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34.懺悔2
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ときおりセイが耳打ちしてくれる解説も含めてまとめると、こうだった。
聖娼としての力が一番強いのは十代半ばから二十代に差しかかる頃で、年齢を重ねるとだんだん弱っていく。そのため、ある程度の年齢になれば引退することになる。神殿長も元聖娼だが、二十代半ばで引退していたそうだ。
ところが、ここ最近は魔素が濃くなったために神殿を訪れる人の数が増え、聖娼の数も不足気味になっていた。なるべく聖娼たちの負担を減らすべく、どうしてもというときは神殿長も聖娼として働いていたそうだ。
しかし、もう現役の頃と比べると力が弱まっていたために、中和しきれない。自分の体内に魔素が残ることになってしまっていたという。
そこに若く、力にあふれた少年が現れた。
シオンの弟、リオンである。
魔物化が迫るほどに魔素をためこんでしまった神殿長にとって、理性など吹き飛んでしまうほどに魅力的な存在だったようだ。
今回の晴人に対してのように、ほとんど無理やり襲いかかったという。そのおかげで魔素は浄化され、魔物化は食い止められたのだ。
ただ、そこで我に返ってみれば神殿長は激しい自責の念に苛まれた。
ちょうど他の神殿から力の強いリオンを望まれ、神殿長は自らの罪と向き合うことから逃げてリオンを引き渡したのだ。
「あの子にも、兄であるあなたにも申し訳がなく……せめて、職務をまっとうすることで償おうと考えました。しかし、やはりこのような罪深い者、生きていてはならないのだと……」
「……ふざけないでください。死んで、逃げる気ですか? あなたが死んで、弟の行方がわかるとでも?」
懺悔の言葉を呟く神殿長をさえぎり、シオンが低く抑えた声で吐き捨てる。
「そもそも、おかしいのはそれ以前でしょう。あなたが一人で抱え込み、変な結論を出して一人で勝手に突っ走ることが問題です。一言相談してくだされば、どうにかできることだってあったというのに……。私たちはそれほど頼りになりませんか? あなたの問題を何ひとつ分かち合うことなどできぬ無能ぞろいだと?」
「そ、そのようなことは……」
シオンの剣幕に押されたように、ぼそぼそと神殿長が言い訳じみた声をもらす。
「それに弟を襲ったと言いましたが、魔物化を食い止めるほどの浄化がなされたということは、弟は承諾したのではありませんか? 私だとて、もしあなたがそういう事態に陥っているので浄化を頼むと言ってくだされば、喜んで引き受けました」
言葉を区切り、シオンは神殿長の肩に顔をうずめる。
「どうか、私を頼ってください。私にもあなたの重荷を分かち合わせてほしい。あなたと共に歩かせてください」
「シオン……」
二人の世界を作り上げる神殿長とシオンを、晴人ははらはらとしながら見守っていた。
すっかり自分は置いてけぼりにされているが、この場がうまくまとまるのならそれでもよいと思えた。
神殿長の行動や考えは晴人には理解が及ばず、さらに自分勝手といえば自分勝手だが、一人で重荷を抱え続けた結果と思えば、晴人の胸に浮かんでくるのは憐憫だ。
シオンの言うとおり、神殿長も他の者に頼ることを覚えればよいのにと思う。
「……ですが、あなたに対してもわたくしの罪は……やはり……」
なおも言い募ろうとする神殿長の胸倉をシオンがつかみあげた。
今まで穏やかに振舞っていたシオンとは思えぬ暴力的な行動に、晴人は息をのむ。
神殿長も驚いたようで、言いかけた言葉を引っ込めてシオンを呆然と眺めていた。
「死んで逃げようとするなんて、許さない。罪だと思うのなら、一生をかけて私に償ってください」
聖娼としての力が一番強いのは十代半ばから二十代に差しかかる頃で、年齢を重ねるとだんだん弱っていく。そのため、ある程度の年齢になれば引退することになる。神殿長も元聖娼だが、二十代半ばで引退していたそうだ。
ところが、ここ最近は魔素が濃くなったために神殿を訪れる人の数が増え、聖娼の数も不足気味になっていた。なるべく聖娼たちの負担を減らすべく、どうしてもというときは神殿長も聖娼として働いていたそうだ。
しかし、もう現役の頃と比べると力が弱まっていたために、中和しきれない。自分の体内に魔素が残ることになってしまっていたという。
そこに若く、力にあふれた少年が現れた。
シオンの弟、リオンである。
魔物化が迫るほどに魔素をためこんでしまった神殿長にとって、理性など吹き飛んでしまうほどに魅力的な存在だったようだ。
今回の晴人に対してのように、ほとんど無理やり襲いかかったという。そのおかげで魔素は浄化され、魔物化は食い止められたのだ。
ただ、そこで我に返ってみれば神殿長は激しい自責の念に苛まれた。
ちょうど他の神殿から力の強いリオンを望まれ、神殿長は自らの罪と向き合うことから逃げてリオンを引き渡したのだ。
「あの子にも、兄であるあなたにも申し訳がなく……せめて、職務をまっとうすることで償おうと考えました。しかし、やはりこのような罪深い者、生きていてはならないのだと……」
「……ふざけないでください。死んで、逃げる気ですか? あなたが死んで、弟の行方がわかるとでも?」
懺悔の言葉を呟く神殿長をさえぎり、シオンが低く抑えた声で吐き捨てる。
「そもそも、おかしいのはそれ以前でしょう。あなたが一人で抱え込み、変な結論を出して一人で勝手に突っ走ることが問題です。一言相談してくだされば、どうにかできることだってあったというのに……。私たちはそれほど頼りになりませんか? あなたの問題を何ひとつ分かち合うことなどできぬ無能ぞろいだと?」
「そ、そのようなことは……」
シオンの剣幕に押されたように、ぼそぼそと神殿長が言い訳じみた声をもらす。
「それに弟を襲ったと言いましたが、魔物化を食い止めるほどの浄化がなされたということは、弟は承諾したのではありませんか? 私だとて、もしあなたがそういう事態に陥っているので浄化を頼むと言ってくだされば、喜んで引き受けました」
言葉を区切り、シオンは神殿長の肩に顔をうずめる。
「どうか、私を頼ってください。私にもあなたの重荷を分かち合わせてほしい。あなたと共に歩かせてください」
「シオン……」
二人の世界を作り上げる神殿長とシオンを、晴人ははらはらとしながら見守っていた。
すっかり自分は置いてけぼりにされているが、この場がうまくまとまるのならそれでもよいと思えた。
神殿長の行動や考えは晴人には理解が及ばず、さらに自分勝手といえば自分勝手だが、一人で重荷を抱え続けた結果と思えば、晴人の胸に浮かんでくるのは憐憫だ。
シオンの言うとおり、神殿長も他の者に頼ることを覚えればよいのにと思う。
「……ですが、あなたに対してもわたくしの罪は……やはり……」
なおも言い募ろうとする神殿長の胸倉をシオンがつかみあげた。
今まで穏やかに振舞っていたシオンとは思えぬ暴力的な行動に、晴人は息をのむ。
神殿長も驚いたようで、言いかけた言葉を引っ込めてシオンを呆然と眺めていた。
「死んで逃げようとするなんて、許さない。罪だと思うのなら、一生をかけて私に償ってください」
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