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72.真実1
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インプが消え去った後も、晴人は腕を解かないままじっとインプのいた場所を見つめていた。
先ほどまで温もりを伝えてきた場所は、もう空っぽだ。触れようとしても、もう触れることはできない。
神子だというのに、晴人はインプを救うことはできなかった。浄化を拒み、自ら魔素を暴走させて消滅することを選んだのだ。
結局、絶望から引き上げることはできなかった。
晴人は無力感に苛まれ、力なく腕を下ろして俯く。
「ハルト……あの魔物は、幸せな最期を迎えることができたと思うよ。僕だって……きみの腕の中で最期を迎えることができたら、後悔なんてないだろう……」
静かなセイの声にはっとして、晴人は沈んでいた顔を上げる。
「セイ……セイまでおかしなことを言わないでくれよ……最期がどうのなんて……」
頬に伝う涙をぬぐいながら、晴人はセイを見つめる。晴人が魔素を封じることを選んだのは、そうしなくてはセイの存在が消えてしまうかもしれないからだ。それなのに、最期などと口にしてほしくはなかった。
セイは苦笑を浮かべて、軽く首を振る。
「言葉のあやだよ。さあ、この扉をくぐればすぐだ。進もう」
扉の奥に進んでいくと、大きな一本の水晶らしき柱が立っていた。晴人が見上げなくてはならないほど巨大で、黒に近い灰色をしている。
「あれが魔素の源だよ」
セイが水晶を指し示す。確かに、濃い魔素が渦巻いているのが晴人にも見える。水晶の内側からあふれているようでもあった。
「あれを封じればいいの? でも、どうやって?」
「水晶に手を触れてみて」
言われたとおり、晴人は水晶に近づく。おそらく普通の人間ならば一瞬で魔物化してしまいそうなほどの魔素だが、晴人の身には何の影響も及ぼさない。何事もなく水晶の前までたどりつくことができた。
「……これで、セイとはお別れなの?」
いざ水晶に手を触れようとして、晴人はいったん手を止める。
すでに魔素を封じることは決定済みで、そうすればセイと別れることになるのも納得済みだ。しかし、やはり未練は残る。
「……すぐに元の世界に戻るわけじゃないよ。きみが戻るまでの間、僕は側にいるよ。ずっと、側にいる……」
悲痛なセイの声を聞いて、晴人は涙がこみあげてきそうになる。
セイは三百年も孤独だったのだ。晴人が元の世界に戻ってしまえば、また孤独になるのだろう。
セイには幸せになってもらいたい。
しかし、晴人にはセイを孤独にすることしかできないのだ。
魔素を封じなければセイの消滅を招くというのなら、消滅よりはましだろうと選んだ道だったが、はたして孤独に戻ることが幸せなのだろうか。
悩んでも、答えは出ない。どの道を選んでも、すべてに満足という結果はありえないのだろう。
晴人は思いを振り払うように目を閉じ、水晶に触れた。
先ほどまで温もりを伝えてきた場所は、もう空っぽだ。触れようとしても、もう触れることはできない。
神子だというのに、晴人はインプを救うことはできなかった。浄化を拒み、自ら魔素を暴走させて消滅することを選んだのだ。
結局、絶望から引き上げることはできなかった。
晴人は無力感に苛まれ、力なく腕を下ろして俯く。
「ハルト……あの魔物は、幸せな最期を迎えることができたと思うよ。僕だって……きみの腕の中で最期を迎えることができたら、後悔なんてないだろう……」
静かなセイの声にはっとして、晴人は沈んでいた顔を上げる。
「セイ……セイまでおかしなことを言わないでくれよ……最期がどうのなんて……」
頬に伝う涙をぬぐいながら、晴人はセイを見つめる。晴人が魔素を封じることを選んだのは、そうしなくてはセイの存在が消えてしまうかもしれないからだ。それなのに、最期などと口にしてほしくはなかった。
セイは苦笑を浮かべて、軽く首を振る。
「言葉のあやだよ。さあ、この扉をくぐればすぐだ。進もう」
扉の奥に進んでいくと、大きな一本の水晶らしき柱が立っていた。晴人が見上げなくてはならないほど巨大で、黒に近い灰色をしている。
「あれが魔素の源だよ」
セイが水晶を指し示す。確かに、濃い魔素が渦巻いているのが晴人にも見える。水晶の内側からあふれているようでもあった。
「あれを封じればいいの? でも、どうやって?」
「水晶に手を触れてみて」
言われたとおり、晴人は水晶に近づく。おそらく普通の人間ならば一瞬で魔物化してしまいそうなほどの魔素だが、晴人の身には何の影響も及ぼさない。何事もなく水晶の前までたどりつくことができた。
「……これで、セイとはお別れなの?」
いざ水晶に手を触れようとして、晴人はいったん手を止める。
すでに魔素を封じることは決定済みで、そうすればセイと別れることになるのも納得済みだ。しかし、やはり未練は残る。
「……すぐに元の世界に戻るわけじゃないよ。きみが戻るまでの間、僕は側にいるよ。ずっと、側にいる……」
悲痛なセイの声を聞いて、晴人は涙がこみあげてきそうになる。
セイは三百年も孤独だったのだ。晴人が元の世界に戻ってしまえば、また孤独になるのだろう。
セイには幸せになってもらいたい。
しかし、晴人にはセイを孤独にすることしかできないのだ。
魔素を封じなければセイの消滅を招くというのなら、消滅よりはましだろうと選んだ道だったが、はたして孤独に戻ることが幸せなのだろうか。
悩んでも、答えは出ない。どの道を選んでも、すべてに満足という結果はありえないのだろう。
晴人は思いを振り払うように目を閉じ、水晶に触れた。
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