貞操を守りぬけ！

02．叩けよ、さらば開かれん２

　ふっと意識が浮上してくる。一瞬、ぼんやりとしたもののすぐに記憶がよみがえってきて、晴人はぶるぶると首を横に振った。

「一瞬、気を失ってた？　あれって、昔アニメで光の点滅を見て子供が体調不良になったっていうのと同じやつか？　部屋を明るくして離れて見てね、ってやつ」

　誰も聞く者などいないとはわかっていても、一人暮らしが長いためなのか、つい口に出してしまう。
　口に出すことによって、冷静になって確認する目的なのだと、晴人はいいわけじみた答えを自らに与えている。

「そうだね、光の点滅って目に優しくないよね」

　予想などしていない返事が響き、晴人はびくっと身を震わせた。自分の部屋には自分以外、誰もいないはずだ。
　確かめるようにきょろきょろと周囲を見回すと、景色が違った。いかにも男の一人暮らしといった有様の狭い部屋ではない。大理石のような床がずっと遠くまで続いている。ところどころに円柱があるが、それ以外には物が見当たらなかった。

「びっくりしているね。まあ、仕方がないか」

　もう一度、先ほどと同じ声が後ろから聞こえてきた。静かな小川のせせらぎを思わせるように澄んだ、若い男性のものと思われる声だ。
　おそるおそる振り向くと、空中に影が浮いていた。大きさは晴人と同じくらいだろうか。人間のような形をしていて、よく見ればぼんやりと顔らしきものも伺える。

「お……お化け……？」

　息を飲みながら、乾いた声を絞り出す。

「お化けとは失礼な。僕はいちおう、精霊ということになっている。ああ、まだよく見えていないのか。そのうち、もっとよく見えるようになるよ」

　目の前に浮かぶ影は、落ち着いた声で諭すように語りかけてくる。

「え……えっと、ここは……いったい……」

　男は三十まで童貞でいれば、魔法使いになれるという。しかし、自分にはまだ早いはずだ。晴人は現実逃避のように考えながら、それでも現状を理解しようと、かすれた質問を投げかけてみる。
　影がゆらり、と蠢いた。笑ったようでもあった。

「門を叩いただろう？　扉は開かれた。ここはきみの大好きな、剣と魔法、そして魔物がいる世界。きみはこの世界では、性交を重ねるほど、強くなれるのさ」