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24.裏切りの裏切り
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エルドナート侯爵夫妻は、ステファニアの美貌が良い駒になると思い、引き取ったに過ぎないのだろう。
裏切られたのではなく、ステファニアがあまりにも甘く、幼い考えだっただけだ。最初からエルドナート侯爵夫妻の狙いなど、少し考えれば明らかだったはずだと、ステファニアは自らに対して笑いがこみあげてくる。
母と慕っていた相手からの仕打ちに対して、ステファニアは自分でも意外なほど冷静に受け止めることができた。悲しくはあるのだが、どこかで納得もしている。
幾度も裏切られて、心が麻痺してしまっているのかもしれない。養母に対する怒りすらわいてこなかった。
むしろ、養母の身を案じていた自分を滑稽に思えてしまうほどだ。
ただ、国王以外の男をあてがい、懐妊を狙うなどといったやり方は、ステファニア個人だけではなく、国王、引いては国家に対する裏切りだろう。
「男子を授かれば、正妃になれるでしょう。いくら今は第一寵姫といっても、陛下の寵愛が薄れれば、儚くなってしまうもの。あなただって正式な身分を得て、この国第一の女性として君臨したいでしょう?」
養母は穏やかな微笑みを崩すことなく、諭すようにステファニアに語りかけてくる。
反逆罪に値することを仕出かしながら、いつもと変わらない養母の態度を見て、ステファニアはぞくりと背筋に冷たいものが走っていく。
「で……でも……母上様……」
「まあ、ステファニア。あなたは何も心配しなくてよいのですよ。あなたに忍んできたのは、陛下が少しばかりお姿を変えただけなのです。あなたは安心して王家の血を引く子を身ごもればよいのです」
養母の言葉に引っ掛かりを覚え、ステファニアは沈黙する。
自信にあふれた物言いといい、王家の血とはっきり言い切る迷いのなさといい、ステファニアには侵入者の正体が誰だかわかったような気がした。
「これからは、もっと……月に一度くらいは里帰りに来てちょうだいね。良い時期は、リナと相談するとよいわ。もちろん、懐妊すれば里帰りなどせず、後宮で安静に過ごしてちょうだいね」
畳み掛けるように養母は続ける。
この言葉で、やはりリナはエルドナート侯爵夫妻の息がかかっていたのだと、ステファニアは確信した。
しかし、養母はまだリナの裏切りを知らず、昨晩の行為が未遂であることも知らないようだ。侵入者も、わざわざ失敗したとは言わなかったのだろう。
「……母上様のお心遣い、胸にしみいりますわ。私も母上様のお心に添うように努めますわ」
空っぽの笑顔を浮かべて、ステファニアは心にもないことを口にした。
これまでは養父母に対する恩を感じ、できる限り意向に添って生きてきたが、もう終わりだ。ステファニアが第一寵姫となったことにより、エルドナート侯爵家にも利益があっただろう。もう十分だ。
養父母の意向など、これからは無視することに決め、ステファニアは微笑む。
養母とステファニアは、互いに心の伴わない微笑みを交し合い、それぞれの思惑を笑顔の下に隠した。
裏切られたのではなく、ステファニアがあまりにも甘く、幼い考えだっただけだ。最初からエルドナート侯爵夫妻の狙いなど、少し考えれば明らかだったはずだと、ステファニアは自らに対して笑いがこみあげてくる。
母と慕っていた相手からの仕打ちに対して、ステファニアは自分でも意外なほど冷静に受け止めることができた。悲しくはあるのだが、どこかで納得もしている。
幾度も裏切られて、心が麻痺してしまっているのかもしれない。養母に対する怒りすらわいてこなかった。
むしろ、養母の身を案じていた自分を滑稽に思えてしまうほどだ。
ただ、国王以外の男をあてがい、懐妊を狙うなどといったやり方は、ステファニア個人だけではなく、国王、引いては国家に対する裏切りだろう。
「男子を授かれば、正妃になれるでしょう。いくら今は第一寵姫といっても、陛下の寵愛が薄れれば、儚くなってしまうもの。あなただって正式な身分を得て、この国第一の女性として君臨したいでしょう?」
養母は穏やかな微笑みを崩すことなく、諭すようにステファニアに語りかけてくる。
反逆罪に値することを仕出かしながら、いつもと変わらない養母の態度を見て、ステファニアはぞくりと背筋に冷たいものが走っていく。
「で……でも……母上様……」
「まあ、ステファニア。あなたは何も心配しなくてよいのですよ。あなたに忍んできたのは、陛下が少しばかりお姿を変えただけなのです。あなたは安心して王家の血を引く子を身ごもればよいのです」
養母の言葉に引っ掛かりを覚え、ステファニアは沈黙する。
自信にあふれた物言いといい、王家の血とはっきり言い切る迷いのなさといい、ステファニアには侵入者の正体が誰だかわかったような気がした。
「これからは、もっと……月に一度くらいは里帰りに来てちょうだいね。良い時期は、リナと相談するとよいわ。もちろん、懐妊すれば里帰りなどせず、後宮で安静に過ごしてちょうだいね」
畳み掛けるように養母は続ける。
この言葉で、やはりリナはエルドナート侯爵夫妻の息がかかっていたのだと、ステファニアは確信した。
しかし、養母はまだリナの裏切りを知らず、昨晩の行為が未遂であることも知らないようだ。侵入者も、わざわざ失敗したとは言わなかったのだろう。
「……母上様のお心遣い、胸にしみいりますわ。私も母上様のお心に添うように努めますわ」
空っぽの笑顔を浮かべて、ステファニアは心にもないことを口にした。
これまでは養父母に対する恩を感じ、できる限り意向に添って生きてきたが、もう終わりだ。ステファニアが第一寵姫となったことにより、エルドナート侯爵家にも利益があっただろう。もう十分だ。
養父母の意向など、これからは無視することに決め、ステファニアは微笑む。
養母とステファニアは、互いに心の伴わない微笑みを交し合い、それぞれの思惑を笑顔の下に隠した。
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