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14.不安
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「そうだ、国境の争いで我が国が勝利したとの知らせがあった。まだ先触れだけで、後処理も残っているが、騎士たちが帰ってきたら戦勝の祝いをせねばな」
疲れているステファニアを気遣ったのか、ゴドフレードが別の話題を持ち出す。
「まあ……それは、おめでたいことですわね」
騎士と聞いて、わずかな痛みがステファニアの胸に走ったが、良い内容の話におかしな顔をするわけにもいかず、穏やかに微笑む。
ステファニアが後宮入りしてから、アドリアンの話を聞いたことはなかった。宴にもときおり出席しているが、それらしい姿を見かけたこともない。
想いは封じたとはいえ、いざ彼を目にしてしまえば動揺を抑えられる自信はない。いっそこのまま、二度と会いませんように、とステファニアは祈る。
「まだ先のことだが、盛大な宴を開かねばな」
「……また、宴ですか」
ぼんやりと考え込んでいたところにゴドフレードの呟きが聞こえ、ステファニアはつい本音が口から漏れてしまう。
それでもゴドフレードは咎めることもなく、くつくつと笑うだけだ。
「宴は嫌いか?」
「……得意ではございません」
「まあ、そう言うな。長きに渡って辺境で戦ってくれた騎士たちも、ようやく戻ってこられるのだ。我が国のために尽くしてくれた英雄たちの労をねぎらってやらねばなるまい」
「はい……」
ゴドフレードに諭され、ステファニアは頷く。
至極もっともな話である。退屈だなどと言いながら、後宮でのんびりと暮らしているステファニアには想像もつかないような、過酷な世界を騎士たちは生き抜いてきたのだ。彼らがそうして命をかけてくれているからこそ、ステファニアも不自由なく生きていられる。
彼らに比べれば、宴の疲れなどは苦労のうちにも入らないだろう。やたらとステファニアの健康を気遣われ、懐妊しない役立たずと遠まわしに囁かれる程度、生死に関わるわけでもない。
ステファニアは、自分は恵まれているのだと、己に言い聞かせる。
「さて、もう少し頑張るか。次の鐘が鳴れば、退出しても差し支えないだろう。それまでの辛抱だ」
ゴドフレードの励ましの言葉を受け、ステファニアは意識を集中して、にこやかな笑みを作った。せめて第一寵姫としての役割を果たそうと、背筋を伸ばして国王の隣に寄り添いながら、広間を見回す。
人々が思い思いに歓談したり料理に手を伸ばしたりしているなか、ふと、エルドナート侯爵夫妻がバルトロ大公と何かを話しているのが、ステファニアの目に留まった。
別におかしなことではない。この宴に出席しているのはそれなりの身分がある者たちであり、そのなかで誰と誰が話そうと不思議はない。このような場で密談もないだろう。
しかし、ステファニアの心には不安な感覚が呼び起こされ、顔にはにこやかな笑みを貼り付けながらも、宴の間ずっと、もやもやとした暗いものが胸の奥で消えることなく淀んでいたのだった。
疲れているステファニアを気遣ったのか、ゴドフレードが別の話題を持ち出す。
「まあ……それは、おめでたいことですわね」
騎士と聞いて、わずかな痛みがステファニアの胸に走ったが、良い内容の話におかしな顔をするわけにもいかず、穏やかに微笑む。
ステファニアが後宮入りしてから、アドリアンの話を聞いたことはなかった。宴にもときおり出席しているが、それらしい姿を見かけたこともない。
想いは封じたとはいえ、いざ彼を目にしてしまえば動揺を抑えられる自信はない。いっそこのまま、二度と会いませんように、とステファニアは祈る。
「まだ先のことだが、盛大な宴を開かねばな」
「……また、宴ですか」
ぼんやりと考え込んでいたところにゴドフレードの呟きが聞こえ、ステファニアはつい本音が口から漏れてしまう。
それでもゴドフレードは咎めることもなく、くつくつと笑うだけだ。
「宴は嫌いか?」
「……得意ではございません」
「まあ、そう言うな。長きに渡って辺境で戦ってくれた騎士たちも、ようやく戻ってこられるのだ。我が国のために尽くしてくれた英雄たちの労をねぎらってやらねばなるまい」
「はい……」
ゴドフレードに諭され、ステファニアは頷く。
至極もっともな話である。退屈だなどと言いながら、後宮でのんびりと暮らしているステファニアには想像もつかないような、過酷な世界を騎士たちは生き抜いてきたのだ。彼らがそうして命をかけてくれているからこそ、ステファニアも不自由なく生きていられる。
彼らに比べれば、宴の疲れなどは苦労のうちにも入らないだろう。やたらとステファニアの健康を気遣われ、懐妊しない役立たずと遠まわしに囁かれる程度、生死に関わるわけでもない。
ステファニアは、自分は恵まれているのだと、己に言い聞かせる。
「さて、もう少し頑張るか。次の鐘が鳴れば、退出しても差し支えないだろう。それまでの辛抱だ」
ゴドフレードの励ましの言葉を受け、ステファニアは意識を集中して、にこやかな笑みを作った。せめて第一寵姫としての役割を果たそうと、背筋を伸ばして国王の隣に寄り添いながら、広間を見回す。
人々が思い思いに歓談したり料理に手を伸ばしたりしているなか、ふと、エルドナート侯爵夫妻がバルトロ大公と何かを話しているのが、ステファニアの目に留まった。
別におかしなことではない。この宴に出席しているのはそれなりの身分がある者たちであり、そのなかで誰と誰が話そうと不思議はない。このような場で密談もないだろう。
しかし、ステファニアの心には不安な感覚が呼び起こされ、顔にはにこやかな笑みを貼り付けながらも、宴の間ずっと、もやもやとした暗いものが胸の奥で消えることなく淀んでいたのだった。
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