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17.手紙

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 ある日、養父母からステファニアに手紙が届いた。
 珍しいことではない。月に一度くらいは手紙が届くのだ。
 いつもステファニアの体調を気遣う言葉と共に、身体に良いというお茶や、ときには子宝に恵まれるという怪しげな護符が添えられていることもあった。直接的な言葉はないが、内容を要約すれば『早く懐妊しろ』ということだ。

 エルドナート侯爵夫妻にしてみれば、養女がうまく国王の寵愛を得たまではよいが、肝心の世継ぎの王子をなかなか授からないことに気をもんでいることだろう。
 このままではステファニアが懐妊することなどありえないのだが、事情を知らない者が見れば、むしろ懐妊しないのはおかしいくらいだ。ステファニアに何か欠陥があるに違いないという噂が流れていることは、ステファニアも知っていた。
 養父母の期待に応えられないことは心苦しいが、こればかりはどうしようもない。申し訳ないと思いながらも、ステファニアにとって養父母から届く手紙は苦痛だった。

 ところがこの日の手紙は、懐妊を願う内容や怪しげな添え物はなく、養母が体調を崩して弱っており、ステファニアに会いたいと願っているという内容が書かれていた。

「母上様が……」

 手紙を読み終え、ステファニアは茫然と呟く。
 まだステファニアが養女になる前、行儀見習いとして世話になった当初から、養母は優しく接してくれていた。ステファニアにとっては今や、たった一人の母である。
 手紙には詳しい状態までは書かれていなかったが、どれほどつらい思いをしているのだろうかと、ステファニアの胸は締め付けられる。
 今すぐにでも、帰って会いたかった。

「どうかなさいましたか、ステファニア様」

 愕然としているステファニアを訝しんだのか、リナが声をかけてくる。

「母上様のお加減が悪くて……私に会いたいと願っているそうなの」

「エルドナート侯爵夫人が……ですか……」

 リナは驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には何かに気づいたように、顔をほんの少しだけ歪めた。

「……リナ? どうかしたの?」

「いえ……そういえば先日、ドロテア様の母君も体調が思わしくないという話がございましたね」

「ああ……そういえば、そうだったわね。二か月くらい前になるかしら。まさか、はやり病でも……?」

 一度悪い考えが頭をもたげると、ステファニアのなかで不安はどんどん膨れ上がっていく。両手を胸の前で組み合わせて、わなわなと震えそうになる身体を抑える。
 どんどん血の気が失せていくステファニアとは対照的に、リナは落ち着き払っていた。

「はやり病の話は聞いておりませんし、ドロテア様の母君もその後持ち直したそうでございますよ。あまり思い悩んでしまっては、ステファニア様のお心が心配でございます」

「……そうね……そうよね……あまり心配しすぎるのもよくないわよね……。でも……やっぱり、一度帰ってお会いしたいわ。里帰りを陛下にお願いしてみないと……」
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