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30.罠2
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「えっと、その……良いようにと思っても、人間、ときには失敗してしまうこともあるっていうか……とにかく、聖娼の子たちが神殿長さんを慕っているっていうのは間違いないはずなんで!」
励まし方を失敗してしまったらしい。晴人はあせってどうにか取り繕おうと、思いついた言葉を並べてみる。
自分でもいったい何を言っているんだろうかとは思ったが、一度口にした言葉はもう戻らない。
「……神子様は、お優しい方ですね。お姿と同じようにお心も気高く、慈悲深い……」
口元に力なく笑みをうかべて神殿長は呟きをもらす。
「お、俺なんて、何も……」
「その慈悲にすがり、無体を強いる罪深いわたくしを、どうかお許しください」
晴人のぼそぼそとした声を、はっきりとした神殿長の声が掻き消す。
はっとして晴人が顔を上げようとすると、身体がやけに重く感じた。腕を動かそうとしたが、ぷるぷると震えるだけで思いどおりにならない。
「……っ」
声を出そうとするが、かすれた声がわずかにもれるだけだった。意識ははっきりしているが、身体がいうことをきかない。
「……本当に申し訳ございません。それはほんのいっとき、身体の自由を奪うものですが、副作用はございません。しばらくすれば元に戻ります」
つらそうな声で語りかけ、神殿長は椅子に座ったままの晴人を優しく腕に抱いた。
晴人は一般的な成人男性の体重があるが、いともあっさりと神殿長は持ち上げる。
「この神殿も、今は何とかやっていっています。しかし、魔素は日々濃くなり続けるばかり……。こうして神子様が現れてくださったことは、まさに神のみわざとしか言いようがありません。どうかわたくしどもをお救いください」
神殿長は晴人を抱きかかえ、隣の寝室に移動する。
晴人は丁寧に寝台の上に降ろされたが、身動きは取れない。声も出せず、ただ目を見開いて神殿長を見つめるだけだ。
先ほどの食事に痺れ薬でも入っていたのだろうか。
晴人は自分の身に何が起こっているのか、何故神殿長がこのようなことをするのかわからず、混乱の中にいた。
頭の中にはインプからの忠告がよみがえる。まさかとは思ったものの、インプの言葉は正しかったらしい。
ただ、気をつけろとは言われたものの、具体的なことについてインプは何も言っていなかった。
いったい神殿長は自分に何をするつもりなのだろうか。晴人は動けない身体で、手のひらにじんわりと汗がにじんでくるのだけを感じていた。
「神子様は、魔物化してしまった者すらお救いになれるとか。穢れきったわたくしの身も、あなたなら清めてくださるに違いない」
情欲などかけらもない悲痛な眼差しを向け、神殿長は晴人の首筋にそっと口付けを落としてきた。
励まし方を失敗してしまったらしい。晴人はあせってどうにか取り繕おうと、思いついた言葉を並べてみる。
自分でもいったい何を言っているんだろうかとは思ったが、一度口にした言葉はもう戻らない。
「……神子様は、お優しい方ですね。お姿と同じようにお心も気高く、慈悲深い……」
口元に力なく笑みをうかべて神殿長は呟きをもらす。
「お、俺なんて、何も……」
「その慈悲にすがり、無体を強いる罪深いわたくしを、どうかお許しください」
晴人のぼそぼそとした声を、はっきりとした神殿長の声が掻き消す。
はっとして晴人が顔を上げようとすると、身体がやけに重く感じた。腕を動かそうとしたが、ぷるぷると震えるだけで思いどおりにならない。
「……っ」
声を出そうとするが、かすれた声がわずかにもれるだけだった。意識ははっきりしているが、身体がいうことをきかない。
「……本当に申し訳ございません。それはほんのいっとき、身体の自由を奪うものですが、副作用はございません。しばらくすれば元に戻ります」
つらそうな声で語りかけ、神殿長は椅子に座ったままの晴人を優しく腕に抱いた。
晴人は一般的な成人男性の体重があるが、いともあっさりと神殿長は持ち上げる。
「この神殿も、今は何とかやっていっています。しかし、魔素は日々濃くなり続けるばかり……。こうして神子様が現れてくださったことは、まさに神のみわざとしか言いようがありません。どうかわたくしどもをお救いください」
神殿長は晴人を抱きかかえ、隣の寝室に移動する。
晴人は丁寧に寝台の上に降ろされたが、身動きは取れない。声も出せず、ただ目を見開いて神殿長を見つめるだけだ。
先ほどの食事に痺れ薬でも入っていたのだろうか。
晴人は自分の身に何が起こっているのか、何故神殿長がこのようなことをするのかわからず、混乱の中にいた。
頭の中にはインプからの忠告がよみがえる。まさかとは思ったものの、インプの言葉は正しかったらしい。
ただ、気をつけろとは言われたものの、具体的なことについてインプは何も言っていなかった。
いったい神殿長は自分に何をするつもりなのだろうか。晴人は動けない身体で、手のひらにじんわりと汗がにじんでくるのだけを感じていた。
「神子様は、魔物化してしまった者すらお救いになれるとか。穢れきったわたくしの身も、あなたなら清めてくださるに違いない」
情欲などかけらもない悲痛な眼差しを向け、神殿長は晴人の首筋にそっと口付けを落としてきた。
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