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43.賭博王にして酒豪王

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「あいつ、何なんだ……」

「普通なら、もうとっくに潰れるか、カードなんてわからなくなってるぞ……」

 今までの挑戦者たちからは、焦りが強く浮かび上がってきた。
 彼らの中では、ヴァレンが負けて自分たちが支払った分を取り戻すのは決定事項だったのだろう。

「凄いな……ここまで勝ち続けた奴って、初めてじゃないか?」

「もしかしたら、十連勝までいくか?」

 傍観者である他の客たちは、面白がってきているようだった。
 だんだん、ヴァレンの周囲には店にいた客たちが見物に集まってきている。

 ヴァレンを酔い潰すべく、強い酒が用意されていくが、それでもヴァレンは苦もなく飲み干して、正確にカードを当て続ける。確率計算や駆け引きが必要なわけでもなく、ただ覚えていればよいこのゲームなど、ヴァレンにとっては頭を使う必要もない、簡単なものだ。
 とうとう十勝目まで到達した。最後の酒が運ばれてくるのを、周囲が固唾を呑んで見守っている。

「当店名物、『火竜の涙』です。どうぞ」

 支配人が直々に杯を運び、ヴァレンに手渡す。同時に、砂時計がひっくり返されて、残り時間が減少していく。
 杯の中からむっと立ち込める独特の強い香りは、極めて純度の高い酒であることを表している。鼻をつく異臭を放つこの酒を前にして、一気にあおるなど愚か者のすることだろう。

 しかし、ヴァレンは一気にあおった。
 口の中の水分が飛ぶような感覚と、焼けつくすような熱さが喉を流れていく。身体の内側から燃えていくようだ。
 ヴァレン秘蔵の一番強い酒と同じくらいの強さだろうか。

 以前、夕月花騒動が解決してエアイールと祝杯を挙げた際、うっかり確認しないまま高純度の酒を出してしまい、エアイールが悶絶したことを思い出してヴァレンはくすりと笑う。
 エアイールには強すぎたようだが、ヴァレンにとっては焼けつくすような熱さがたまらない、ご馳走ともいえる酒である。

「ごちそうさまっ!」

 ヴァレンが空の杯を頭上に掲げると、割れんばかりの拍手が起こった。歓声や悲鳴が店の中を覆い尽くす。
 まだ半分も減っていない砂時計だけが、変わらず時を刻んでいた。
 挑戦者たちは信じられないといった様子で唖然としていたが、見物客たちは無邪気に快哉を叫ぶ。どうやら、十連勝を達成したのはヴァレンが初めてらしい。

 店内の注目を一身に浴び、ヴァレンは笑顔で手を振る。
 すると、ちょうど店にやってきた一団が目に入った。
 どことなく尊大な態度を伺わせる男を中心として、数人のお付きがいるようだ。その中に、そっと視線を宙にそらすイーノスの姿を見つけ、ヴァレンは何となく気まずい思いを抱えて頬を指で掻いた。

 イーノスから、目立ちすぎだという声が聞こえてくるようだ。ごもっともでございますと思いながらも、もはやヴァレンにはどうすることもできない。
 ただ、尊大な男が酷薄そうな唇に笑みを浮かべてヴァレンを眺めていたので、目に留まるという目的は果たせたのかもしれないと、ヴァレンは乾いた笑いを浮かべた。
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