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04.約束
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「え……!?」
鐘の音を捧げるとは、すなわちプロポーズの意である。
昼間の記憶を思い出して頬が熱くなってくるのを感じていたサラだったが、それ以上の熱が顔どころか身体全体を包み込んでいく。
互いに憎からず思っていることは薄々気づいていたが、はっきりとした言葉を伝えられるのは、初めてである。しかも、それが段階を飛ばしていきなりプロポーズだ。サラにとっては唐突すぎて、理解が追いつかない。
「サラが行儀見習いを終える頃には、俺も一人前になれるように頑張って、迎えに来るよ。サラの実家にも、良い相手を見つけたと喜んでもらえるくらいになるからさ」
「……アドリアン」
サラは目を見開きながら、アドリアンの顔を見つめることしかできなかった。地に足がついたまま、立っていられることが不思議なほど、足の感覚がない。全身は熱さに包まれ、それ以外の感覚も、音や景色すらサラの世界から遮断されたようだ。
目の前に立つアドリアンしか、この世に存在していないかのようだった。
「俺も頑張るから、サラも行儀見習いを頑張れよ。俺のために、な」
堅苦しくなった雰囲気をほぐすように、アドリアンはおどけたような言葉を付け足して、にやりと笑った。あまりにも自信たっぷりの態度に、サラはつい呆れてしまう。
「……私があなたのプロポーズを受けるのは、決定事項なの?」
「受けるだろ?」
このまま受け入れるのは何となく癪で、言い返したサラだったが、あっさりと返されてしまい、閉口するしかなかった。
さらに言い返そうかとも考えたのだが、もう何を言っても無駄な気がして、サラは苦笑と共に降参することにした。
「……わかったわよ。あなたが立派な騎士になるのを楽しみにしているわ」
「仰せのとおりに、姫様」
大げさな身振りで淑女に対する騎士の礼をとり、アドリアンは跪く。サラもつんと澄ましながら細い手を差し出すと、アドリアンはその手をとって、手の甲に口づけた。
「……気恥ずかしいわね」
淑女を気取っていたサラだったが、本音をぽつりと漏らしてしまう。すると、真面目ぶっていたアドリアンも照れくさそうに表情を崩して、立ち上がった。
「うん、まあ……でも、プロポーズってこういうものだろ?」
アドリアンはサラからわずかに視線をそらし、ぼそぼそと呟く。
少し頬が赤くなっているアドリアンを見て、サラは自信にあふれているように見えた彼にも照れがあるのだと、微笑ましくなってきた。
「五年……いや、四年。立派な騎士になって迎えに来るから、待っていてくれ」
「ええ、私も騎士の奥方にふさわしくなれるよう、頑張るわ」
二人は微笑みながら、誓いを交わす。
甘く、優しく、やわらかい恋の炎が灯る。ゆっくりと育んでいこうと、そっと唇を触れ合わせる二人は、未来への希望に胸を輝かせていた。
二人は、世の中に吹く風のことも、その前では淡い炎などあっさりと消えてしまうほど儚いものであることも、まだ知らない。
鐘の音を捧げるとは、すなわちプロポーズの意である。
昼間の記憶を思い出して頬が熱くなってくるのを感じていたサラだったが、それ以上の熱が顔どころか身体全体を包み込んでいく。
互いに憎からず思っていることは薄々気づいていたが、はっきりとした言葉を伝えられるのは、初めてである。しかも、それが段階を飛ばしていきなりプロポーズだ。サラにとっては唐突すぎて、理解が追いつかない。
「サラが行儀見習いを終える頃には、俺も一人前になれるように頑張って、迎えに来るよ。サラの実家にも、良い相手を見つけたと喜んでもらえるくらいになるからさ」
「……アドリアン」
サラは目を見開きながら、アドリアンの顔を見つめることしかできなかった。地に足がついたまま、立っていられることが不思議なほど、足の感覚がない。全身は熱さに包まれ、それ以外の感覚も、音や景色すらサラの世界から遮断されたようだ。
目の前に立つアドリアンしか、この世に存在していないかのようだった。
「俺も頑張るから、サラも行儀見習いを頑張れよ。俺のために、な」
堅苦しくなった雰囲気をほぐすように、アドリアンはおどけたような言葉を付け足して、にやりと笑った。あまりにも自信たっぷりの態度に、サラはつい呆れてしまう。
「……私があなたのプロポーズを受けるのは、決定事項なの?」
「受けるだろ?」
このまま受け入れるのは何となく癪で、言い返したサラだったが、あっさりと返されてしまい、閉口するしかなかった。
さらに言い返そうかとも考えたのだが、もう何を言っても無駄な気がして、サラは苦笑と共に降参することにした。
「……わかったわよ。あなたが立派な騎士になるのを楽しみにしているわ」
「仰せのとおりに、姫様」
大げさな身振りで淑女に対する騎士の礼をとり、アドリアンは跪く。サラもつんと澄ましながら細い手を差し出すと、アドリアンはその手をとって、手の甲に口づけた。
「……気恥ずかしいわね」
淑女を気取っていたサラだったが、本音をぽつりと漏らしてしまう。すると、真面目ぶっていたアドリアンも照れくさそうに表情を崩して、立ち上がった。
「うん、まあ……でも、プロポーズってこういうものだろ?」
アドリアンはサラからわずかに視線をそらし、ぼそぼそと呟く。
少し頬が赤くなっているアドリアンを見て、サラは自信にあふれているように見えた彼にも照れがあるのだと、微笑ましくなってきた。
「五年……いや、四年。立派な騎士になって迎えに来るから、待っていてくれ」
「ええ、私も騎士の奥方にふさわしくなれるよう、頑張るわ」
二人は微笑みながら、誓いを交わす。
甘く、優しく、やわらかい恋の炎が灯る。ゆっくりと育んでいこうと、そっと唇を触れ合わせる二人は、未来への希望に胸を輝かせていた。
二人は、世の中に吹く風のことも、その前では淡い炎などあっさりと消えてしまうほど儚いものであることも、まだ知らない。
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