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48.限界

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「ふん、物欲しそうな顔をしおって。張り型では不満か?」

「どうか……旦那様を……お慈悲をください……」

 嘲るような男に対し、ヴァレンは待ちきれないといったようにおねだりをする。
 張り型では、ヴァレンの体力が落ちていくだけだ。男をさっさと疲れさせてしまい、隙を見て逃げ出すしかない。性交も、受け入れるヴァレンのほうが負担は大きいが、男の体力を削るためには仕方がないだろう。

 寝台の上に乱暴に突き飛ばされ、ヴァレンはうつ伏せの体勢で男に突き入れられる。
 男はヴァレンに対する気遣いなどなく、ただ荒っぽい抽送を繰り返す。そこにあるのは男の快楽のみで、ヴァレンには苦痛しかなかった。

「おまえ……なかなか、具合がよいな……気に入ったぞ」

 男だけがうっとりと呟きながら、腰を振り続ける。

「そういえば……先日の小僧は、本当に不夜島の白花だったというな。早く、あいつもこうして寝台に繋いでみたいものだ……こいつと二人並べて飼うのも、悪くないな……」

 一人悦に入りながら、男はぶつぶつと呟く。
 その言葉に興味を引かれながらも、ヴァレンは尋ねることなどできず、苦痛に耐え続ける。

 男がヴァレンの中に精を放った後も、張り型を使って責められ、ヴァレンには休む間も与えられない。
 ときおり男が漏らす言葉の中には興味深いものもあったのだが、玩具扱いのヴァレンに尋ねることは許されないだろうと、ヴァレンはただ男の仕打ちを受け入れるだけだった。
 そのうち、ヴァレンの体力も限界が近づいてくる。息も絶え絶えになりながら、それでもどうにか意識を保ったままのヴァレンに男が感嘆の吐息を漏らす。

「……おまえは活きが良いな。良い拾い物だったかもしれん。花月琴も弾けるようだしな」

 やっと男はヴァレンから身を離して、責め苦からヴァレンを解放する。

「そのうち、『風月花』と『雪月花』、双子がそろうことになる。二重の演奏は見事だろうな。そうなると、やはりニセモノではなく、花吹雪を出したあのミゼアスも手に入れたいものだ。ふむ……逃がしたのは失敗だったか……まあ、いい。そう遠くへは行っていないだろう」

 寝台から立ち上がりながら考え込む男の言葉を聞き、ぼやけそうになっていたヴァレンの意識が覚醒する。
 ミゼアスを手に入れたい、と男は確かに言った。花吹雪を出したというから、本物のミゼアスのことだろう。
 このような男に捕まってしまっては、何をされるかわかったものではない。まだ急いでいるような様子はうかがえないが、阻止するべきだ。

「新しい玩具のことを考えるとわくわくするのは、いくつになっても同じだな。おまえも……せいぜい可愛がってやるから、長持ちしてくれよ」

 不吉な言葉と共に男はヴァレンの頭をひと撫でして、部屋を去っていく。
 がちゃり、という音が響いたので、おそらく外側から鍵をかけたのだろう。
 やっと逃げ出す機会が巡ってきたのだが、身体が重くてヴァレンは動くことができない。男の言葉を整理して考えようとしても、頭も働かなかった。

 今は、ただ休息が欲しい。
 朝にはトゥルーテスが海岸まで迎えに来るのだ。ここに長居しているような余裕はない。
 せめてもっと時間があれば、難なくここから抜け出すことができるようになるのだろうが、ヴァレンに許されたのは残りわずかな時間だけだ。
 本当は今すぐ起き上がって、逃げ出す手段を探るべきなのだが、執拗な男の責めによってヴァレンの体力は限界まで削られていた。

「だめ……だ……起きなきゃ……いけない……のに」

 寝台は優しくヴァレンを包み込み、決して抗えないほどの引力でヴァレンを吸い寄せる。
 耐え切れず、ヴァレンの意識は暗闇の中に吸い込まれていった。
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