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07.養女
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エルドナート侯爵家の養女となったサラは、新たにステファニアという名を与えられ、礼儀作法や教養を叩き込まれることになった。
これまでの行儀見習いよりも厳しい日々が続くが、もはや帰る場所などないサラは弱音を吐くこともなく頑張った。捨てられた自分を引き取ってくれたエルドナート侯爵夫妻に対する恩を少しでも返すには、侯爵令嬢としてふさわしい娘になるしかないと、サラは思っていたのだ。
今まで奥方付きの侍女だったサラが、今度は自分付きの侍女を持つ身になった。急いで駆け回ることなどなくなり、ゆったりと優雅に振る舞うことが求められる。用があれば侍女に命じればよいのだから、大声など出すこともない。
着るものは滑らかな絹になった。上質で柔らかい絹の下着はうっとりとするようなさわり心地で、ドレスもまた絹だ。
風呂でも絹の布で優しく肌を磨かれ、風呂上りには香油で肌を整えられる。薔薇や茉莉花、白檀といった高価な香油が惜しげもなく使われた。
極上の環境で徹底的に磨き上げられたサラは、香り立つ大輪の薔薇のような娘に育っていった。
やがてサラは十六歳を迎え、結婚を意識するようになっていた。
母に裏切られて以来、心の一部を閉ざしてしまったサラだったが、アドリアンとの約束はいつも心にほのかな明かりを灯してくれる。
ステファニアという名で呼ばれるようになってから四年が経つが、それでもサラにとって本当の自分は、サラという名前のままだった。その名をつけてくれた親との縁は切れたが、アドリアンと心が繋がっているのはサラという名の少女なのだ。
今やサラはエルドナート侯爵家の養女となり、約束のときと状況は異なるが、アドリアンも貴族の子息である。侯爵家よりは格下だが、騎士としては有望であるらしく、ときおりエルドナート侯爵家に噂が流れてくることもあった。
そう悪くないはずだと、サラはこっそり思っている。
アドリアンが待ってくれと言っていた四年が経ち、サラもそれなりに立派な淑女になれたという自負があった。
これまでは礼儀作法や教養などを学ぶために忙しかったが、ひととおり学び終えた今は、やっと会うことも叶うようになるはずだった。
「母上様、アドリアン様のお加減はいかがでしょうか?」
サラは養母となった奥方のことを『母上様』と呼ぶようになっていた。アドリアンに会いたいと切り出すつもりで、それとなく様子をうかがってみる。
「まあ、もしかしてもう噂を聞いたのかしら?」
「噂……ですか?」
ところが、奥方から返ってきたのは意外な答えだった。サラは思い当たることが浮かばずに首を傾げる。
「婚約したそうよ。お相手は子爵令嬢だったかしら。身分もぴったりつりあって、お似合いだったはずよ」
これまでの行儀見習いよりも厳しい日々が続くが、もはや帰る場所などないサラは弱音を吐くこともなく頑張った。捨てられた自分を引き取ってくれたエルドナート侯爵夫妻に対する恩を少しでも返すには、侯爵令嬢としてふさわしい娘になるしかないと、サラは思っていたのだ。
今まで奥方付きの侍女だったサラが、今度は自分付きの侍女を持つ身になった。急いで駆け回ることなどなくなり、ゆったりと優雅に振る舞うことが求められる。用があれば侍女に命じればよいのだから、大声など出すこともない。
着るものは滑らかな絹になった。上質で柔らかい絹の下着はうっとりとするようなさわり心地で、ドレスもまた絹だ。
風呂でも絹の布で優しく肌を磨かれ、風呂上りには香油で肌を整えられる。薔薇や茉莉花、白檀といった高価な香油が惜しげもなく使われた。
極上の環境で徹底的に磨き上げられたサラは、香り立つ大輪の薔薇のような娘に育っていった。
やがてサラは十六歳を迎え、結婚を意識するようになっていた。
母に裏切られて以来、心の一部を閉ざしてしまったサラだったが、アドリアンとの約束はいつも心にほのかな明かりを灯してくれる。
ステファニアという名で呼ばれるようになってから四年が経つが、それでもサラにとって本当の自分は、サラという名前のままだった。その名をつけてくれた親との縁は切れたが、アドリアンと心が繋がっているのはサラという名の少女なのだ。
今やサラはエルドナート侯爵家の養女となり、約束のときと状況は異なるが、アドリアンも貴族の子息である。侯爵家よりは格下だが、騎士としては有望であるらしく、ときおりエルドナート侯爵家に噂が流れてくることもあった。
そう悪くないはずだと、サラはこっそり思っている。
アドリアンが待ってくれと言っていた四年が経ち、サラもそれなりに立派な淑女になれたという自負があった。
これまでは礼儀作法や教養などを学ぶために忙しかったが、ひととおり学び終えた今は、やっと会うことも叶うようになるはずだった。
「母上様、アドリアン様のお加減はいかがでしょうか?」
サラは養母となった奥方のことを『母上様』と呼ぶようになっていた。アドリアンに会いたいと切り出すつもりで、それとなく様子をうかがってみる。
「まあ、もしかしてもう噂を聞いたのかしら?」
「噂……ですか?」
ところが、奥方から返ってきたのは意外な答えだった。サラは思い当たることが浮かばずに首を傾げる。
「婚約したそうよ。お相手は子爵令嬢だったかしら。身分もぴったりつりあって、お似合いだったはずよ」
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