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58.提案2
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「……元聖娼か」
しばしインプをじっと見つめていたセイだったが、やがてぼそりと呟いた。
「なんだ、わかっちゃったか。多分、魔素に対する適性か何かがあったんだろうね。魔物化しても、中身はそんなに変わらなかったよ」
あっさりとインプは認める。
「そうだね。聖娼の素質と、魔法使いの素質も持っている。両方を併せ持っているのは初めて見たよ。でも……これだけの潜在能力を持ちながら魔物化するなんて、相当のことだろう。何があったんだい?」
セイの質問を受け、インプはわずかに顔をしかめた。
やがて無言のまま、インプはくるりとセイに背を向ける。
晴人は何も言えないまま、二人の会話を聞いていた。
魔素を浄化する素質を持った聖娼だったからこそ、理性を保っていられたのかと納得ではある。魔法使いの素質まで持っているというのだから、きっと魔素に関する適性はすごいのだろう。
ただ、それよりも気になるのは、魔物化した聖娼がいたとルイスは言っていたはずだ。このインプがそうなのだろうか。
さらにシオンの弟のことも引っかかる。
都の神殿に送られた後、他の神殿を転々とすることになったという話だったが、あの都の神殿の言うことなど怪しいものだ。
いなくなったことをごまかしていたということは十分に考えられる。
晴人はインプを見つめながら考え込む。何となく、それぞれの点を結び合わせる線が見えてきたようだった。
「……ここはね、前にオレが逃げるために使った抜け道。ここを通れば都の外に出られるよ。せっかくここまで連れてきてあげたんだから、無事に逃げなよ。本当は空を飛べればよかったんだろうけど、あんたを抱えながらじゃ飛べなかったからね」
セイの質問には答えず、インプは別のことを言い出す。
晴人が思わず確かめるようにセイに視線を向けると、セイは渋面を作りながら頷いた。
「……このインプが倒れたきみをここまで連れてきたのは本当だよ。僕じゃあ、きみを運べないからね……助かったよ」
「え? じゃあ、俺を助けてくれたのか。ありがとう」
まだ現在の状況はつかめず、インプの思惑もわからなかったが、助けられたのは事実のようだ。礼を言うべきだろうと、晴人は頭を下げる。
「あんた、律儀だよね。オレ、あんたのこと、結構好きかも」
くすくすと笑いながらインプが上目遣いに晴人を伺ってくる。
愛らしい美少女にしか見えないインプの姿は、晴人の純粋な心と穢れを知らぬ下半身に毒だ。すぐ近くまで迫られ、つい晴人はどぎまぎとしてしまう。
「ところで、きみの目的は何なんだい?」
やや棘のあるセイの声が割り込んできた。
インプは肩をすくめ、晴人から身を離す。
「精霊様はせっかちだなぁ。オレは神子様に提案があるんだよ」
インプは言葉を区切り、晴人をまっすぐに見つめてきた。愛らしい顔には微笑が浮かんでいたが、目に宿る光は真剣そのものだ。
晴人は思わずごくりと喉を鳴らし、インプを見つめ返す。
「あんたが目指しているのは静謐の丘だろう? 魔素を封じて、元の世界に帰りたいんだよね。でも静謐の丘まで行かなくても、あんたが元の世界に戻る方法があるとしたら、どうする?」
しばしインプをじっと見つめていたセイだったが、やがてぼそりと呟いた。
「なんだ、わかっちゃったか。多分、魔素に対する適性か何かがあったんだろうね。魔物化しても、中身はそんなに変わらなかったよ」
あっさりとインプは認める。
「そうだね。聖娼の素質と、魔法使いの素質も持っている。両方を併せ持っているのは初めて見たよ。でも……これだけの潜在能力を持ちながら魔物化するなんて、相当のことだろう。何があったんだい?」
セイの質問を受け、インプはわずかに顔をしかめた。
やがて無言のまま、インプはくるりとセイに背を向ける。
晴人は何も言えないまま、二人の会話を聞いていた。
魔素を浄化する素質を持った聖娼だったからこそ、理性を保っていられたのかと納得ではある。魔法使いの素質まで持っているというのだから、きっと魔素に関する適性はすごいのだろう。
ただ、それよりも気になるのは、魔物化した聖娼がいたとルイスは言っていたはずだ。このインプがそうなのだろうか。
さらにシオンの弟のことも引っかかる。
都の神殿に送られた後、他の神殿を転々とすることになったという話だったが、あの都の神殿の言うことなど怪しいものだ。
いなくなったことをごまかしていたということは十分に考えられる。
晴人はインプを見つめながら考え込む。何となく、それぞれの点を結び合わせる線が見えてきたようだった。
「……ここはね、前にオレが逃げるために使った抜け道。ここを通れば都の外に出られるよ。せっかくここまで連れてきてあげたんだから、無事に逃げなよ。本当は空を飛べればよかったんだろうけど、あんたを抱えながらじゃ飛べなかったからね」
セイの質問には答えず、インプは別のことを言い出す。
晴人が思わず確かめるようにセイに視線を向けると、セイは渋面を作りながら頷いた。
「……このインプが倒れたきみをここまで連れてきたのは本当だよ。僕じゃあ、きみを運べないからね……助かったよ」
「え? じゃあ、俺を助けてくれたのか。ありがとう」
まだ現在の状況はつかめず、インプの思惑もわからなかったが、助けられたのは事実のようだ。礼を言うべきだろうと、晴人は頭を下げる。
「あんた、律儀だよね。オレ、あんたのこと、結構好きかも」
くすくすと笑いながらインプが上目遣いに晴人を伺ってくる。
愛らしい美少女にしか見えないインプの姿は、晴人の純粋な心と穢れを知らぬ下半身に毒だ。すぐ近くまで迫られ、つい晴人はどぎまぎとしてしまう。
「ところで、きみの目的は何なんだい?」
やや棘のあるセイの声が割り込んできた。
インプは肩をすくめ、晴人から身を離す。
「精霊様はせっかちだなぁ。オレは神子様に提案があるんだよ」
インプは言葉を区切り、晴人をまっすぐに見つめてきた。愛らしい顔には微笑が浮かんでいたが、目に宿る光は真剣そのものだ。
晴人は思わずごくりと喉を鳴らし、インプを見つめ返す。
「あんたが目指しているのは静謐の丘だろう? 魔素を封じて、元の世界に帰りたいんだよね。でも静謐の丘まで行かなくても、あんたが元の世界に戻る方法があるとしたら、どうする?」
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