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13.はじめてのモテ期と魔物2
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「モテモテでよかったね。もし気に入った相手がいたら、寝床をともにしてみるといい。人間相手でも魔素は吸収できるから、それなりに強くなれるよ」
とんでもないことを平気で言ってくるセイに文句を言いたかったが、男たちに囲まれている現状では無理だ。晴人はセイから視線をそらしたまま、聞こえていないふりをする。
何より、いつ晴人の尻に手が伸びてくるかが恐ろしい。
「おい、どうしたんだ? かわいい子大好きなおまえが、妙におとなしいな」
晴人を取り巻いていた男の一人がふと、食堂の片隅にぽつりとたたずむ男に声をかけた。その男は一人でテーブルの上に両肘をつき、指を組んで口元にあてている。まるで祈っているような姿だ。
「いや……さっき、町から帰ってきたばかりなんだが、やたらと寒気がしてな。メシを食ったらさっさと帰って寝ようと思ってるんだ」
「なんだ、風邪か? そりゃあさっさと寝たほうがいいな」
どうということのない村人たちの会話が交わされる。
ゆっくりと大儀そうに吐き出される声と、心配するような声のやりとりは稀なことかもしれない。しかし、日常の範囲を超えるものではないだろう。
異常は、次の瞬間に起こった。
気だるそうなありふれた男の姿が、膨らんだのだ。丸めていた背中が上に向かって破裂するように突き出た。ぼさぼさだった髪は、ぴんと垂直に天を突く。この男だけ、天と地との両方の重力によって引っ張られ、膨張したかのようだ。
食堂にいる誰もが動きを止め、目の前で起こる男の変化を呆然と眺めていた。晴人も理解が追いつかず、声を発することすらできなかった。
男の服が膨張に耐え切れず、引き裂かれていく音だけが響く。
「ひっ!」
そこに初めて人の声が加わった。給仕をしていた少年が、奥から料理を運んで戻ってきたのだ。盆ごと料理が床に落ち、湯気が立ち上る。
元の倍近くまで膨らんだ男は、血走った目を音が響いた方向に向ける。大きく裂けた口の端からはよだれがだらだらと垂れていた。
男はゆっくりと、力を失って崩れ落ちた少年に近づいていく。
「魔物化したね」
晴人の耳に冷静な声が届く。目の前の出来事についていけずに取り残されていた意識が、現実に引き戻される。
「ま……魔物化……?」
かすれた声でセイの言葉をなぞる。喉がカラカラに渇いていた。
「許容量を超えて魔素を取り込むと、ああなる。どういう魔物になるかはそれぞれだけど、なかなか大きくなったようだね」
セイの声はおちついており、のんびりしているようにすら聞こえる。その声は晴人を現実に引き戻す一方、苛立たせた。
「だったら、どうすれば……!」
「簡単だよ。ほら」
こみあげてくる感情をぶつけると、セイはあっさりと指を晴人の後ろに向ける。声も仕草も淡々としていて、迷いなど見当たらない。そこがかえって恐ろしい。
背筋に冷たいものが流れるのを感じながら、晴人はおそるおそるセイが指し示した後ろを振り返る。
その途端に限界まで見開かれ、赤く染まった目と視線が合った。
とんでもないことを平気で言ってくるセイに文句を言いたかったが、男たちに囲まれている現状では無理だ。晴人はセイから視線をそらしたまま、聞こえていないふりをする。
何より、いつ晴人の尻に手が伸びてくるかが恐ろしい。
「おい、どうしたんだ? かわいい子大好きなおまえが、妙におとなしいな」
晴人を取り巻いていた男の一人がふと、食堂の片隅にぽつりとたたずむ男に声をかけた。その男は一人でテーブルの上に両肘をつき、指を組んで口元にあてている。まるで祈っているような姿だ。
「いや……さっき、町から帰ってきたばかりなんだが、やたらと寒気がしてな。メシを食ったらさっさと帰って寝ようと思ってるんだ」
「なんだ、風邪か? そりゃあさっさと寝たほうがいいな」
どうということのない村人たちの会話が交わされる。
ゆっくりと大儀そうに吐き出される声と、心配するような声のやりとりは稀なことかもしれない。しかし、日常の範囲を超えるものではないだろう。
異常は、次の瞬間に起こった。
気だるそうなありふれた男の姿が、膨らんだのだ。丸めていた背中が上に向かって破裂するように突き出た。ぼさぼさだった髪は、ぴんと垂直に天を突く。この男だけ、天と地との両方の重力によって引っ張られ、膨張したかのようだ。
食堂にいる誰もが動きを止め、目の前で起こる男の変化を呆然と眺めていた。晴人も理解が追いつかず、声を発することすらできなかった。
男の服が膨張に耐え切れず、引き裂かれていく音だけが響く。
「ひっ!」
そこに初めて人の声が加わった。給仕をしていた少年が、奥から料理を運んで戻ってきたのだ。盆ごと料理が床に落ち、湯気が立ち上る。
元の倍近くまで膨らんだ男は、血走った目を音が響いた方向に向ける。大きく裂けた口の端からはよだれがだらだらと垂れていた。
男はゆっくりと、力を失って崩れ落ちた少年に近づいていく。
「魔物化したね」
晴人の耳に冷静な声が届く。目の前の出来事についていけずに取り残されていた意識が、現実に引き戻される。
「ま……魔物化……?」
かすれた声でセイの言葉をなぞる。喉がカラカラに渇いていた。
「許容量を超えて魔素を取り込むと、ああなる。どういう魔物になるかはそれぞれだけど、なかなか大きくなったようだね」
セイの声はおちついており、のんびりしているようにすら聞こえる。その声は晴人を現実に引き戻す一方、苛立たせた。
「だったら、どうすれば……!」
「簡単だよ。ほら」
こみあげてくる感情をぶつけると、セイはあっさりと指を晴人の後ろに向ける。声も仕草も淡々としていて、迷いなど見当たらない。そこがかえって恐ろしい。
背筋に冷たいものが流れるのを感じながら、晴人はおそるおそるセイが指し示した後ろを振り返る。
その途端に限界まで見開かれ、赤く染まった目と視線が合った。
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