貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

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54.逃走1

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「ひどい……」

 晴人は心を締め付けられるような息苦しさを覚え、呻きをもらす。握り締めた拳が微かに震えていた。
 ところがルイスは悪びれるどころか、不思議そうな顔で小首を傾げる。

「ひどい? 何がでしょうか? 彼らは人々を救う力を与えられているのです。人々のための力ならば、人々のために使うのが当たり前のこと、それだけです」

 当たり前のように言うルイスの声は穏やかで、歪みなど感じられなかった。
 晴人はぞっとして、呆然とルイスを眺める。

「ただ、聖娼からも魔物化した者が出てしまいました。情けないことです」

 憂いを帯びた表情でルイスは吐息をもらすが、晴人は彼の言っていることがすぐには理解できなかった。じわじわと内容が染みこんでくるにつれて、恐怖とともに怒りがわきあがってくる。
 このようなやり方をしていては、魔物化するのも当然だろう。聖娼への気遣いなど、かけらも見受けられない。

 しかも意に反した行動を強要されて散々傷ついたであろう聖娼のことを、情けないという言葉で片付けようというのだ。
 晴人がルイスに抱いた好印象は徐々に減りつつあったが、残っていた部分も一瞬で霧散した。
 目の前の青年が、もはや怪物にしか見えない。

「皆の者! こちらにおわすお方は神子様だ! 魔物化してしまった者ですら、神子様ならお救いくださる。おすがりするといい!」

 晴人の思いなど気づかないようで、ルイスは大広間の人々に向かって声を張り上げる。

「神子様……?」

「神子様って、あの……?」

 聖娼を犯していた男たちが動きを止め、晴人に視線を向けてくる。いくつものぎらぎらと光る獣じみた目が晴人を突き刺し、晴人の身体には戦慄が突き抜けた。

「ハルト、逃げるんだ!」

 セイの声で我に返り、晴人は大広間に背を向けて逃げ出そうとする。
 しかし、走り出すよりも早く、ルイスに腕をつかまれてしまった。

「神子様、どこに行かれるのですか。神子様には人々を救う義務があるはずです」

「勝手なことを言うな!」

 浄化しろということなら、文句などない。短剣を使って人々を浄化しただろう。
 しかし、男たちが晴人を見る目は、欲望にまみれていた。町の神殿で順番を守り、礼儀正しく浄化を願い出た人々とは違う。

「何をおっしゃるのですか。我々は、ずっと魔素に怯えて神子様が現れるのをお待ちしておりました。それなのにお救いくださらないなど、どういうことですか。困っている人々のために身を投げ出すのが神子の役割だというのに、それでも神子ですか」

 今までずっと丁寧で穏やかだったルイスの声に、怒気が混じる。
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