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23.養親の思惑
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リナが再び戻ってくる頃には、ステファニアはわずかに落ち着きを取り戻していた。リナを責め立てるようなことはせず、沈黙を保てるといった程度ではあったが、先ほどまでの触れれば張り裂けそうな緊張感は和らいでいる。
何も言葉を交わすことはなく、淡々とリナはステファニアの湯浴みを手伝い、ステファニアは操り人形のようにされるがままとなって動く。
金属製の下穿きも取り外され、温かい湯に浸かってステファニアは一息ついた。
温かい湯はステファニアの心にもしみこんで、安らぎをもたらしてくれるようだった。
だんだんと余裕が生まれてくると、ステファニアはリナの行動に疑問を抱き始める。
そもそも、エルドナート侯爵邸にやすやすと不審者が入り込めるのがおかしい。手引きしている者がいると考えるのが自然だ。
何のためかといえば、ステファニアを懐妊させるためだろう。
だが、リナがステファニアに身に着けさせた下穿きにより、貞操は守られた。リナはおそらく企みを知っていたのだろうが、その企みからステファニアを守ったのだ。
ならば、ステファニアが懐妊することにより、もっとも利益を得るのは誰か。
考えるまでもなく、答えは出る。
もともとリナはエルドナート侯爵家からついてきた侍女だ。現在の主はステファニアであるとはいえ、エルドナート侯爵家の息がかかっていたところで、何の不思議もない。
それでも、リナはステファニアのことを優先して、守ってくれたのだろう。
先ほどからリナの口が重いのは、立場上、詳しいことを話せないためなのかもしれない。それならば、ステファニアも問い詰めることはしないよう心に刻む。
最初はリナが裏切ったのかとも疑ってしまったが、そうではなかった。ならば、リナを信じて、困らせるような行為は慎もうとステファニアは決意する。
湯浴みをすませ、準備を整えると、ステファニアは養母のもとへと向かった。
昨日と同じく、寝台の中から養母が出迎える。
「母上様、お加減はいかがですか?」
「今日はとても良いわ。あなたが来てくれて、大分良くなりましたよ」
「それはよろしゅうございましたわ。私は昨晩、とても生々しい夢を見て……」
「まあ、夢の中まで陛下が追いかけてきてくださるなんて、素敵なことだわ。もしかしたら、吉兆かもしれないわね」
ステファニアは夢の内容まで口にしてはいない。それなのに、養母はどういった夢を見たのか、知っているようだ。
「母上様……?」
わずかに眉根を寄せてステファニアは養母を見つめる。すると、養母は唇の端を歪めて意味ありげな笑いを浮かべた。
「……ここだけの話ですけれどね。陛下は精が薄いのではないか、と昔から囁かれているのですよ」
「え……? そんな……」
ステファニアは心にずっしりと沈み込んでくるような、重たい衝撃を感じて立ち尽くす。
予想はしていたのだが、当たっていてほしくないと心のどこかで思っていたのだ。
これまで養母は、ステファニアに優しく接してくれていた。ステファニアも実の母を失ったものと思ってからは、唯一の母として慕ってきたのだ。
ステファニアはこれまで築き上げてきた絆が、崩れ落ちていくのを感じる。もっとも、養母にしてみればステファニアが思うような絆など、最初からなかったのかもしれない。
何も言葉を交わすことはなく、淡々とリナはステファニアの湯浴みを手伝い、ステファニアは操り人形のようにされるがままとなって動く。
金属製の下穿きも取り外され、温かい湯に浸かってステファニアは一息ついた。
温かい湯はステファニアの心にもしみこんで、安らぎをもたらしてくれるようだった。
だんだんと余裕が生まれてくると、ステファニアはリナの行動に疑問を抱き始める。
そもそも、エルドナート侯爵邸にやすやすと不審者が入り込めるのがおかしい。手引きしている者がいると考えるのが自然だ。
何のためかといえば、ステファニアを懐妊させるためだろう。
だが、リナがステファニアに身に着けさせた下穿きにより、貞操は守られた。リナはおそらく企みを知っていたのだろうが、その企みからステファニアを守ったのだ。
ならば、ステファニアが懐妊することにより、もっとも利益を得るのは誰か。
考えるまでもなく、答えは出る。
もともとリナはエルドナート侯爵家からついてきた侍女だ。現在の主はステファニアであるとはいえ、エルドナート侯爵家の息がかかっていたところで、何の不思議もない。
それでも、リナはステファニアのことを優先して、守ってくれたのだろう。
先ほどからリナの口が重いのは、立場上、詳しいことを話せないためなのかもしれない。それならば、ステファニアも問い詰めることはしないよう心に刻む。
最初はリナが裏切ったのかとも疑ってしまったが、そうではなかった。ならば、リナを信じて、困らせるような行為は慎もうとステファニアは決意する。
湯浴みをすませ、準備を整えると、ステファニアは養母のもとへと向かった。
昨日と同じく、寝台の中から養母が出迎える。
「母上様、お加減はいかがですか?」
「今日はとても良いわ。あなたが来てくれて、大分良くなりましたよ」
「それはよろしゅうございましたわ。私は昨晩、とても生々しい夢を見て……」
「まあ、夢の中まで陛下が追いかけてきてくださるなんて、素敵なことだわ。もしかしたら、吉兆かもしれないわね」
ステファニアは夢の内容まで口にしてはいない。それなのに、養母はどういった夢を見たのか、知っているようだ。
「母上様……?」
わずかに眉根を寄せてステファニアは養母を見つめる。すると、養母は唇の端を歪めて意味ありげな笑いを浮かべた。
「……ここだけの話ですけれどね。陛下は精が薄いのではないか、と昔から囁かれているのですよ」
「え……? そんな……」
ステファニアは心にずっしりと沈み込んでくるような、重たい衝撃を感じて立ち尽くす。
予想はしていたのだが、当たっていてほしくないと心のどこかで思っていたのだ。
これまで養母は、ステファニアに優しく接してくれていた。ステファニアも実の母を失ったものと思ってからは、唯一の母として慕ってきたのだ。
ステファニアはこれまで築き上げてきた絆が、崩れ落ちていくのを感じる。もっとも、養母にしてみればステファニアが思うような絆など、最初からなかったのかもしれない。
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