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27.来訪者1
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何かを言いかけたセイはノックの音に口をつぐみ、扉に視線を向ける。
「誰か来たようだよ」
「う、うん……」
別の言葉がセイの口から放たれ、晴人はとまどいながらも扉に向かう。
セイが言いかけた言葉が何だったのか気になるが、今は問い返すことなどできなさそうだ。
「どうぞ」
声をかけて扉を開けてみれば、目を見張る美貌の青年が立っていた。
艶やかな黒髪は長く、首の後ろで一本に束ねられている。長い睫毛に彩られた目は金色で、引き込まれてしまいそうな妖しい輝きをたたえていた。
晴人は思わずぽかんと口を開けて青年を眺めてしまう。
「お疲れのところ、申し訳ございません。私はこの神殿の筆頭聖娼で、シオンと申します。どうしても神子様にお目にかかりたく、失礼いたしました」
「は、はい……」
丁寧に頭を下げるシオンと名乗った青年を前にし、晴人はしどろもどろになりながら頷く。
シオンは声も穏やかさの中に甘みがあり、心をざわめかせるような響きを持っていた。
「ど、どうぞ……」
晴人はぎくしゃくとした動きでシオンを部屋に招きいれ、椅子をすすめる。
シオンは柔らかく微笑んで礼を言うと、優雅な動作で椅子に腰掛けた。
「初めてお会いする神子様にとてもぶしつけなのですが……お伺いしたいことがあるのです。神子様は各地を巡る旅をしていらっしゃるとか。どこかで、私に似た聖娼を見かけたことはございませんか?」
憂いを帯びたシオンの瞳が晴人を捉える。
晴人は呆けたようにシオンを見返しながら、これほどの美青年など初めて見ると首を横に振った。
「い、いえ……心当たりはありません……」
「そうですか……失礼いたしました」
そっとシオンの目が伏せられた。さほど落胆しているようには見受けられなかったが、きっと抑えているのだろう。晴人の胸がちくりと痛んだ。
「あの、何かあったんですか?」
「実は私の弟が行方知れずになってしまい、各地を旅する神子様ならばもしかして……と思いまして……」
「弟さんが行方知れず? 弟さんも聖娼なんですか?」
「はい……本来、私の弟も聖娼としてこの神殿に迎えられる予定だったのですが……突然、他の神殿で人手が足りなくてそちらに行くことになったのです。ところが、その神殿あてに手紙を書いたところ、また違う神殿に移ったと返事がありまして……。結局、弟がどこの神殿に迎えられたのかわからなくなってしまったのです」
シオンの瞳が悲しげに曇る。
「そんなことが……神殿長さんには言ったんですか?」
「申し訳ないと謝られました。神殿長にも行方はわからないそうです。今のように忙しくては弟を探しに行くわけにもいかず、ただ無事を祈ることしかできません」
「そうですか……」
弟の行方がわからず、探す手立てもないのは、さぞつらいことだろう。晴人の胸にはシオンへの同情がこみあげてきた。
「ここでは聖娼に無理をさせることなどありませんし、扱いも悪くありません。しかし、近頃はそういう神殿ばかりではないと聞いております。弟がもし、無理をさせられているのではと思うと、心配で……」
先ほど、若い聖娼の子たちも同じようなことを言っていた。この神殿において聖娼の扱いは良いらしい。
「誰か来たようだよ」
「う、うん……」
別の言葉がセイの口から放たれ、晴人はとまどいながらも扉に向かう。
セイが言いかけた言葉が何だったのか気になるが、今は問い返すことなどできなさそうだ。
「どうぞ」
声をかけて扉を開けてみれば、目を見張る美貌の青年が立っていた。
艶やかな黒髪は長く、首の後ろで一本に束ねられている。長い睫毛に彩られた目は金色で、引き込まれてしまいそうな妖しい輝きをたたえていた。
晴人は思わずぽかんと口を開けて青年を眺めてしまう。
「お疲れのところ、申し訳ございません。私はこの神殿の筆頭聖娼で、シオンと申します。どうしても神子様にお目にかかりたく、失礼いたしました」
「は、はい……」
丁寧に頭を下げるシオンと名乗った青年を前にし、晴人はしどろもどろになりながら頷く。
シオンは声も穏やかさの中に甘みがあり、心をざわめかせるような響きを持っていた。
「ど、どうぞ……」
晴人はぎくしゃくとした動きでシオンを部屋に招きいれ、椅子をすすめる。
シオンは柔らかく微笑んで礼を言うと、優雅な動作で椅子に腰掛けた。
「初めてお会いする神子様にとてもぶしつけなのですが……お伺いしたいことがあるのです。神子様は各地を巡る旅をしていらっしゃるとか。どこかで、私に似た聖娼を見かけたことはございませんか?」
憂いを帯びたシオンの瞳が晴人を捉える。
晴人は呆けたようにシオンを見返しながら、これほどの美青年など初めて見ると首を横に振った。
「い、いえ……心当たりはありません……」
「そうですか……失礼いたしました」
そっとシオンの目が伏せられた。さほど落胆しているようには見受けられなかったが、きっと抑えているのだろう。晴人の胸がちくりと痛んだ。
「あの、何かあったんですか?」
「実は私の弟が行方知れずになってしまい、各地を旅する神子様ならばもしかして……と思いまして……」
「弟さんが行方知れず? 弟さんも聖娼なんですか?」
「はい……本来、私の弟も聖娼としてこの神殿に迎えられる予定だったのですが……突然、他の神殿で人手が足りなくてそちらに行くことになったのです。ところが、その神殿あてに手紙を書いたところ、また違う神殿に移ったと返事がありまして……。結局、弟がどこの神殿に迎えられたのかわからなくなってしまったのです」
シオンの瞳が悲しげに曇る。
「そんなことが……神殿長さんには言ったんですか?」
「申し訳ないと謝られました。神殿長にも行方はわからないそうです。今のように忙しくては弟を探しに行くわけにもいかず、ただ無事を祈ることしかできません」
「そうですか……」
弟の行方がわからず、探す手立てもないのは、さぞつらいことだろう。晴人の胸にはシオンへの同情がこみあげてきた。
「ここでは聖娼に無理をさせることなどありませんし、扱いも悪くありません。しかし、近頃はそういう神殿ばかりではないと聞いております。弟がもし、無理をさせられているのではと思うと、心配で……」
先ほど、若い聖娼の子たちも同じようなことを言っていた。この神殿において聖娼の扱いは良いらしい。
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