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70.最期に口づけを1
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晴人は魔素を練り上げようとするインプから、素早く飛びのいた。あわてて晴人も周囲の魔素をかき集めて壁を作る。
次の瞬間、光が弾け、晴人の身体にも衝撃が走った。まるで全身を壁に叩きつけられたようで、晴人の呼吸が一瞬止まり、続いて咳き込む。
全身に鈍い痛みが伝わるが、さほど強いダメージはないようだった。晴人がとっさに作った壁は、いちおう防壁の役割を果たしたようだ。
手も足も普通に動くことを確かめると、晴人はインプから距離をとって、自分の周りに更なる壁を張り巡らせる。
「へえ……さすが神子様。魔法の発動が早い。最初で気絶させるつもりだったんだけどな」
口元に歪んだ笑みを浮かべながら、インプは再び魔素を集めだす。
また衝撃がくる。そう思い、晴人は壁を強化して身構えるが、予想していた衝撃はこなかった。
ただ、何かが晴人の作った壁に喰らいついている。まるで黒い蛇のようなものが、晴人の壁を食い散らかしていく。晴人はどんどん消えていく壁を元に戻そうとするが、食われるほうが早い。
黒い蛇を引き剥がしたほうが早いかと、晴人は黒い蛇に向けて集めた魔素を叩きつける。あっさりと黒い蛇は吹き飛ばされたが、すでに崩れかかっていた壁は侵入者の存在を許してしまった。
「捕まえた」
晴人の懐に入り込んだインプがにやり、と笑う。インプは晴人に軽く触れただけだったが、電流のような衝撃が晴人の全身を貫き、晴人はその場に崩れ落ちてしまう。手足は痺れ、身体が言うことをきかない。
「ふふ……戦いなれていないね、神子様。安心して、殺さないから。オレを満足させるための玩具になってもらうだけだよ」
インプは動けない晴人を仰向けに寝かせると、足を開かせてその間に手を這わせた。晴人の身体には違う種類の痺れが走る。
「こんなときでも、ここは元気になるんだね。オレの中、きっとあんたも気に入ると思うよ。もう二度と出たくないっていうくらいに、ね……」
甘い囁きが晴人の耳から忍び込み、頭に染み渡っていく。
晴人はぼんやりと自らの中心をもてあそぶインプを眺めていた。
愛らしい美少女にしか見えない姿が、淫蕩な笑みを浮かべて晴人を見下ろしている。現実とは思えない。夢を見ているようだ。
ゆるやかな手の動きが、晴人の身体の奥から快楽を引き出していき、頭は白く濁っていく。
今、自分はいったい何をしているのだろう。何をしようとしていたのだろう。考えても答えは出ない。
「一緒に気持ちよくなろうね。ずっと、ずっと……」
心地のよい声が全身を満たし、晴人は何も考えられなくなる。これから気持ちのよいことをするのだ。きっと、それは晴人を幸福で満たし、このまま夢のような心地に包まれることだろう。晴人は笑みを浮かべた。
「ハルト! 正気に戻って!」
ところが悲痛な叫びが響き、まとまりのなくなっていた晴人の思考が動き出す。まだ夢から覚め切らないまま、晴人は自分を見下ろす者を見た。
晴人の上に乗っているのは、魔物だ。魔物は浄化するべきだ。思考はそこで止まり、晴人は腰に手を伸ばした。そこにあるものを確かめ、目的を果たすべく手を動かす。
「……え?」
晴人に乗っていたインプが呆然とした声をもらす。浄化の短剣がインプのわき腹に突き刺さっていた。
「やっ……やだっ、やだぁっ! 浄化なんてされたくない! 人間になんて戻りたくないっ!」
インプは悲鳴をあげて晴人を突き飛ばし、短剣を引き抜こうとする。しかし、短剣はインプに突き刺さったまま、抜けない。
ようやく晴人の正気も戻ってきたが、泣き叫ぶインプを前にして固まってしまい、動けなかった。
インプを浄化しようというつもりはなかった。それに、短剣を使っての浄化は晴人が手を離してはいけなかったはずだ。それなのに、すでに晴人の手を離れているにも関わらず、インプは悲鳴をあげ続けている。
「浄化されるくらいなら、人間に戻るくらいなら……!」
悲痛な覚悟を秘め、インプは短剣を両手で握り締めた。インプの体内の魔素が暴走しようとしているのが晴人の目に映った。
「やめっ……!」
晴人はあわてて立ち上がり、止めようとするが、すでに遅かった。周囲が光に包まれ、晴人は眩しさに目を閉じる。
晴人が再び目を開いたときに見えたのは、インプの体内の魔素が弾け、インプの身体もろとも崩壊していこうとする姿だった。
次の瞬間、光が弾け、晴人の身体にも衝撃が走った。まるで全身を壁に叩きつけられたようで、晴人の呼吸が一瞬止まり、続いて咳き込む。
全身に鈍い痛みが伝わるが、さほど強いダメージはないようだった。晴人がとっさに作った壁は、いちおう防壁の役割を果たしたようだ。
手も足も普通に動くことを確かめると、晴人はインプから距離をとって、自分の周りに更なる壁を張り巡らせる。
「へえ……さすが神子様。魔法の発動が早い。最初で気絶させるつもりだったんだけどな」
口元に歪んだ笑みを浮かべながら、インプは再び魔素を集めだす。
また衝撃がくる。そう思い、晴人は壁を強化して身構えるが、予想していた衝撃はこなかった。
ただ、何かが晴人の作った壁に喰らいついている。まるで黒い蛇のようなものが、晴人の壁を食い散らかしていく。晴人はどんどん消えていく壁を元に戻そうとするが、食われるほうが早い。
黒い蛇を引き剥がしたほうが早いかと、晴人は黒い蛇に向けて集めた魔素を叩きつける。あっさりと黒い蛇は吹き飛ばされたが、すでに崩れかかっていた壁は侵入者の存在を許してしまった。
「捕まえた」
晴人の懐に入り込んだインプがにやり、と笑う。インプは晴人に軽く触れただけだったが、電流のような衝撃が晴人の全身を貫き、晴人はその場に崩れ落ちてしまう。手足は痺れ、身体が言うことをきかない。
「ふふ……戦いなれていないね、神子様。安心して、殺さないから。オレを満足させるための玩具になってもらうだけだよ」
インプは動けない晴人を仰向けに寝かせると、足を開かせてその間に手を這わせた。晴人の身体には違う種類の痺れが走る。
「こんなときでも、ここは元気になるんだね。オレの中、きっとあんたも気に入ると思うよ。もう二度と出たくないっていうくらいに、ね……」
甘い囁きが晴人の耳から忍び込み、頭に染み渡っていく。
晴人はぼんやりと自らの中心をもてあそぶインプを眺めていた。
愛らしい美少女にしか見えない姿が、淫蕩な笑みを浮かべて晴人を見下ろしている。現実とは思えない。夢を見ているようだ。
ゆるやかな手の動きが、晴人の身体の奥から快楽を引き出していき、頭は白く濁っていく。
今、自分はいったい何をしているのだろう。何をしようとしていたのだろう。考えても答えは出ない。
「一緒に気持ちよくなろうね。ずっと、ずっと……」
心地のよい声が全身を満たし、晴人は何も考えられなくなる。これから気持ちのよいことをするのだ。きっと、それは晴人を幸福で満たし、このまま夢のような心地に包まれることだろう。晴人は笑みを浮かべた。
「ハルト! 正気に戻って!」
ところが悲痛な叫びが響き、まとまりのなくなっていた晴人の思考が動き出す。まだ夢から覚め切らないまま、晴人は自分を見下ろす者を見た。
晴人の上に乗っているのは、魔物だ。魔物は浄化するべきだ。思考はそこで止まり、晴人は腰に手を伸ばした。そこにあるものを確かめ、目的を果たすべく手を動かす。
「……え?」
晴人に乗っていたインプが呆然とした声をもらす。浄化の短剣がインプのわき腹に突き刺さっていた。
「やっ……やだっ、やだぁっ! 浄化なんてされたくない! 人間になんて戻りたくないっ!」
インプは悲鳴をあげて晴人を突き飛ばし、短剣を引き抜こうとする。しかし、短剣はインプに突き刺さったまま、抜けない。
ようやく晴人の正気も戻ってきたが、泣き叫ぶインプを前にして固まってしまい、動けなかった。
インプを浄化しようというつもりはなかった。それに、短剣を使っての浄化は晴人が手を離してはいけなかったはずだ。それなのに、すでに晴人の手を離れているにも関わらず、インプは悲鳴をあげ続けている。
「浄化されるくらいなら、人間に戻るくらいなら……!」
悲痛な覚悟を秘め、インプは短剣を両手で握り締めた。インプの体内の魔素が暴走しようとしているのが晴人の目に映った。
「やめっ……!」
晴人はあわてて立ち上がり、止めようとするが、すでに遅かった。周囲が光に包まれ、晴人は眩しさに目を閉じる。
晴人が再び目を開いたときに見えたのは、インプの体内の魔素が弾け、インプの身体もろとも崩壊していこうとする姿だった。
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