貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
3 / 90

03.ゲーム世界1

しおりを挟む
「え……?」

 晴人は呆然と目を見開き、間抜けな声を漏らす。

「性交を重ねるほど強くなれるって……そんな、ゲームのような……って、まさか、ゲームの世界に迷い込んだとでも……? いや、それこそまさかだよな……はは……きっと、就職活動で疲れているんだ。これは夢だ、夢」

 もう一度眠れば、目が覚めるかもしれない。晴人は身を投げ出すように、床の上に寝転がる。ひんやりとした硬い感触が伝わってきて、ぶるぶると身を震わせた。

「すごいな……今日の夢は感覚までリアルだ……」

「まあ、夢でもいいんだけれどさ。目的を果たすまで、夢は覚めないよ」

 無慈悲な声が晴人を現実逃避から引き戻す。

「目的って何だよ! 俺はどうやったら帰れるんだ!?」

 涙があふれそうになるのをぐっとこらえ、晴人は声を張り上げる。わけがわからず、ただ悔しさと不安だけがこみあげてきて、叫ばずにはいられなかった。

「落ち着いて。そんなに難しいことじゃないから。まず、性交を重ねて強くなる。強くなったら魔物たちを倒しながら、目的地に行く。そこに元の世界に戻るための扉があるから、帰れる。それだけだよ」

 影のゆったりとした口調が、ささくれだった晴人の心を穏やかに撫でていく。

「……俺は帰れるんだな?」

 とりあえずいろいろな問題は置いておき、一番大切なことだけを確認する。狭くて乱雑で、しかし自分の居心地よくなじんだ部屋が恋しかった。

「うん、もちろん。場合によっては少し時間がかかるかもしれないけれど、元の世界ではほとんど時間が経っていないはずだから、急がなくても大丈夫」

 先ほどは顔の形など判別できなかった影だが、だんだんと人の顔らしきものが見えるようになってきた。目を凝らせば、色こそ灰色のままだが、目鼻立ちが判別できる。切れ長の目に、すっと鼻筋が通った端正な顔立ちだ。

「……ちきしょう……イケメンなんて敵だ……」

「え?」

 ぎりぎりと奥歯を噛み締めながら心の中で呟いたつもりが、声になっていたらしい。影が疑問符を浮かべる。

「……なんでもない」

 すねたようにそっぽを向くと、影が不思議そうにゆらめく気配を感じた。やがて、何か思いついたように影が身を正す。

「……ああ、ごめん。やり直し。きみこそ、選ばれた神子だ! この世界を救えるのは、きみしかいない!」

 高らかに張り上げられる声がうそ臭い。

「いや……いまさら、いいよ……」

 がっくりとうなだれながら晴人は答える。いまさらそんなことを言われても、その気になどなれない。もう数年若ければ危なかったかもしれないが、自分は選ばれた特別な人間だと思い込むには、少々現実を知ってしまった。

「そう? じゃあ、とりあえず説明をしようか。まず僕の自己紹介から。僕はきみの案内役となる精霊のセイだ」

「俺は空井晴人。ごく普通の大学生……って、こっちで大学生ってわかるのかな。えっと、学生……学んでいる途中の人間……」

「大丈夫、わかるよ。ハルトだね、よろしく。僕はきみの旅に着いていくから、わからないことがあったらいつでも聞いて」

「うん、よろしく」

 異世界に一人で放り出されるわけではないようだ。案内役として着いてきてくれることに安堵する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊
BL
天涯孤独のソーマ・オルディスは自分にしか見えない【オカシナモノ】に怯える毎日を送っていた。 ある日、シェラント女帝国警察・特殊警務課(通称サーカス)で働く、華やかな青年、ネル・ハミルトンに声をかけられ、【オカシナモノ】が、吸血鬼に噛まれた人間の慣れ果て【悪霊(ベスィ)】であると教えられる。 意地悪なことばかり言ってくるネルのことを嫌いながらも、ネルの体液が、その能力で、自分の原因不明の頭痛を癒せることを知り、行動を共にするうちに、ネルの優しさに気づいたソーマの気持ちは変化してきて…? 吸血鬼とは?ネルの能力の謎、それらが次第に明らかになっていく中、国を巻き込んだ、永きに渡るネルとソーマの因縁の関係が浮かび上がる。二人の運命の恋の結末はいかに?! 【チャラ(見た目)警務官攻×ツンデレ受】 ケンカップル★バディ ※かっこいいネルとかわいいソーマのイラストは、マグさん(https://twitter.com/honnokansoaka)に頂きました! ※いつもと毛色が違うので、どうかな…と思うのですが、試させて下さい。よろしくお願いします!

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

地下酒場ナンバーワンの僕のお仕事

カシナシ
BL
地下にある紹介制の酒場で、僕は働いている。 お触りされ放題の給仕係の美少年と、悪戯の過ぎる残念なイケメンたち。 果たしてハルトの貞操は守られるのか?

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

処理中です...