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36.戻りたくない2
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それから五日が経ち、晴人はまだ神殿に滞在していた。
魔物化が近い者を中心に浄化を行っていたのだ。シオンが今まで神殿長が張りつめていた分を肩代わりするかのように、張り切って仕事を引き受けようとしていたが、せっかく神子である晴人がいるのだから、いる間は任せるといいというセイの助言を受け入れた。
晴人はやってくる人々に短剣を突き刺すというお仕事に明け暮れていた。
最初はびくびくしたものの、短剣を刺しても苦痛はないそうだ。誰もがおとなしく座って受け入れてくれ、そのうちに晴人も慣れてきた。
神子様とひれ伏して崇め奉られるのだけは、いつまでたっても慣れなかったが。
「これだけの連中にヤられれば、簡単に強くなれるのに……」
「断る」
晴人の貞操を守ってくれたセイが、そんなことなど忘れたような言葉を吐いて、晴人が断るといったようなやり取りをしながら、忙しくも平和な時間を過ごす。
やがて大挙して押し寄せていた人々も鳴りを潜め、ちらほらと訪れる程度になってきた。
もっと滞在し続ければ遠くからも人が訪れるのかもしれないが、この町周辺はそろそろ打ち止めらしい。
そろそろ旅立つ頃合いだろう。
晴人はシオンの弟が最初に移った神殿が隣の都にあると聞き、そこを目指すことにした。
セイに意見を聞いたところ、好きにするといいとの返答だったので、好きにする。
「神子様にはご迷惑をおかけしたにも関わらず、多大な功徳をお授けくださいまして、感謝は尽きません。まことにありがとうございました」
晴人が旅に戻ると告げると、神殿長は謝罪と感謝の言葉で送り出してくれた。
ここ数日ですっかり気に入った食事と離れるのはつらかったが、日持ちのするような堅焼きパンや干し肉などを詰めて持たせてもらえた。
「隣の都は半年ほど前に領主が代替わりしたのですが、それ以来、行き来が少なくなっております。わたくしも今、都がどうなっているのかはよくわからないのですが、きっと魔素の影響は受けていることでしょう。どうか、お気をつけてください」
見送る神殿長の隣には、シオンが寄り添っている。
「勝手なお願いまで聞き入れてくださった神子様のお優しさ、生涯忘れることはございません。神子様の旅のご無事をお祈り申し上げております」
シオンからも激励の言葉を送られ、晴人は微笑んで頷く。
これからはきっと、斜めの方向に暴走しがちな神殿長の手綱をシオンが握っていくのだろう。
この二人、そして神殿のみんなにも幸福があることを願い、晴人は別れを告げて神殿を去ったのだった。
魔物化が近い者を中心に浄化を行っていたのだ。シオンが今まで神殿長が張りつめていた分を肩代わりするかのように、張り切って仕事を引き受けようとしていたが、せっかく神子である晴人がいるのだから、いる間は任せるといいというセイの助言を受け入れた。
晴人はやってくる人々に短剣を突き刺すというお仕事に明け暮れていた。
最初はびくびくしたものの、短剣を刺しても苦痛はないそうだ。誰もがおとなしく座って受け入れてくれ、そのうちに晴人も慣れてきた。
神子様とひれ伏して崇め奉られるのだけは、いつまでたっても慣れなかったが。
「これだけの連中にヤられれば、簡単に強くなれるのに……」
「断る」
晴人の貞操を守ってくれたセイが、そんなことなど忘れたような言葉を吐いて、晴人が断るといったようなやり取りをしながら、忙しくも平和な時間を過ごす。
やがて大挙して押し寄せていた人々も鳴りを潜め、ちらほらと訪れる程度になってきた。
もっと滞在し続ければ遠くからも人が訪れるのかもしれないが、この町周辺はそろそろ打ち止めらしい。
そろそろ旅立つ頃合いだろう。
晴人はシオンの弟が最初に移った神殿が隣の都にあると聞き、そこを目指すことにした。
セイに意見を聞いたところ、好きにするといいとの返答だったので、好きにする。
「神子様にはご迷惑をおかけしたにも関わらず、多大な功徳をお授けくださいまして、感謝は尽きません。まことにありがとうございました」
晴人が旅に戻ると告げると、神殿長は謝罪と感謝の言葉で送り出してくれた。
ここ数日ですっかり気に入った食事と離れるのはつらかったが、日持ちのするような堅焼きパンや干し肉などを詰めて持たせてもらえた。
「隣の都は半年ほど前に領主が代替わりしたのですが、それ以来、行き来が少なくなっております。わたくしも今、都がどうなっているのかはよくわからないのですが、きっと魔素の影響は受けていることでしょう。どうか、お気をつけてください」
見送る神殿長の隣には、シオンが寄り添っている。
「勝手なお願いまで聞き入れてくださった神子様のお優しさ、生涯忘れることはございません。神子様の旅のご無事をお祈り申し上げております」
シオンからも激励の言葉を送られ、晴人は微笑んで頷く。
これからはきっと、斜めの方向に暴走しがちな神殿長の手綱をシオンが握っていくのだろう。
この二人、そして神殿のみんなにも幸福があることを願い、晴人は別れを告げて神殿を去ったのだった。
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