貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
39 / 90

39.強くなった?2

しおりを挟む
「……強くなったのかな」

「そうだね。少し強くなったと思うよ」

「そういえばさ、この世界には魔法ってあるんだよね。魔法使いがどうのって前に言っていたような気もするし。俺は魔法って使えるようにならないのかな?」

 ゲームではレベルが上がれば魔法を覚えていくのが定番だ。晴人も少しは強くなってきたはずだし、そろそろ魔法にも手が届くのではないだろうか。

「今は無理だね。修行すれば使えるようにはなると思うよ」

「……そっか、修行が必要なのか」

 がっかりとしながら晴人は呟く。自動的に覚えていくのではなく、修行によって覚える必要があるようだ。

「もっとも、魔法っていうのは魔素を利用するものだからね。ヤられて能力吸収すれば、使えるようになるものもあるよ」

「それはごめんです」

 晴人はきっぱりと断る。魔法というものに憧れはあるが、貞操と引き換えにするほど重くはない。

「じゃあ、修行ってどうすればいいんだろう。誰かに教えてもらうの? セイは教えてくれないの?」

「僕は肉体がないからね。あいにくだけれど、教えられないよ。きみが実際に使っているところを見れば、もっとこうしたほうがいいっていうアドバイスはできると思うけれど」

「うーん……それなら、魔法使いに弟子入りするの? ただ……まだ村と町しか見ていないせいかもしれないけれど、魔法使いって会ったことがないよね。都に行けばいるのかな?」

 神殿では聖娼たちが浄化を行っていたが、ゲームでよくありそうな怪我の治療といったものは見かけなかった。魔法らしきものは使っていなかったようだ。

「どうだろう。魔法使いって、魔素を利用して魔法を使うんだよ。聖娼は魔素を体内に取り込んで浄化するけれど、魔法使いは魔素を体内で変換して放出する。それが魔法っていうやつなんだけれど、ちょっと問題があってね」

「問題?」

 晴人は不穏な言葉に、眉根をわずかに寄せる。

「まず、魔素を取り込みすぎると魔物化するのは魔法使いも一緒。しかも、魔素を体内で変換するわけだから、魔物化の危険性も高いんだ。だから危険な存在であるとして、魔法使いへの弾圧が歴史的に何度か繰り返されている。そもそも魔法が魔素を利用するものなので、魔物の業だとする説すらあるんだ」

「もしかして、魔法使いは差別されているとか、迫害されているっていうこと?」

「そうだね。ただ、時代によっては便利屋のようにみなされて、普通に街の中にいることもあるんだよ。場合によっては賢者様として尊敬されていることもある。今は魔法使いへの風当たりがどうなっているのか、僕にはちょっとよくわからないな。しばらく外界に出ていなかったし」

「そっか……都にいることを願うしかないかな」

 晴人は深く息をつき、魔法についてはあまり期待しないことにしようと思いを押し込める。

「でもさ、俺、なんだか強くなったような気がするんだ。短剣を使っての浄化もかなり慣れたし。都に行くつもりではあるけれど、いっそこのまま最終目的地まで行っても大丈夫なくらいじゃないかな」

 気持ちを切り替え、よいことに目を向けることにした。
 神殿で人々の浄化を繰り返し、さらには魔晶石もどきを取り込んだことにより、晴人には力がみなぎっている。今ならば何でもできそうな気がした。
 もしかしたら、魔法などそもそも必要ないかもしれない。この身と短剣さえあれば、きっと進んでいくことができるに違いないと晴人の胸には自信がわきあがってくる。

「じゃあ、試しに魔物と戦ってみる?」

 軽く首を傾げ、セイが腕を持ち上げる。
 セイが指差した先には、獰猛な唸り声をあげる獣がいた。姿は大きな狼に似ており、黒い毛がぴんと逆立って口から涎がだらだらと垂れ続けている。
 赤黒く光る鋭い目に射すくめられ、舞い上がっていた晴人の自信は一瞬で地の底まで転落していった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ひきこもりの弟が兄である僕に嫁になれと迫ってきます。

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:257

いつもの毎日をきみと

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:423

毒を喰らわば皿まで

BL / 完結 24h.ポイント:2,229pt お気に入り:12,953

国王様は新米騎士を溺愛する

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:3,087

BLエロ小説短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:1,314pt お気に入り:111

蓮の30歳恋人が、突然子供化した後、大人になる

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:103

東京ナイトイーグル

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:57

処理中です...