15 / 77
15.招かれざる来訪者
しおりを挟む
宴の日から数日が過ぎ、里帰りをしていた寵姫のドロテアが後宮に戻ってきた。
ゴドフレードはドロテアの部屋に渡るという連絡がきたが、念のためにステファニアはいつゴドフレードが訪れてもよいように準備をしておく。
ほぼ毎日のようにステファニアの部屋で夜を明かすゴドフレードだが、他の寵姫の部屋に渡ることも多い。寵姫たちを完全に放置するわけではなく、いちおう顔を見せているのだ。
ただ、本当に顔を見せるだけで終わることが多く、その後はステファニアの部屋を訪れることになるのだが。
しかし、この日はとうとうゴドフレードがステファニアの部屋に顔を現すことはなかった。一人で眠りについたステファニアが目覚めても、誰かが来たような気配はない。
後宮の中でも広い一画を与えられているステファニアは、普段は自らに与えられた一画から出ることはない。その一画には、色とりどりの花が咲き乱れる中庭があり、日よけとなるあずまやも置かれている。
暖かい日にはあずまやで読書をしたり、侍女たちと共にお茶を楽しんだりするのが、ステファニアのお気に入りだった。
今日は天気が良いので、ステファニアはあずまやで本を読んで過ごすことにした。リナを始めとした侍女たちが控えているが、ステファニアの読書を妨げることはない。彼女らはおとなしく黙ったまま、いつでも主の命令に応えられるよう、待機していた。
ステファニアが後宮入りした最初の頃こそ、他の寵姫たちからの嫌がらせが多かったものの、ゴドフレードの寵愛が揺るがないことが明らかになるにつれて次第に減っていき、今ではほとんど表面化することはなくなっている。
養家であるエルドナート侯爵家が、名門の上級貴族だったこともあるだろう。
元の男爵家のままでは後宮に上がることも不可能だっただろうし、仮にどうにか潜り込んだとしても、身分を理由に虐げられていたはずだ。
しかし、今のステファニアの身分は侯爵令嬢であり、エルドナート侯爵家が後ろ盾である以上、他の寵姫たちも大それたことはできない。
自らの一画からなかなか出ないステファニアは、他の寵姫たちと顔を合わせる機会も少ない。侍女たちはそうもいかないが、頭の回転が速く、口もたつリナがうまくあしらっていた。
たまに顔を合わせれば嫌そうな目で見られたり、ひそひそと嫌味を囁かれたりすることはあるが、その程度だ。
何だかんだといっても国王の寵愛が深いステファニアは、後宮一の女性であり、正面からたてつく者はいない。
――ただ一名を除いては。
「ごきげんよう、ステファニア様。良いお天気ですこと」
「……ごきげんよう、ドロテア様」
わざわざステファニアの住まう一画まで、数名の侍女を率いてドロテアがやってきたのだ。
ゴドフレードはドロテアの部屋に渡るという連絡がきたが、念のためにステファニアはいつゴドフレードが訪れてもよいように準備をしておく。
ほぼ毎日のようにステファニアの部屋で夜を明かすゴドフレードだが、他の寵姫の部屋に渡ることも多い。寵姫たちを完全に放置するわけではなく、いちおう顔を見せているのだ。
ただ、本当に顔を見せるだけで終わることが多く、その後はステファニアの部屋を訪れることになるのだが。
しかし、この日はとうとうゴドフレードがステファニアの部屋に顔を現すことはなかった。一人で眠りについたステファニアが目覚めても、誰かが来たような気配はない。
後宮の中でも広い一画を与えられているステファニアは、普段は自らに与えられた一画から出ることはない。その一画には、色とりどりの花が咲き乱れる中庭があり、日よけとなるあずまやも置かれている。
暖かい日にはあずまやで読書をしたり、侍女たちと共にお茶を楽しんだりするのが、ステファニアのお気に入りだった。
今日は天気が良いので、ステファニアはあずまやで本を読んで過ごすことにした。リナを始めとした侍女たちが控えているが、ステファニアの読書を妨げることはない。彼女らはおとなしく黙ったまま、いつでも主の命令に応えられるよう、待機していた。
ステファニアが後宮入りした最初の頃こそ、他の寵姫たちからの嫌がらせが多かったものの、ゴドフレードの寵愛が揺るがないことが明らかになるにつれて次第に減っていき、今ではほとんど表面化することはなくなっている。
養家であるエルドナート侯爵家が、名門の上級貴族だったこともあるだろう。
元の男爵家のままでは後宮に上がることも不可能だっただろうし、仮にどうにか潜り込んだとしても、身分を理由に虐げられていたはずだ。
しかし、今のステファニアの身分は侯爵令嬢であり、エルドナート侯爵家が後ろ盾である以上、他の寵姫たちも大それたことはできない。
自らの一画からなかなか出ないステファニアは、他の寵姫たちと顔を合わせる機会も少ない。侍女たちはそうもいかないが、頭の回転が速く、口もたつリナがうまくあしらっていた。
たまに顔を合わせれば嫌そうな目で見られたり、ひそひそと嫌味を囁かれたりすることはあるが、その程度だ。
何だかんだといっても国王の寵愛が深いステファニアは、後宮一の女性であり、正面からたてつく者はいない。
――ただ一名を除いては。
「ごきげんよう、ステファニア様。良いお天気ですこと」
「……ごきげんよう、ドロテア様」
わざわざステファニアの住まう一画まで、数名の侍女を率いてドロテアがやってきたのだ。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される
狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった
公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む
すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて…
全編甘々を目指しています。
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる
玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。
カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。
目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。
憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。
ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。
※内容の一部に残酷描写が含まれます。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる