貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

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55.逃走2

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「身勝手な考えを押し付けるなよ! 俺がどうして身を投げ出さないといけないんだよ! 自分たちで努力しようとは思わないのか!」

 あまりに他力本願な考え方に吐き気がした。すべて晴人に押し付けようなど、冗談ではない。

「魔素が悪いのです。私たちにはどうすることもできません。どうしろというのですか。父だとて、魔素のせいで危ないところだったのです。父を救ってくださったように、早くここでもお力をお見せください」

「あんたの父さん、魔物化なんてしていなかったよ!」

「……どういうことですか」

 ルイスが動揺した一瞬の隙をついて、晴人はルイスを振り払って走り出した。

「助けてくれ!」

「逃げるなんて、それでも神子か!」

「ニセモノだ! 捕まえろ!」

 後ろから男たちの叫びが浴びせられるが、晴人は振り返ることもなく、ひたすら走った。
 男たちは全裸姿で追うことにはためらいがあったのか、すぐに追いかけてくる様子も感じられず、晴人はひたすら遠くを目指す。
 都の中を駆けていくが、晴人には土地勘がない。気がつけば城のすぐ近くまで戻ってきてしまっていた。

 こうなったら、領主に助けを請うしかない。
 しかし城に繋がる跳ね橋は上がったままで、道がふさがれている。

「助けて!」

 晴人は城に向かって叫ぶ。後ろを振り返れば、まだ追っ手の姿は見えないが、安心はできない。
 誰か出てきてくれと祈りながら、晴人は城を見つめる。ほんのわずかな時間が長く感じられ、自らの吐き出す息すら小刻みなはずなのにゆっくりと聞こえる。

「おお、神子様。どうされましたかな」

 祈りが通じたのか、城から領主が出てきた。
 地下牢でのくたびれた姿ではなく、豪華な衣服に身を包んだ、堂々とした姿だった。

「ルイスさんが……! 俺、逃げて……!」

 息を整えようとしながら、晴人は細切れの叫びをあげる。
 ほとんど内容などわからないような叫びだったが、領主はゆったりと頷いた。

「それはそれは……大変でしたな。さて神子様、あなたには幾重にも礼を述べなくてはなりません」

「それよりも、橋を!」

 悠長な領主に向け、晴人は懇願する。
 跳ね橋は上がったままで、これでは城の中には入れない。

「それはできませんな。もう少し息子と遊んでやってください。できれば、息子には神子殺しの罪を背負ってもらいたいのですよ。せめて、暴行まではしてもらわないと」

「え……?」

 言われたことが理解できず、晴人は呆然と立ち尽くす。
 領主は今、いったい何と言ったのだろう。晴人の聞き間違いだろうか。
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