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27.時の移り変わり

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 短く刈り込んだ赤毛の青年だった。薄い緑色の瞳は国王の前で恭順の意を表すように伏せられている。
 わずかに憂いを帯びたような顔は、貴婦人がたが憂いの騎士とでも呼んでもてはやしそうなほど、鬱屈した色気のようなものが漂っていた。

 ――このような表情は知らない。彼は、もっと悪戯小僧のように生き生きとしていた。

 ステファニアの胸に溢れかえるような懐かしさがわきあがり、同時に胸が締め付けられる。もうかつてのサラという名の少女はいないように、彼にも時間は流れたのだろう。
 だが、やはり彼は彼だ。少しばかり変わったところで、子供から大人になったということなのだろう。
 かつて将来を誓い合ったアドリアンが、今、ステファニアの前にいた。

「おお、将軍。楽しんでおるか? 此度はご苦労だったな。そなたに任せて、正解だった」

「もったいないお言葉。ですが、私一人の力ではございません。陛下にご紹介しておきたい者がおるのです」

「そちらの若者か? そなたが連れてくるのだから、さぞ有望なのだろうな」

 和やかにゴドフレードと将軍が会話を交わす声が、どこか遠くから聞こえてくるようだった。ステファニアは未だに身じろぎひとつできず、ただ成り行きを見守るだけだ。
 将軍が、赤毛の青年を押し出す。

「アドリアン・セラートと申す者にございます」

 将軍が語る声を聞き、ステファニアはやはり彼本人なのだと、思いを噛み締める。
 懐かしさが胸に満ちていくが、今の自分の立場を考えると素直に喜ぶことはできない。むしろ、どういった顔をすればよいのかと迷ってしまうが、アドリアンはじっと目を伏せたままで、ステファニアには視線を向けようとしない。

「セラート……もしや、フィオナの息子か?」

「母をご存知なのですか?」

 目を伏せて口を閉ざしていたアドリアンが、思わずといったように口を開いた。

「……余がまだ王子だった頃、今は他国に嫁いでいる妹の侍女だったのだ」

 ゴドフレードは懐かしそうに目を細める。どこか遠くを見つめるような目は、もの悲しさをもたたえているようだった。

「いずれ、そなたとはゆっくりと話をしてみたいものだ。これからも精進するように」

「もったいないお言葉、ありがとうございます」

 国王であるゴドフレードは宴の席で長い間、特定の相手とだけ話すわけにはいかない。やや名残惜しそうではあったが、ゴドフレードが区切りをつけると、アドリアンは礼をして将軍と共に去っていった。
 まるで夢でも見ていたかのような心地で、ステファニアはアドリアンの後ろ姿を見守る。

 最後まで、アドリアンはステファニアに一度も視線を向けることはなかった。
 時間を告げる単調な鐘の音が響き、時の移り変わりを告げていた。
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