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33.懺悔1
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「……何をなさっておいででしょうか?」
凍てつくような声が響く。晴人はかすれた頭で、シオンの声のようだとかろうじて気づいた。
「神子様は拒否なさっているようですね。承諾の気配がありません。……神殿長、あなたは今まで私たちにも無理を強いるようなことはありませんでした。それなのに、いったいどうしたというのですか?」
続いてシオンが質問を投げかけると、神殿長が晴人から身を離した。
指も引き抜かれ、ようやく苦しいまでの疼きからも解放される。まだ何かが入っているような異物感は残っていたが、快楽責めからは逃れることができたようだ。
「……わたくしは、穢れきった罪深い者なのです」
ぼそり、と神殿長の声が弱々しくもれた。
そして寝台から離れる。
だんだんと晴人の身体も元に戻ってきたようだった。
シオンから布を受け取って身体を拭き、服を着る。のろのろとした動きを見かねたシオンが手伝おうとしたが、さすがにこれ以上あらぬところを晒したくない晴人は丁重に断った。
ゆっくりと晴人が身だしなみを整えている間、神殿長は寝台横の椅子に座ったままじっとうなだれており、一言も発することはなかった。
「あの……神殿長さん、どうしてこんなことをしたんですか……?」
声も戻った晴人は、おそるおそる尋ねてみる。
強姦されそうになったというのに、神殿長に対する気持ちは怒りよりも憐れみのほうが強い。
「……神子様ならば、わたくしの穢れきった身と心を清めてくださると思ったからです」
俯いたまま、神殿長は答える。先ほども幾度となく繰り返した言葉だ。
「それって、魔素の浄化っていうことですか? 神殿長さんは、それほど魔素に冒されているわけではないみたいですけれど……」
セイから聞いた神殿長の状態を思い出しながら、晴人は神殿長の様子をうかがう。
魔素をどれくらい取り込んでいるのかという区別はつかなかったが、セイの言葉を信用することにする。
「……それならば、もうわたくしの罪は救いようがないほど重いということでしょうか」
「え? その……そもそも、どうしてだまし討ちのようなことをしたんでしょうか? 魔素がどうのっていうことだったら、言ってくれれば……」
魔素をためこんでいると感じていたのなら、素直に言ってくれればセイに尋ねるなりしてどうにか対策を考えることができたはずだ。襲いかかる必要はなかったように思える。
「神子様のような尊いお方が、わたくしなどをまともに受け入れてくれるはずもないと思いましたので」
しかし神殿長の答えは晴人には理解できないものだった。晴人は頭を抱えたくなってしまう。
「聖娼が魔素を浄化するとき、基本の手続きとして承諾がある。つまり、互いに合意の上での性交だと効果が高いっていうこと。聖娼の合意なく、無理やり突っ込んでもいちおう浄化はされるけれど、効果が薄くなってしまうんだ」
晴人の耳元で、セイがそっと解説する。いつの間にかセイは晴人の近くにいたらしい。
「ちなみに、きみの場合は合意なく突っ込まれても完全浄化できるから、別に承諾など必要ないんだけれどね。神殿長は聖娼の感覚をそのままあてはめたんだろう。無理やり突っ込まなかったのは、承諾を得ようとしていたんだろうね」
「いや、それって……もしかして、普通に頼んだら合意なんてもらえないだろうから、無理やり襲って快楽責めにして、どさくさにまぎれて合意させてしまえってことだったの……?」
「……おっしゃるとおりでございます」
セイに向けた言葉だったが、神殿長が観念したように頷いた。
「……普通に言えば、どうにか方法を考えたのに……」
あっけにとられながら晴人は呟く。神殿長の考え方がいまいち理解できない。
「どうしてあなたは斜めの考えをするのでしょうね。弟のことも、そういったわけのわからない考えで動いたのですか?」
呆れたようなシオンの声に、神殿長がはっとして顔を上げる。晴人も思わずシオンを見つめたが、シオンの整った顔から感情は読み取れなかった。
「あの子にも……わたくしの穢れを押し付けてしまいました」
ぽつり、ぽつりと神殿長は語りだす。
凍てつくような声が響く。晴人はかすれた頭で、シオンの声のようだとかろうじて気づいた。
「神子様は拒否なさっているようですね。承諾の気配がありません。……神殿長、あなたは今まで私たちにも無理を強いるようなことはありませんでした。それなのに、いったいどうしたというのですか?」
続いてシオンが質問を投げかけると、神殿長が晴人から身を離した。
指も引き抜かれ、ようやく苦しいまでの疼きからも解放される。まだ何かが入っているような異物感は残っていたが、快楽責めからは逃れることができたようだ。
「……わたくしは、穢れきった罪深い者なのです」
ぼそり、と神殿長の声が弱々しくもれた。
そして寝台から離れる。
だんだんと晴人の身体も元に戻ってきたようだった。
シオンから布を受け取って身体を拭き、服を着る。のろのろとした動きを見かねたシオンが手伝おうとしたが、さすがにこれ以上あらぬところを晒したくない晴人は丁重に断った。
ゆっくりと晴人が身だしなみを整えている間、神殿長は寝台横の椅子に座ったままじっとうなだれており、一言も発することはなかった。
「あの……神殿長さん、どうしてこんなことをしたんですか……?」
声も戻った晴人は、おそるおそる尋ねてみる。
強姦されそうになったというのに、神殿長に対する気持ちは怒りよりも憐れみのほうが強い。
「……神子様ならば、わたくしの穢れきった身と心を清めてくださると思ったからです」
俯いたまま、神殿長は答える。先ほども幾度となく繰り返した言葉だ。
「それって、魔素の浄化っていうことですか? 神殿長さんは、それほど魔素に冒されているわけではないみたいですけれど……」
セイから聞いた神殿長の状態を思い出しながら、晴人は神殿長の様子をうかがう。
魔素をどれくらい取り込んでいるのかという区別はつかなかったが、セイの言葉を信用することにする。
「……それならば、もうわたくしの罪は救いようがないほど重いということでしょうか」
「え? その……そもそも、どうしてだまし討ちのようなことをしたんでしょうか? 魔素がどうのっていうことだったら、言ってくれれば……」
魔素をためこんでいると感じていたのなら、素直に言ってくれればセイに尋ねるなりしてどうにか対策を考えることができたはずだ。襲いかかる必要はなかったように思える。
「神子様のような尊いお方が、わたくしなどをまともに受け入れてくれるはずもないと思いましたので」
しかし神殿長の答えは晴人には理解できないものだった。晴人は頭を抱えたくなってしまう。
「聖娼が魔素を浄化するとき、基本の手続きとして承諾がある。つまり、互いに合意の上での性交だと効果が高いっていうこと。聖娼の合意なく、無理やり突っ込んでもいちおう浄化はされるけれど、効果が薄くなってしまうんだ」
晴人の耳元で、セイがそっと解説する。いつの間にかセイは晴人の近くにいたらしい。
「ちなみに、きみの場合は合意なく突っ込まれても完全浄化できるから、別に承諾など必要ないんだけれどね。神殿長は聖娼の感覚をそのままあてはめたんだろう。無理やり突っ込まなかったのは、承諾を得ようとしていたんだろうね」
「いや、それって……もしかして、普通に頼んだら合意なんてもらえないだろうから、無理やり襲って快楽責めにして、どさくさにまぎれて合意させてしまえってことだったの……?」
「……おっしゃるとおりでございます」
セイに向けた言葉だったが、神殿長が観念したように頷いた。
「……普通に言えば、どうにか方法を考えたのに……」
あっけにとられながら晴人は呟く。神殿長の考え方がいまいち理解できない。
「どうしてあなたは斜めの考えをするのでしょうね。弟のことも、そういったわけのわからない考えで動いたのですか?」
呆れたようなシオンの声に、神殿長がはっとして顔を上げる。晴人も思わずシオンを見つめたが、シオンの整った顔から感情は読み取れなかった。
「あの子にも……わたくしの穢れを押し付けてしまいました」
ぽつり、ぽつりと神殿長は語りだす。
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