。でも、サラは寵姫になって……国王陛下が相手じゃ太刀打ちできるはずがない。それが、何の因果かこうしてサラに触れることができるようになった」
アドリアンの手が、そっとステファニアの頬を撫でる。口元には優しい微笑みを浮かべていたが、瞳には欲望の光が揺らめいていた。
ぞくぞくと背筋が震えるが、ステファニアは目をそらせなかった。
「……殺されたっていい。たとえわずかな間の夢だろうと……俺は、サラが欲しいんだ」
静かな宣言と共に、唇が重ねられた。
熱い舌がぬるりと忍びこみ、ステファニアの舌先は絡め取られて吸い上げられる。
口内を愛撫されながら、ステファニアは今までにない昂ぶりが身体の奥底からわきあがってくるのを感じる。
操り人形として淡々と行為をこなしていただけの今までとは違い、アドリアンの意思をもって求められているのだという実感が、ステファニアの熱を煽っていく。
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