貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
8 / 90

08.晴人の決意2

しおりを挟む
「おおまかに分けて、貴族などの権力者連中と、神殿の二種類。前回と前々回はそれで苦労している。時間が長く経つほど魔素が広がって、人々が魔物化してしまったり、魔物が強くなったりしてしまうから、気をつけてね」

 どうやら時間制限があるらしい。時間をかけるほど、ペナルティも発生していくということだろう。

「時間が経つほどって……どれくらい経つと危ないの?」

「そうだね……通常だと一週間くらいはまったく問題なしで、そこから徐々にってところかな。一ヶ月くらいまでならどうにかなると思うけれど、それを過ぎるとかなり大変になりそうだね」

「今までって、普通はどれくらいかかっていたの?」

「たいていは一週間そこそこで終わっていたみたいだね。邪魔が入ったときだと、一ヶ月以上かかったこともあるけれど」

 一ヶ月以内とすると、猶予はそれほど長くないようだ。しかし今までが一週間そこそこで終わっていたというのなら、道のりもさほど長くないのだろう。
 ただしこれまでが貞操を度外視しての行程であったことを考えると、貞操を守りたい晴人はもっと時間がかかってしまいそうだ。

「僕のおすすめは、やっぱり手っ取り早くヤられて強くなることだけどね。今回なら数日で終わると思うよ」

 悩む晴人にありがたくない助言が授けられる。

「いや、それは却下」

 そこは譲れないのだ。いくら時間制限があるとはいっても、貞操を犠牲にしたくはない。
 もし時間を過ぎればかなり大変になるとはいっても、ゲームオーバーとは言わなかった。一ヶ月以上かかったこともあるというのだし、どうにか道のりはあるのだろう。
 ならば、これ以上尻にまつわる新たな世界への扉は開かずに、元の世界への扉だけを開きたい。

「まあ、きみが貞操を守りたいっていうんだったら、頑張ってみるといい。いちおう、そのための道具もあげよう」

 セイが両方の手のひらをそろえて上に向けると、空中に短剣が現れた。
 晴人の肘から指先程度までの長さの短剣で、銀色に輝く鞘に収められている。柄も銀色で、全体が銀の光に包まれているようだった。

「この短剣は、浄化の力を持っている。これを使って魔物を浄化すると、きみの力と共鳴して、ほんのわずかだけれどきみの力にもなる」

「この短剣を使って魔物を倒すと、強くなれるってこと?」

 短剣を受け取りながら、晴人は尋ねてみる。ひんやりと冷たい短剣は軽く、晴人の手になじんだ。

「そうだね。方法としては、相手を発情させておとなしくなったところで、短剣を使って浄化かな」

「結局、発情はさせなきゃいけないの……?」

 うんざりとしながら晴人は問いかける。魔物は基本的にオスしかいないという。そんな魔物を発情させたら、襲われる可能性が高そうではないか。

「きみが短剣の扱いに慣れていて、短剣一本で魔物と渡り合う腕があるのなら別だけど」

「……ありません」

 短剣など持つのも初めてだ。残念ながら、運動神経すらそれほどよいとはいえない。

「まあ、気楽にいくといい。もし魔物に負けたとしても、犯されるだけだから別に問題はないしね。一回ヤられてしまえば、きみもあきらめがつくだろう」

 決して気楽になどなれない励ましを受け、晴人はぶるぶると身を震わせた。恐怖ややるせなさは、だんだん理不尽への怒りに転化されて晴人の心を燃やしていく。

「冗談じゃない! 俺は絶対に貞操を守りぬく!」

 晴人の決意は空っぽの神殿に虚しく反響していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...