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46.陰鬱な城内2
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食事を終えれば、今度は浴室に案内された。
使用人たちが晴人の身体を洗おうとしたが、自分でできるからと晴人はあわてて断る。
おとなしく使用人たちは下がっていったので、広い浴室にいるのは晴人とセイだけだ。
「広いなー、泳げそう。……セイ?」
晴人の独り言にはまたも返事がない。呼びかければ、セイはのろのろと顔を晴人に向けた。
「……何?」
「様子がおかしいよ。どうしたの?」
「……何でもないよ」
そう言いつつ、セイの声には疲れたような響きがある。
「もしかして、この城が淀んでいるっていうのが原因? それで体調が悪いとか……」
「まあ、それはあるかもね。……それだけじゃないけど」
ぼそりとしたセイの言葉の後半を、晴人はよく聞き取れなかった。
「え? ……領主が病気だっていうのも、もしかしたらそのせいなのかな。ルイスさんは元気そうだったけど、責任感が強そうだし、無理しているのかな」
とりあえず、自分の憶測を述べてみる。晴人自身は特に体調の変化は感じないが、長い間この城にいると違うのかもしれない。
「……僕はあの領主の息子、どうも気に入らない」
「え? どうして? まさか、魔素に冒されているとか?」
「魔素の影響はそれほど受けていないと思うよ。そういうことじゃないんだ。僕が、個人的にあいつを気に入らないだけだよ」
「そうなの? ……俺には、穏やかだけれども責任感があって、立派そうな人に見えたけれど……」
「きみがそう思っていることが、何よりも気に入らない」
「え? それ、何だよ……」
晴人はむっとして押し黙ってしまう。自分を否定されたようで腹立たしかった。
セイがルイスを気に入らないのなら、それはそれで仕方がないだろう。しかし、晴人の考え方にまで口出ししてくるような権利はないはずだ。
晴人はセイを無視して身体を洗い始めた。魔物の唾液は拭き取ったものの、洗えてはいなかったので、ようやく綺麗にできる。
石鹸を使って表面を洗いながら、内側も洗うべきなのか迷う。
洗うとすれば、指を突っ込まなくてはならないのだろうか。さらに石鹸を使ってもよいものなのだろうか。
どうしたものか晴人は悩んだが、セイに尋ねるのも気が引けた。今はセイと口をききたくない。
結局、内側はそのままにしておくことにした。まだ汚れが残っているようですっきりとしなかったが、仕方がない。
身体にも心の底にもわだかまりを残しながら、晴人は黙ったまま風呂を終えた。
使用人たちが晴人の身体を洗おうとしたが、自分でできるからと晴人はあわてて断る。
おとなしく使用人たちは下がっていったので、広い浴室にいるのは晴人とセイだけだ。
「広いなー、泳げそう。……セイ?」
晴人の独り言にはまたも返事がない。呼びかければ、セイはのろのろと顔を晴人に向けた。
「……何?」
「様子がおかしいよ。どうしたの?」
「……何でもないよ」
そう言いつつ、セイの声には疲れたような響きがある。
「もしかして、この城が淀んでいるっていうのが原因? それで体調が悪いとか……」
「まあ、それはあるかもね。……それだけじゃないけど」
ぼそりとしたセイの言葉の後半を、晴人はよく聞き取れなかった。
「え? ……領主が病気だっていうのも、もしかしたらそのせいなのかな。ルイスさんは元気そうだったけど、責任感が強そうだし、無理しているのかな」
とりあえず、自分の憶測を述べてみる。晴人自身は特に体調の変化は感じないが、長い間この城にいると違うのかもしれない。
「……僕はあの領主の息子、どうも気に入らない」
「え? どうして? まさか、魔素に冒されているとか?」
「魔素の影響はそれほど受けていないと思うよ。そういうことじゃないんだ。僕が、個人的にあいつを気に入らないだけだよ」
「そうなの? ……俺には、穏やかだけれども責任感があって、立派そうな人に見えたけれど……」
「きみがそう思っていることが、何よりも気に入らない」
「え? それ、何だよ……」
晴人はむっとして押し黙ってしまう。自分を否定されたようで腹立たしかった。
セイがルイスを気に入らないのなら、それはそれで仕方がないだろう。しかし、晴人の考え方にまで口出ししてくるような権利はないはずだ。
晴人はセイを無視して身体を洗い始めた。魔物の唾液は拭き取ったものの、洗えてはいなかったので、ようやく綺麗にできる。
石鹸を使って表面を洗いながら、内側も洗うべきなのか迷う。
洗うとすれば、指を突っ込まなくてはならないのだろうか。さらに石鹸を使ってもよいものなのだろうか。
どうしたものか晴人は悩んだが、セイに尋ねるのも気が引けた。今はセイと口をききたくない。
結局、内側はそのままにしておくことにした。まだ汚れが残っているようですっきりとしなかったが、仕方がない。
身体にも心の底にもわだかまりを残しながら、晴人は黙ったまま風呂を終えた。
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