貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

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49.別れの予感2

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「ここに神子様がいらしてくださったのは、幸運でした。私は神子様のお力によって、魔物化が解けたということにして、息子ともう一度慎重に話し合ってみたいと思います。神子様、どうか話を合わせてくださいませんか?」

「え、あ、はい……」

 しどろもどろになりながら晴人は頷いた。
 どこかすっきりしないものの、とりあえず貞操の危機は去ったようだ。

 晴人は奥にある寝台を使ってくれと促され、暗闇の中を慎重に歩いていく。手探りでどうにか落とした短剣も見つけることができて、ほっとする。
 暗くてよく見えないが、地下牢といえども中は広いようで、ソファーなどもあるようだった。
 寝台にたどりついてみれば、予想していたような囚人用の硬い寝台ではなく、ふかふかとして柔らかい。

 ルイスは地下牢に父親を閉じ込めたものの、待遇にはそれなりに気を遣ったようだ。邪魔だから閉じ込めてしまえというわけではなく、本当に魔物化したと思い込んで心配しているらしきことが伺えて、晴人はぶるりと身を震わせる。
 思い込みの激しさが恐ろしい。
 だが、同時に悲しいような気もする。
 責任感と使命感に押しつぶされそうになり、そうなってしまったのだろうか。

「セイ……ごめん……」

 小声で晴人はぼそりともらす。暗闇の中にセイの姿を見出すことはできないが、きっといるはずだ。
 セイはおそらく、ルイスの歪んでいる部分に気づいていたのだろう。
 それなのに晴人は自分の考えを否定されたのだと怒り、ろくに話を聞こうともせずにセイを無視してしまった。今さらだが、罪悪感がわきあがってくる。

「いいよ、気にしなくて。それに……きっと、きみが考えているようなことじゃないんだ」

 いつものように返事が聞こえたことに晴人は安堵するが、内容には首を傾げる。
 考えているようなことではないとは、いったいどういうことだろうか。

「……僕は、きみがあいつに好意を寄せるのが気に入らなかったんだ。それだけなんだよ」

 しばしの沈黙の後、セイは静かな声で囁いた。

「え? それって、どういう……」

「あまり話していると、領主から不審に思われるよ。寝る前のお祈りくらいに思われているだろう今で、やめておいたほうがいい」

 意味がよく理解できずに晴人は問い返すが、セイはそれ以上の返答を拒んだ。こう言われてしまえば、晴人も黙るしかない。
 胸にもやもやとした思いを抱えながら、晴人は柔らかい寝台にもぐりこんで目を閉じた。
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