17 / 77
17.手紙
しおりを挟む
ある日、養父母からステファニアに手紙が届いた。
珍しいことではない。月に一度くらいは手紙が届くのだ。
いつもステファニアの体調を気遣う言葉と共に、身体に良いというお茶や、ときには子宝に恵まれるという怪しげな護符が添えられていることもあった。直接的な言葉はないが、内容を要約すれば『早く懐妊しろ』ということだ。
エルドナート侯爵夫妻にしてみれば、養女がうまく国王の寵愛を得たまではよいが、肝心の世継ぎの王子をなかなか授からないことに気をもんでいることだろう。
このままではステファニアが懐妊することなどありえないのだが、事情を知らない者が見れば、むしろ懐妊しないのはおかしいくらいだ。ステファニアに何か欠陥があるに違いないという噂が流れていることは、ステファニアも知っていた。
養父母の期待に応えられないことは心苦しいが、こればかりはどうしようもない。申し訳ないと思いながらも、ステファニアにとって養父母から届く手紙は苦痛だった。
ところがこの日の手紙は、懐妊を願う内容や怪しげな添え物はなく、養母が体調を崩して弱っており、ステファニアに会いたいと願っているという内容が書かれていた。
「母上様が……」
手紙を読み終え、ステファニアは茫然と呟く。
まだステファニアが養女になる前、行儀見習いとして世話になった当初から、養母は優しく接してくれていた。ステファニアにとっては今や、たった一人の母である。
手紙には詳しい状態までは書かれていなかったが、どれほどつらい思いをしているのだろうかと、ステファニアの胸は締め付けられる。
今すぐにでも、帰って会いたかった。
「どうかなさいましたか、ステファニア様」
愕然としているステファニアを訝しんだのか、リナが声をかけてくる。
「母上様のお加減が悪くて……私に会いたいと願っているそうなの」
「エルドナート侯爵夫人が……ですか……」
リナは驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には何かに気づいたように、顔をほんの少しだけ歪めた。
「……リナ? どうかしたの?」
「いえ……そういえば先日、ドロテア様の母君も体調が思わしくないという話がございましたね」
「ああ……そういえば、そうだったわね。二か月くらい前になるかしら。まさか、はやり病でも……?」
一度悪い考えが頭をもたげると、ステファニアのなかで不安はどんどん膨れ上がっていく。両手を胸の前で組み合わせて、わなわなと震えそうになる身体を抑える。
どんどん血の気が失せていくステファニアとは対照的に、リナは落ち着き払っていた。
「はやり病の話は聞いておりませんし、ドロテア様の母君もその後持ち直したそうでございますよ。あまり思い悩んでしまっては、ステファニア様のお心が心配でございます」
「……そうね……そうよね……あまり心配しすぎるのもよくないわよね……。でも……やっぱり、一度帰ってお会いしたいわ。里帰りを陛下にお願いしてみないと……」
珍しいことではない。月に一度くらいは手紙が届くのだ。
いつもステファニアの体調を気遣う言葉と共に、身体に良いというお茶や、ときには子宝に恵まれるという怪しげな護符が添えられていることもあった。直接的な言葉はないが、内容を要約すれば『早く懐妊しろ』ということだ。
エルドナート侯爵夫妻にしてみれば、養女がうまく国王の寵愛を得たまではよいが、肝心の世継ぎの王子をなかなか授からないことに気をもんでいることだろう。
このままではステファニアが懐妊することなどありえないのだが、事情を知らない者が見れば、むしろ懐妊しないのはおかしいくらいだ。ステファニアに何か欠陥があるに違いないという噂が流れていることは、ステファニアも知っていた。
養父母の期待に応えられないことは心苦しいが、こればかりはどうしようもない。申し訳ないと思いながらも、ステファニアにとって養父母から届く手紙は苦痛だった。
ところがこの日の手紙は、懐妊を願う内容や怪しげな添え物はなく、養母が体調を崩して弱っており、ステファニアに会いたいと願っているという内容が書かれていた。
「母上様が……」
手紙を読み終え、ステファニアは茫然と呟く。
まだステファニアが養女になる前、行儀見習いとして世話になった当初から、養母は優しく接してくれていた。ステファニアにとっては今や、たった一人の母である。
手紙には詳しい状態までは書かれていなかったが、どれほどつらい思いをしているのだろうかと、ステファニアの胸は締め付けられる。
今すぐにでも、帰って会いたかった。
「どうかなさいましたか、ステファニア様」
愕然としているステファニアを訝しんだのか、リナが声をかけてくる。
「母上様のお加減が悪くて……私に会いたいと願っているそうなの」
「エルドナート侯爵夫人が……ですか……」
リナは驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には何かに気づいたように、顔をほんの少しだけ歪めた。
「……リナ? どうかしたの?」
「いえ……そういえば先日、ドロテア様の母君も体調が思わしくないという話がございましたね」
「ああ……そういえば、そうだったわね。二か月くらい前になるかしら。まさか、はやり病でも……?」
一度悪い考えが頭をもたげると、ステファニアのなかで不安はどんどん膨れ上がっていく。両手を胸の前で組み合わせて、わなわなと震えそうになる身体を抑える。
どんどん血の気が失せていくステファニアとは対照的に、リナは落ち着き払っていた。
「はやり病の話は聞いておりませんし、ドロテア様の母君もその後持ち直したそうでございますよ。あまり思い悩んでしまっては、ステファニア様のお心が心配でございます」
「……そうね……そうよね……あまり心配しすぎるのもよくないわよね……。でも……やっぱり、一度帰ってお会いしたいわ。里帰りを陛下にお願いしてみないと……」
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
可愛すぎてつらい
羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。
初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。
初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。
しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。
***
なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。
ムーンさんでも同じものを投稿しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる