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15.神子1
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「ま……魔物から戻った……」
「もしや、神子様……?」
「そうだ、神子様だ。神子様がお救いくださったんだ」
先ほどまで晴人を囲んでいた村人たちも、衝撃的な事件から立ち直ってきたようだ。ひそひそと囁きが交わされる。
「神子様、ありがとうございます!」
給仕をしていた少年が晴人の足下にひざまずき、感極まった声をあげる。その姿にならうように、囁きを交わしていた他の村人たちも床にひざまずき始めた。
村人たちからの神子様コールが響く中、晴人はわけがわからずに立ち尽くすだけだった。
そして、よくわからないまま、晴人は村長の家へと丁寧に連行された。
「まさか、生きている間に神子様のお姿を拝見できるとは……光栄の極みにございます。しかも我が村の者が魔物と化したところをお救いくださったとのこと、どれほど礼を申し上げても足りないくらいでございます」
「は……はあ……」
村長だという老人からやたらと厚い礼を述べられて、晴人はぼんやりと頷くことしかできなかった。
しかし、それでも村長は晴人の態度を無礼などとは思わなかったらしく、涙ながらの感謝の言葉が続けられる。
夕食を食べ損ねた晴人の腹が大きな音で主張を始めるまで、村長の話は途切れなかった。
ようやく自らの話の長さに気づいた村長の命により、晴人の腹を鎮めるための供物が運び込まれる。湯気の立ち上る鳥の丸焼きから果物らしきものまで、宿の食事よりも豪華なご馳走が晴人の前にところ狭しとばかりに並べられた。
現状を理解できないままの晴人だったが、空腹には抗えない。目の前に並べられたご馳走を頬張ることに全力を集中する。
やがて晴人の腹が満たされると、宿よりも上等な部屋に通された。ごゆっくりお休みくださいとのことだったので、今日は村長の家が晴人の宿ということになったらしい。
「セイ?」
晴人は部屋の中に他の人間がいないことを確かめると、ここに来るまでじっと黙ったままだったセイに声をかける。
「何?」
何事も無かったように返事があった。晴人はほっと胸をなでおろす。
「よかった……ずっと黙ったままだったから、どうしたのかと思った」
「途中で変に口出しして、僕にきみの意識が集中してしまったら、周りにおかしく思われそうだったからね。ところで、何か聞きたいことでも?」
セイはこれまでと同じように淡々と答え、首を傾げる。
「そう、みんな俺のことを神子って呼んでいたみたいだけど……それって何?」
「約三百年に一度、異界から召喚される者のことだよ。間違いなくきみのことだ。胸を張っていい」
「やたらと丁寧な扱いを受けたけど……」
いつ尻に手が伸びてくるかびくびくとしていたのに、一転してひざまずかれてしまったのだ。恐縮して、崇拝の眼差しを浴びせかけてきた村人たちの姿が忘れられない。
「もしや、神子様……?」
「そうだ、神子様だ。神子様がお救いくださったんだ」
先ほどまで晴人を囲んでいた村人たちも、衝撃的な事件から立ち直ってきたようだ。ひそひそと囁きが交わされる。
「神子様、ありがとうございます!」
給仕をしていた少年が晴人の足下にひざまずき、感極まった声をあげる。その姿にならうように、囁きを交わしていた他の村人たちも床にひざまずき始めた。
村人たちからの神子様コールが響く中、晴人はわけがわからずに立ち尽くすだけだった。
そして、よくわからないまま、晴人は村長の家へと丁寧に連行された。
「まさか、生きている間に神子様のお姿を拝見できるとは……光栄の極みにございます。しかも我が村の者が魔物と化したところをお救いくださったとのこと、どれほど礼を申し上げても足りないくらいでございます」
「は……はあ……」
村長だという老人からやたらと厚い礼を述べられて、晴人はぼんやりと頷くことしかできなかった。
しかし、それでも村長は晴人の態度を無礼などとは思わなかったらしく、涙ながらの感謝の言葉が続けられる。
夕食を食べ損ねた晴人の腹が大きな音で主張を始めるまで、村長の話は途切れなかった。
ようやく自らの話の長さに気づいた村長の命により、晴人の腹を鎮めるための供物が運び込まれる。湯気の立ち上る鳥の丸焼きから果物らしきものまで、宿の食事よりも豪華なご馳走が晴人の前にところ狭しとばかりに並べられた。
現状を理解できないままの晴人だったが、空腹には抗えない。目の前に並べられたご馳走を頬張ることに全力を集中する。
やがて晴人の腹が満たされると、宿よりも上等な部屋に通された。ごゆっくりお休みくださいとのことだったので、今日は村長の家が晴人の宿ということになったらしい。
「セイ?」
晴人は部屋の中に他の人間がいないことを確かめると、ここに来るまでじっと黙ったままだったセイに声をかける。
「何?」
何事も無かったように返事があった。晴人はほっと胸をなでおろす。
「よかった……ずっと黙ったままだったから、どうしたのかと思った」
「途中で変に口出しして、僕にきみの意識が集中してしまったら、周りにおかしく思われそうだったからね。ところで、何か聞きたいことでも?」
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「そう、みんな俺のことを神子って呼んでいたみたいだけど……それって何?」
「約三百年に一度、異界から召喚される者のことだよ。間違いなくきみのことだ。胸を張っていい」
「やたらと丁寧な扱いを受けたけど……」
いつ尻に手が伸びてくるかびくびくとしていたのに、一転してひざまずかれてしまったのだ。恐縮して、崇拝の眼差しを浴びせかけてきた村人たちの姿が忘れられない。
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