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68.お礼

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「ロシュさんも、元気でね。またいつでも、島に遊びに来て」

「ああ、ありがとう。きみにはとてもお世話になったよ。……俺はいつでも、きみの幸せを願っているよ」

 ヴァレンがロシュに声をかけると、ロシュは透き通ったような微笑みを浮かべた。ヴァレンを通して懐かしい思い出を見ているかのように、目を細める。
 そして目を閉じ、過去を吐き出すかのように長い吐息を漏らした後、再び目を開けたときには、現実に戻ってきたかのように親しみのある笑みを浮かべた。
 その瞳は、ただまっすぐに、そのままヴァレンを映している。

「ジリーメル君も元気でね。ネヴィルと一緒に頑張ってね」

「はい……ヴァレンさんには助けていただき、本当に感謝しています。僕……今度こそ、しっかり頑張ります」

 最初はおどおどとするだけだったジリーメルだが、だんだんと落ち着いてきたようだった。頼りなかった瞳は、今では決意が秘められている。
 いよいよ船が出航する時間となり、ヴァレンとエアイールは船着場で見送る。

「みんな、元気でねー!」

 ヴァレンが手を振ると、彼らも振り返した。エアイールもお上品にゆったりと手を振っている。
 やがて、船がゆっくりと遠ざかっていく。
 島に縛り付けられた白花の身では叶わない場所に、彼らは去っていくのだ。

「……行ってしまいましたね」

 遠くに小さく浮かぶ船を眺めながら、エアイールがぼそりと呟く。その横顔は、孤独を噛み締めているようでもあった。

「そうだな。さすがに、少し寂しいな」

「そうですね……」

 エアイールがそっとヴァレンに身を寄せてくる。人恋しくなっているのだろうと、ヴァレンはエアイールの背中をぽんぽんと優しく叩く。

「ああ……そうだ。おまえに、まだ礼をしていなかったな。でも、何がいいのかよくわからないんだよなあ……」

「……そのようなことを気にしていたのですか」

 くすり、とエアイールが少しだけ憂いを忘れたように笑う。

「今回は結構、負担をかけちゃったし。それに見合うっていったら、どんなものかなーって」

「あなたも、意外と律儀ですよね」

「意外って何だよ、意外って。あ、そうだ。話は変わるんだけど、俺、ずっと島に残ることにした」

 ふと思い出したので、伝え忘れる前に言っておこうと、ヴァレンはさらりと告げる。

「……はい?」

「というか、もう決まっちゃったっていうか……とにかく、白花引退後も島に残ることになったんだ」

「そ……それは、島から出て行かないということですか? 本当に……?」

 信じられないといった様子で、エアイールはヴァレンを見つめる。

「うん。まあ、出かけることくらいはあるだろうけど、居住地はここ。おまえが島を出るときまで、傍にいてやるよ」

「わたくしが島を出るなど、ありえませんよ……では、本当に……本当に……?」

「うん、本当。あ、それで話は戻るんだけど、おまえへの礼で何か欲しいものってある?」

「欲しいものなど……あなたが島に残ってくださるというのが、何よりの贈りものです。これ以上のものなど、わたくしには……」

 放心したようにヴァレンを見つめたままだったエアイールの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれてくる。

「お、おい……」

 涙を隠そうともせず、ただ流れるに任せたままのエアイールを見て、ヴァレンはたじろいでしまう。
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