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57.見張り
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島にたどりつくと、まだ早朝のままだった。
ヴァレンの体感時間よりも時間の経過は少なく、トゥルーテスはいったいどういった移動方法をしているのだろうかと、ヴァレンは疑問を抱く。しかし、考えても答えなど出ないので、すぐに疑問を放り出した。
「トゥルーテス様、ありがとうございました」
ヴァレンは未だに気を失ったままのジリーメルを背負い、『風月花』を抱えてトゥルーテスの甲羅から下りる。
さらに頭にはクラーケンが乗っているので、結構な大荷物だ。
「うむ。おまえの姿に疑問を覚えるが、まあよい。達者でな」
どことなく呆れた風だったが、それ以上は何も言うことなく、トゥルーテスは沖に向かって去っていった。
トゥルーテスを見送ったヴァレンは、まず門の外の休憩所に向かう。
休憩所についてもジリーメルは目を覚まさなかったが、管理人に言付けを頼んで預かってもらった。
次は領主に報告しておくべきだろうと、ヴァレンは領主屋敷に向かうことにする。
ヴァレンは門をくぐり、まっすぐに伸びる道を歩いていく。この島の花たちは寝静まっている時間のため、大通りを歩いているような者は誰もいない。
ところが、中央の広場までやってくると、傾斜のついた石畳にぼんやりと座り込んでいる姿があった。
「……ネヴィル?」
ヴァレンは物憂げにたたずむネヴィルに近寄り、声をかける。
「ああ、ヴァレン……って、何とも言えない格好をしているね……」
力なく顔を上げたネヴィルは、ヴァレンの頭上に視線を向けると、引きつった笑みを浮かべた。クラーケンを頭に乗せていることが気になるらしい。
「……まあ、きみだから仕方がないか。用事は終わったの?」
しかし、さすがに見習い時代から付き合いがあるだけのことはあり、ネヴィルはすぐに持ち直した。軽く頭を振って立ち上がると、普通にヴァレンと向き合って尋ねてくる。
「うん、終わったよ。ネヴィルはあの後、どうしていた?」
「きみが三階の窓から飛び降りたことについて、しばらくエアイールと顔を見合わせてぐったりしていたよ」
「あっはっは、ごめん」
じっとりとした視線を送ってくるネヴィルに対し、ヴァレンは笑ってごまかす。
「まあ、それからはエアイールと一緒に、アルンからミゼアス兄さんが残していったっていう花月琴を見せてもらったり、エアイールといろいろ話したりしていたよ。エアイールは僕の相手と、きみの招待客の相手とで、大変そうだったな。僕はいいからって言ってるのに、目の届かない場所に行くのはダメだって、束縛するんだよ」
ネヴィルはくすりと笑う。
エアイールは後のことは任せろと言ったとおり、ヴァレンの残していった面倒ごとをすべて引き受けてくれたようだ。
もともとロシュは人脈作りという目的があるので、放置した心苦しさはあるにせよ、さほど心配していなかったのだが、問題はネヴィルだった。
おそらくエアイールもネヴィルが何か思いつめているような不吉さを漂わせていることに気づいたのだろう。おかしなことが起こらないように見張っていてくれたことは、ありがたい。
後でエアイールには何らかの礼をしておこうと、ヴァレンは心に刻んでおく。
ヴァレンの体感時間よりも時間の経過は少なく、トゥルーテスはいったいどういった移動方法をしているのだろうかと、ヴァレンは疑問を抱く。しかし、考えても答えなど出ないので、すぐに疑問を放り出した。
「トゥルーテス様、ありがとうございました」
ヴァレンは未だに気を失ったままのジリーメルを背負い、『風月花』を抱えてトゥルーテスの甲羅から下りる。
さらに頭にはクラーケンが乗っているので、結構な大荷物だ。
「うむ。おまえの姿に疑問を覚えるが、まあよい。達者でな」
どことなく呆れた風だったが、それ以上は何も言うことなく、トゥルーテスは沖に向かって去っていった。
トゥルーテスを見送ったヴァレンは、まず門の外の休憩所に向かう。
休憩所についてもジリーメルは目を覚まさなかったが、管理人に言付けを頼んで預かってもらった。
次は領主に報告しておくべきだろうと、ヴァレンは領主屋敷に向かうことにする。
ヴァレンは門をくぐり、まっすぐに伸びる道を歩いていく。この島の花たちは寝静まっている時間のため、大通りを歩いているような者は誰もいない。
ところが、中央の広場までやってくると、傾斜のついた石畳にぼんやりと座り込んでいる姿があった。
「……ネヴィル?」
ヴァレンは物憂げにたたずむネヴィルに近寄り、声をかける。
「ああ、ヴァレン……って、何とも言えない格好をしているね……」
力なく顔を上げたネヴィルは、ヴァレンの頭上に視線を向けると、引きつった笑みを浮かべた。クラーケンを頭に乗せていることが気になるらしい。
「……まあ、きみだから仕方がないか。用事は終わったの?」
しかし、さすがに見習い時代から付き合いがあるだけのことはあり、ネヴィルはすぐに持ち直した。軽く頭を振って立ち上がると、普通にヴァレンと向き合って尋ねてくる。
「うん、終わったよ。ネヴィルはあの後、どうしていた?」
「きみが三階の窓から飛び降りたことについて、しばらくエアイールと顔を見合わせてぐったりしていたよ」
「あっはっは、ごめん」
じっとりとした視線を送ってくるネヴィルに対し、ヴァレンは笑ってごまかす。
「まあ、それからはエアイールと一緒に、アルンからミゼアス兄さんが残していったっていう花月琴を見せてもらったり、エアイールといろいろ話したりしていたよ。エアイールは僕の相手と、きみの招待客の相手とで、大変そうだったな。僕はいいからって言ってるのに、目の届かない場所に行くのはダメだって、束縛するんだよ」
ネヴィルはくすりと笑う。
エアイールは後のことは任せろと言ったとおり、ヴァレンの残していった面倒ごとをすべて引き受けてくれたようだ。
もともとロシュは人脈作りという目的があるので、放置した心苦しさはあるにせよ、さほど心配していなかったのだが、問題はネヴィルだった。
おそらくエアイールもネヴィルが何か思いつめているような不吉さを漂わせていることに気づいたのだろう。おかしなことが起こらないように見張っていてくれたことは、ありがたい。
後でエアイールには何らかの礼をしておこうと、ヴァレンは心に刻んでおく。
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