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62.脱出2
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走り続け、言われたとおりに扉を開いて、晴人は無事に都の外に脱出することができたようだ。抜け道は、都を見下ろす丘の上に続いていた。
ずっと走り続けてきたせいで、息が切れて喉が痛い。晴人は木陰に身を隠し、呼吸を落ち着かせる。
「無事にここまで来られたね。ところで、きみは失念しているようだけれども、魔法を使えるようになっていないかい?」
「え?」
意外なことを言いだすセイに晴人は驚き、セイを見つめる。
すると今まで透き通って白黒の影として見えていたセイの姿が、もっと鮮明に見えた。肌は相変わらず白かったが、髪の毛は濃い茶色に見え、目も同じ色に見える。
周囲を見回せば、ぼんやりとした灰色の煙のようなものも見えた。
「魔法。さっき、使っていたし。そこいらの魔素をかき集めて一箇所にまとめるような感じ」
もう一度、セイが念を押すように言ってくる。
「なんだか、ぼんやりとした煙っぽいものが見えるけれど……もしかして、これが魔素?」
晴人は周囲に漂う煙のようなものに手を触れようとする。しかしセイに触れたときのようにすり抜けるだけで、何の感触もなかった。
「ああ、見えるようになったか。そう、それが魔素だよ。集めよう、と念じてみて」
言われたとおり、晴人は集めようと意識を集中する。自らに引き寄せるようにイメージすれば、本当に煙は晴人に寄ってきた。
「うん、そう。それを束ねて、ちょっとだけ叩きつけるようにしてみて」
煙をぐるぐると指に巻きつけるようにして、晴人は近くに落ちている石めがけて放り投げるように指を振り下ろす。
集められた魔素は晴人の指先から放たれていき、鋭い音を立てて石が砕け散った。
「うまくいったね。普通はいったん内部に取り込むんだけれど、きみは外から外に移せるみたいだ。これなら、魔素の濃いところに行けば使い放題だね」
仕組みはよくわからないが、魔法が使えるようになったようだ。晴人は自らの手のひらを見つめてみる。
魔素を集めようと思えば、集まってきた。球体にしようと念じればそのとおりになる。複雑な加工方法はわからないが、集めてぶつけるといった攻撃程度なら問題はなさそうだ。
先ほどの怒りで魔法を使う回路が目覚めたらしい。
しかし、使ってみたいと望んでいた魔法だったが、実際に手に入れた今、驚くほど何の感慨もなかった。
あまりに晴人の心を揺さぶる出来事が多く、麻痺してしまっているようだ。
もうこの先、何が起こってもさほど感動もなく、驚くことはないのかもしれない。晴人は妙に冷めた気分になり、そっと息を吐く。
「さあ、どうする? 行こうと思えば、もう静謐の丘に行ける。でも、行きたくないのならそれはそれでどこか別の場所に行かないと」
何気なく放たれたセイの言葉に、晴人の心はびくりと跳ね上がる。あまりの驚きで、ぽかんとセイを見つめてしまう。
驚くことはないのかもしれないなんて、嘘だった。
我ながら前言撤回が早すぎると、晴人はそこのところだけ冷静に考えていた。
ずっと走り続けてきたせいで、息が切れて喉が痛い。晴人は木陰に身を隠し、呼吸を落ち着かせる。
「無事にここまで来られたね。ところで、きみは失念しているようだけれども、魔法を使えるようになっていないかい?」
「え?」
意外なことを言いだすセイに晴人は驚き、セイを見つめる。
すると今まで透き通って白黒の影として見えていたセイの姿が、もっと鮮明に見えた。肌は相変わらず白かったが、髪の毛は濃い茶色に見え、目も同じ色に見える。
周囲を見回せば、ぼんやりとした灰色の煙のようなものも見えた。
「魔法。さっき、使っていたし。そこいらの魔素をかき集めて一箇所にまとめるような感じ」
もう一度、セイが念を押すように言ってくる。
「なんだか、ぼんやりとした煙っぽいものが見えるけれど……もしかして、これが魔素?」
晴人は周囲に漂う煙のようなものに手を触れようとする。しかしセイに触れたときのようにすり抜けるだけで、何の感触もなかった。
「ああ、見えるようになったか。そう、それが魔素だよ。集めよう、と念じてみて」
言われたとおり、晴人は集めようと意識を集中する。自らに引き寄せるようにイメージすれば、本当に煙は晴人に寄ってきた。
「うん、そう。それを束ねて、ちょっとだけ叩きつけるようにしてみて」
煙をぐるぐると指に巻きつけるようにして、晴人は近くに落ちている石めがけて放り投げるように指を振り下ろす。
集められた魔素は晴人の指先から放たれていき、鋭い音を立てて石が砕け散った。
「うまくいったね。普通はいったん内部に取り込むんだけれど、きみは外から外に移せるみたいだ。これなら、魔素の濃いところに行けば使い放題だね」
仕組みはよくわからないが、魔法が使えるようになったようだ。晴人は自らの手のひらを見つめてみる。
魔素を集めようと思えば、集まってきた。球体にしようと念じればそのとおりになる。複雑な加工方法はわからないが、集めてぶつけるといった攻撃程度なら問題はなさそうだ。
先ほどの怒りで魔法を使う回路が目覚めたらしい。
しかし、使ってみたいと望んでいた魔法だったが、実際に手に入れた今、驚くほど何の感慨もなかった。
あまりに晴人の心を揺さぶる出来事が多く、麻痺してしまっているようだ。
もうこの先、何が起こってもさほど感動もなく、驚くことはないのかもしれない。晴人は妙に冷めた気分になり、そっと息を吐く。
「さあ、どうする? 行こうと思えば、もう静謐の丘に行ける。でも、行きたくないのならそれはそれでどこか別の場所に行かないと」
何気なく放たれたセイの言葉に、晴人の心はびくりと跳ね上がる。あまりの驚きで、ぽかんとセイを見つめてしまう。
驚くことはないのかもしれないなんて、嘘だった。
我ながら前言撤回が早すぎると、晴人はそこのところだけ冷静に考えていた。
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