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63.取るべき道1
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唐突に、最終目的地への道がひらけてしまった。まだまだ先の出来事だと思っていたが、あっさりしたものだ。
しかし、世の中とはそんなものなのかもしれない。
望めば手が届かず、望まなければ手の内に落ちてくる。
乾いた笑みが口に浮かび上がってくるのを感じながら、晴人はそっと目を閉じた。
「……俺が、決めるんだよね」
「うん」
「行けば、魔素を封じて元の世界に戻ることができる」
「そうだね」
「行かなければ、魔素が世界に満ちていって、その場合でも元の世界に戻ることができるかもしれない」
「可能性としてはね」
ほぼ独り言のような晴人の言葉にも、セイは律儀に返事をする。晴人は目を開け、セイを見つめた。
「……もし、俺が行かなかったら、どうなるの? 清廉潔白な人は魔素がたまりにくいって言っていたけど、そういう人たちだけは救われるってことはないの?」
「残念ながら、それはないね。そういう人たちに魔素がたまりにくいっていうのは本当だ。でも、周りがみんな魔物化してしまったら、無事でいられると思うかい?」
「……そうか」
やはり都合のよい結果にはならないようだ。晴人はため息をもらす。
「それに、あまりにも魔素が濃くなりすぎてしまったら、誰であろうと魔物化してしまうよ。清廉潔白な人だろうと、逃れることはできない。そうなったらその後どうなるかは、過去に例がないので僕もよくわからないけれど」
「行けば、人々を救うことにもなる。ろくでもない連中も含めて」
「そうだね」
「何もしなければ、世界はどんどん魔素に包まれていく。そうなれば、良い人も含めてみんな見捨てることになる」
「そのとおり」
己の肩にのしかかる重みに、晴人は身震いする。人々の未来が、晴人の決断にかかっているのだ。
何故、このような重苦しい決断を迫られなくてはならないのだろうか。
晴人はどこにでもいるような、一介の大学生だ。このような重荷など、背負えるはずがない。
「どうしてだよ! 何もしなかったら、何も起こらないんじゃないのかよ! 現状維持にならないのかよ!」
どうしようもない憤りが身体の奥底から突き上げてきて、晴人は叫んだ。
己に圧し掛かる重圧に耐え切れそうにない。何もかも放り出し、とにかく暴れたかった。
「残念だけれどね、何もしないっていうのは放棄と一緒だよ。少なくともこの場合においてはね。何もしないっていうのは、最悪の状態になろうと受け入れることを許したっていうことさ」
いつもと同じ冷静なセイの声が響く。
「どうして俺なんだよ! 別の奴だっていいじゃないか!」
「それは、最初にきみが選んだこと。きみが引き受けた」
「……どうして」
急激に力が抜けていき、今度は瞼に涙がうっすらと浮かんでくる。逃げたいのに、逃げられない。
「きみが選んだ、だからきみに委ねられた。決定権を持つのはきみだ」
「……選びたくない」
「それでもいい。ただ、道は二つしかない。選ばない、という選択肢はこの場合、拒否と同じことになる」
あくまでもセイは晴人に判断を委ねる。こうしろとは言わず、こうしたほうがいいとすら言うことはない。
「あとね、残念だけれど残っている時間はそう長くないようだ。今回はずいぶん魔素が広がるのが早い。一ヶ月以上経ってもどうにかなった僕のとき……前回とは格段の違いだ」
さらに決断を迫る言葉がセイから突きつけられる。もはや晴人には何も答えられず、抜け殻のようにただ立ち尽くすだけだ。
労わるように、そっとセイの手が晴人の頬に触れた。相変わらずすり抜けるだけで、温もりは届かない。
「……さあ、まずはここを離れよう。どうするにせよ、さっきの子の思いを無駄にしないためにもね」
しかし、世の中とはそんなものなのかもしれない。
望めば手が届かず、望まなければ手の内に落ちてくる。
乾いた笑みが口に浮かび上がってくるのを感じながら、晴人はそっと目を閉じた。
「……俺が、決めるんだよね」
「うん」
「行けば、魔素を封じて元の世界に戻ることができる」
「そうだね」
「行かなければ、魔素が世界に満ちていって、その場合でも元の世界に戻ることができるかもしれない」
「可能性としてはね」
ほぼ独り言のような晴人の言葉にも、セイは律儀に返事をする。晴人は目を開け、セイを見つめた。
「……もし、俺が行かなかったら、どうなるの? 清廉潔白な人は魔素がたまりにくいって言っていたけど、そういう人たちだけは救われるってことはないの?」
「残念ながら、それはないね。そういう人たちに魔素がたまりにくいっていうのは本当だ。でも、周りがみんな魔物化してしまったら、無事でいられると思うかい?」
「……そうか」
やはり都合のよい結果にはならないようだ。晴人はため息をもらす。
「それに、あまりにも魔素が濃くなりすぎてしまったら、誰であろうと魔物化してしまうよ。清廉潔白な人だろうと、逃れることはできない。そうなったらその後どうなるかは、過去に例がないので僕もよくわからないけれど」
「行けば、人々を救うことにもなる。ろくでもない連中も含めて」
「そうだね」
「何もしなければ、世界はどんどん魔素に包まれていく。そうなれば、良い人も含めてみんな見捨てることになる」
「そのとおり」
己の肩にのしかかる重みに、晴人は身震いする。人々の未来が、晴人の決断にかかっているのだ。
何故、このような重苦しい決断を迫られなくてはならないのだろうか。
晴人はどこにでもいるような、一介の大学生だ。このような重荷など、背負えるはずがない。
「どうしてだよ! 何もしなかったら、何も起こらないんじゃないのかよ! 現状維持にならないのかよ!」
どうしようもない憤りが身体の奥底から突き上げてきて、晴人は叫んだ。
己に圧し掛かる重圧に耐え切れそうにない。何もかも放り出し、とにかく暴れたかった。
「残念だけれどね、何もしないっていうのは放棄と一緒だよ。少なくともこの場合においてはね。何もしないっていうのは、最悪の状態になろうと受け入れることを許したっていうことさ」
いつもと同じ冷静なセイの声が響く。
「どうして俺なんだよ! 別の奴だっていいじゃないか!」
「それは、最初にきみが選んだこと。きみが引き受けた」
「……どうして」
急激に力が抜けていき、今度は瞼に涙がうっすらと浮かんでくる。逃げたいのに、逃げられない。
「きみが選んだ、だからきみに委ねられた。決定権を持つのはきみだ」
「……選びたくない」
「それでもいい。ただ、道は二つしかない。選ばない、という選択肢はこの場合、拒否と同じことになる」
あくまでもセイは晴人に判断を委ねる。こうしろとは言わず、こうしたほうがいいとすら言うことはない。
「あとね、残念だけれど残っている時間はそう長くないようだ。今回はずいぶん魔素が広がるのが早い。一ヶ月以上経ってもどうにかなった僕のとき……前回とは格段の違いだ」
さらに決断を迫る言葉がセイから突きつけられる。もはや晴人には何も答えられず、抜け殻のようにただ立ち尽くすだけだ。
労わるように、そっとセイの手が晴人の頬に触れた。相変わらずすり抜けるだけで、温もりは届かない。
「……さあ、まずはここを離れよう。どうするにせよ、さっきの子の思いを無駄にしないためにもね」
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