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56.あと二、三年
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見たものを全て記憶するヴァレンは、いつも手紙や書類を読むときは一瞬で終わってしまう。目に入りさえすれば、後からいくらでも思い出して処理できるからだ。
そのため、お気に入りの本を読み返すといった習慣はない。そもそも一度読んだ本は必要がないので、自分のために所有することもない。
しかし、ヴァレンは何度もミゼアスの手紙を読み返す。書かれていることが変わることなどないのだが、見るたびに胸が安らぎに包まれるのだ。
人が、気に入った本や手紙を大切に取っておき、何度も読み返すという気持ちが、ヴァレンにもわかったような気がした。
とりあえず手紙に満足すると、ヴァレンはまた服のかくしに手紙を大切にしまう。
すると、ぴょこんとクラーケンがヴァレンに膝の上にやってきた。ヴァレンが手紙を読み終わるまで、待っていたらしい。
「ああ……気を遣わせちゃったね、ごめん。ありがとう」
ヴァレンが微笑みかけると、クラーケンはゆったりと頷くように体をゆらめかせた。
「うーん……きみは俺が何を言っているのか、わかるんだよね? でも、俺にはわからないんだよなあ……」
ため息を漏らしながら、ヴァレンはクラーケンの触手に指を絡ませる。ぷにぷにとした感触が意外と気持ち良く、ついついヴァレンは強く押してしまう。
すると、クラーケンが別の触手でぺちぺちとヴァレンを叩き出した。痛くはなかったが、抗議しているのだろうかと思ったヴァレンは、強く押すのをやめる。指を離すと、クラーケンもヴァレンを叩くのをやめた。
「強く押すのはやめてほしい、と言っているぞ」
トゥルーテスの声が割り込んでくる。通訳してくれたようだ。
「トゥルーテス様はこの子が何を言っているか、わかるんですよね。そういえば、領主様もわかるみたいだったなー。どうして俺にはわからないんだろう……」
しみじみと吐息を漏らしながら呟くと、トゥルーテスが笑ったようだった。
「それは普通の人間にはわからないだろうよ。ただ……あと二年、いや三年だろうか。とにかく、そのうちおまえにもわかるようになるだろう」
「えっ? 本当ですか?」
思いがけない言葉が返ってきて、ついヴァレンは問い返してしまう。
「おまえがこのまま進めば、な。まあ、せいぜい頑張るがよい」
なにやら含みのあるトゥルーテスの言葉だった。
クラーケンの言葉がわかるようになるのは嬉しいが、ヴァレンはトゥルーテスの物言いに少しだけひっかかる。
「あと二、三年か……その頃、俺はどうなっているのかな……」
ヴァレンはぼそりと呟きながら、胸に浮かんだ不安を打ち消すように、クラーケンを抱き上げた。
そのため、お気に入りの本を読み返すといった習慣はない。そもそも一度読んだ本は必要がないので、自分のために所有することもない。
しかし、ヴァレンは何度もミゼアスの手紙を読み返す。書かれていることが変わることなどないのだが、見るたびに胸が安らぎに包まれるのだ。
人が、気に入った本や手紙を大切に取っておき、何度も読み返すという気持ちが、ヴァレンにもわかったような気がした。
とりあえず手紙に満足すると、ヴァレンはまた服のかくしに手紙を大切にしまう。
すると、ぴょこんとクラーケンがヴァレンに膝の上にやってきた。ヴァレンが手紙を読み終わるまで、待っていたらしい。
「ああ……気を遣わせちゃったね、ごめん。ありがとう」
ヴァレンが微笑みかけると、クラーケンはゆったりと頷くように体をゆらめかせた。
「うーん……きみは俺が何を言っているのか、わかるんだよね? でも、俺にはわからないんだよなあ……」
ため息を漏らしながら、ヴァレンはクラーケンの触手に指を絡ませる。ぷにぷにとした感触が意外と気持ち良く、ついついヴァレンは強く押してしまう。
すると、クラーケンが別の触手でぺちぺちとヴァレンを叩き出した。痛くはなかったが、抗議しているのだろうかと思ったヴァレンは、強く押すのをやめる。指を離すと、クラーケンもヴァレンを叩くのをやめた。
「強く押すのはやめてほしい、と言っているぞ」
トゥルーテスの声が割り込んでくる。通訳してくれたようだ。
「トゥルーテス様はこの子が何を言っているか、わかるんですよね。そういえば、領主様もわかるみたいだったなー。どうして俺にはわからないんだろう……」
しみじみと吐息を漏らしながら呟くと、トゥルーテスが笑ったようだった。
「それは普通の人間にはわからないだろうよ。ただ……あと二年、いや三年だろうか。とにかく、そのうちおまえにもわかるようになるだろう」
「えっ? 本当ですか?」
思いがけない言葉が返ってきて、ついヴァレンは問い返してしまう。
「おまえがこのまま進めば、な。まあ、せいぜい頑張るがよい」
なにやら含みのあるトゥルーテスの言葉だった。
クラーケンの言葉がわかるようになるのは嬉しいが、ヴァレンはトゥルーテスの物言いに少しだけひっかかる。
「あと二、三年か……その頃、俺はどうなっているのかな……」
ヴァレンはぼそりと呟きながら、胸に浮かんだ不安を打ち消すように、クラーケンを抱き上げた。
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