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74.貞操喪失1
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晴人は今現在起こっている出来事についていけなかった。
セイが先代の神子だった。そして、魔素を封じるのは神子の身で、晴人が今回の生贄だという。
「セイ……まさか……今まで、ずっと騙していたの……?」
セイから身を離し、よろけそうになる足を叱咤して立ち続けながら、晴人は問いかける。
魔素を封じる決意をしたのも、セイのためと思ったからだ。それなのにセイは晴人を利用していただけだというのか。
「騙していたわけじゃない。僕は嘘を言った覚えはないよ。神子は、順番に帰っていっていると言っただろう」
「だからといって……」
晴人は口ごもり、拳を握り締める。胸のうちには失望や悲しみなどがごちゃごちゃとわきあがり、考えがまとまらない。
まさか、セイは自分が帰りたいがため、晴人をこの道に仕向けたというのだろうか。相手に対する思いは晴人の一方通行だったのだろうか。
「……これは、賭けだった。本来ならば水晶に触れた時点で、神子による魔素吸収は自動的に始まるんだ。僕のときもそうだった。でも、きみの場合は何も起こらない。きっと、きみが今まで交わりで魔素を受け入れたことがないせいだろうね」
セイは立ち尽くす晴人の頬にそっと手を伸ばす。
「もし、魔素吸収が始まったとしたら、僕は自分が消滅するまできみの側にいようと決めていた。過去にそうした例は聞いたことがないから、僕はいったいいつまで生きられるのかわからなかったけれど、できるかぎり側にいようと思った。三百年の孤独はつらいからね」
透明感のある笑みを浮かべたセイの手が、優しく晴人の頬を撫でる。
晴人は呆然と立ち尽くしたまま、セイの話を聞いていた。
セイは晴人を生贄にして帰ろうとしていたわけではないのか。側にいようとしてくれていたのか。
しかしそれならば何故、魔素吸収の可能性がある水晶に触れさせたのだろう。
「でも、僕はきみがまだ貞操を守りぬいていることに賭けた。魔素吸収は始まらないんじゃないか、ってね。もしそうなら、僕は肉体を取り戻すことができた上で、まだ肉体を持ったままのきみに触れることができるんじゃないかと思った。……僕は賭けに勝ったんだよ!」
高らかに宣言すると、セイは晴人の腰を引き寄せた。
二人の体格はさほど変わらず、晴人の真正面にセイの顔がある。
精霊の姿だった頃から整った顔だとは思っていたが、間近で見てもやはりセイの顔は整っていた。晴人はどぎまぎしてしまう。
何か言わなくては口を開きかけたが、セイの唇が晴人の唇を塞いだ。
「……っ!?」
飛び上がらんばかりに驚き、晴人は声にならない叫びをあげる。
つい先ほどのインプ相手が、晴人のファーストキスだったのだ。ほとんど時間も経っていないのに、もうはやセカンドキスである。
しかも相手がセイだと思えば、晴人の頭の中は白く溶け落ちるような衝撃に満たされる。
「ここの初めてはあの魔物に奪われちゃったけれど……こっちはまだだよね」
ややあって唇を離すと、セイは手を晴人の腰から尻にかけて這わせる。
「ちょっ……ちょっとセイさん、ど、どういうことでしょうかっ!?」
さらなる衝撃が晴人を襲い、動転しながら晴人は叫ぶ。
「これからどうするにせよ、まずはきみに魔素の取り込み方を教えないと。僕が肉体を取り戻した以上、もう遠慮はいらない。僕が貫通式をやってあげようじゃないか」
セイが先代の神子だった。そして、魔素を封じるのは神子の身で、晴人が今回の生贄だという。
「セイ……まさか……今まで、ずっと騙していたの……?」
セイから身を離し、よろけそうになる足を叱咤して立ち続けながら、晴人は問いかける。
魔素を封じる決意をしたのも、セイのためと思ったからだ。それなのにセイは晴人を利用していただけだというのか。
「騙していたわけじゃない。僕は嘘を言った覚えはないよ。神子は、順番に帰っていっていると言っただろう」
「だからといって……」
晴人は口ごもり、拳を握り締める。胸のうちには失望や悲しみなどがごちゃごちゃとわきあがり、考えがまとまらない。
まさか、セイは自分が帰りたいがため、晴人をこの道に仕向けたというのだろうか。相手に対する思いは晴人の一方通行だったのだろうか。
「……これは、賭けだった。本来ならば水晶に触れた時点で、神子による魔素吸収は自動的に始まるんだ。僕のときもそうだった。でも、きみの場合は何も起こらない。きっと、きみが今まで交わりで魔素を受け入れたことがないせいだろうね」
セイは立ち尽くす晴人の頬にそっと手を伸ばす。
「もし、魔素吸収が始まったとしたら、僕は自分が消滅するまできみの側にいようと決めていた。過去にそうした例は聞いたことがないから、僕はいったいいつまで生きられるのかわからなかったけれど、できるかぎり側にいようと思った。三百年の孤独はつらいからね」
透明感のある笑みを浮かべたセイの手が、優しく晴人の頬を撫でる。
晴人は呆然と立ち尽くしたまま、セイの話を聞いていた。
セイは晴人を生贄にして帰ろうとしていたわけではないのか。側にいようとしてくれていたのか。
しかしそれならば何故、魔素吸収の可能性がある水晶に触れさせたのだろう。
「でも、僕はきみがまだ貞操を守りぬいていることに賭けた。魔素吸収は始まらないんじゃないか、ってね。もしそうなら、僕は肉体を取り戻すことができた上で、まだ肉体を持ったままのきみに触れることができるんじゃないかと思った。……僕は賭けに勝ったんだよ!」
高らかに宣言すると、セイは晴人の腰を引き寄せた。
二人の体格はさほど変わらず、晴人の真正面にセイの顔がある。
精霊の姿だった頃から整った顔だとは思っていたが、間近で見てもやはりセイの顔は整っていた。晴人はどぎまぎしてしまう。
何か言わなくては口を開きかけたが、セイの唇が晴人の唇を塞いだ。
「……っ!?」
飛び上がらんばかりに驚き、晴人は声にならない叫びをあげる。
つい先ほどのインプ相手が、晴人のファーストキスだったのだ。ほとんど時間も経っていないのに、もうはやセカンドキスである。
しかも相手がセイだと思えば、晴人の頭の中は白く溶け落ちるような衝撃に満たされる。
「ここの初めてはあの魔物に奪われちゃったけれど……こっちはまだだよね」
ややあって唇を離すと、セイは手を晴人の腰から尻にかけて這わせる。
「ちょっ……ちょっとセイさん、ど、どういうことでしょうかっ!?」
さらなる衝撃が晴人を襲い、動転しながら晴人は叫ぶ。
「これからどうするにせよ、まずはきみに魔素の取り込み方を教えないと。僕が肉体を取り戻した以上、もう遠慮はいらない。僕が貫通式をやってあげようじゃないか」
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