42 / 69
42.ざわめき
しおりを挟む
「ほかに何か質問はあるかい?」
男の問いかけに対してヴァレンが首を横に振ると、勝負が始まった。
だが、完璧な記憶力を有するヴァレンが負けるはずがない。あっさりヴァレンの勝ちとなった。
「兄ちゃん、強いねぇ」
しかし男は残念そうな様子もなく、ヴァレンに対して酒を差し出す。これも受け取って飲み干せば、周囲から拍手が響いた。
「じゃあ、次は俺だ!」
あまりにも簡単すぎるとヴァレンが思っていると、別の男が名乗りをあげた。
「そうそう、言い忘れていた。負けるか、十連勝するまで勝負を下りる権利はないから。勝負を下りる場合は負け扱いで、それまでのかけ金も没収になるんだ。ああ、それまでの酒代も敗者持ちになるからな」
最初に勝負を持ちかけてきた男が、ニヤリとした笑みを浮かべる。
そこで嵌められたとヴァレンは気づく。これは目立った相手から金を巻き上げるためのやり方なのだろう。
記憶力を必要とするゲームは、酒が入るごとに不利になっていく。最初の数回はどうにかなっても、酒が回った後半ではカード内容など覚えていられなくなるだろう。
また、一分程度の間に酒を飲み干すのも、回数を重ねるごとにつらくなっていく。ゲームそのものと酒とで、二重に罠が仕掛けられている。
しかし、ヴァレンに対しては無意味だ。
「十連勝すればいいんだね?」
ヴァレンもニヤリと笑って返すと、周囲の男たちが笑い出した。
頑張れよ、などという声も響くが、どれも余裕を浮かべている。本当に十連勝できるなど、信じていないのは明らかだ。
「せいぜい頑張れよ。もし金が足りなくなっても、兄ちゃんは綺麗な顔してるからなあ。身体で払えば許されるだろうよ」
一人の男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、ヴァレンの全身を舐めるように見回す。
「あっはっは、それはありがたいや」
笑いながらヴァレンは答える。着の身着のままで島を出てきたので、手持ちは小銭が少しだけなのだ。身体で支払えるというのは、ありがたい。
もっとも、負ける気などかけらもないのだが。
こうして、十連勝を目指してヴァレンの勝負が始まった。
三勝目くらいまでは、周囲の余裕も崩れることがなかったが、四勝目の酒を飲み干したあたりで、雰囲気が変わってきた。
「あいつ……全然酔ってないんじゃないか?」
「もっと強い酒にしろよ……」
「というか……カードが見えているのか? どうしたらあれだけ取れるんだ……」
ぼそぼそと囁く声が周囲から漏れ聞こえてくる。
難なくヴァレンが五勝目を獲得すると、それまでの安価なエール酒から、少し値段の張る火酒を振る舞われるようになった。
火酒のほうが強く、酔いやすい酒である。しかしヴァレンはそれまでと同じように、一気にあおって飲み干す。砂時計を見るまでもない、早業だ。
それでもヴァレンの記憶力は一向に衰えることなく、当たり前のように六勝目を手にする。
さらに強めの火酒が差し出されるが、それも水のようにするりと飲み干せば、周囲のざわめきは激しさを増していった。
男の問いかけに対してヴァレンが首を横に振ると、勝負が始まった。
だが、完璧な記憶力を有するヴァレンが負けるはずがない。あっさりヴァレンの勝ちとなった。
「兄ちゃん、強いねぇ」
しかし男は残念そうな様子もなく、ヴァレンに対して酒を差し出す。これも受け取って飲み干せば、周囲から拍手が響いた。
「じゃあ、次は俺だ!」
あまりにも簡単すぎるとヴァレンが思っていると、別の男が名乗りをあげた。
「そうそう、言い忘れていた。負けるか、十連勝するまで勝負を下りる権利はないから。勝負を下りる場合は負け扱いで、それまでのかけ金も没収になるんだ。ああ、それまでの酒代も敗者持ちになるからな」
最初に勝負を持ちかけてきた男が、ニヤリとした笑みを浮かべる。
そこで嵌められたとヴァレンは気づく。これは目立った相手から金を巻き上げるためのやり方なのだろう。
記憶力を必要とするゲームは、酒が入るごとに不利になっていく。最初の数回はどうにかなっても、酒が回った後半ではカード内容など覚えていられなくなるだろう。
また、一分程度の間に酒を飲み干すのも、回数を重ねるごとにつらくなっていく。ゲームそのものと酒とで、二重に罠が仕掛けられている。
しかし、ヴァレンに対しては無意味だ。
「十連勝すればいいんだね?」
ヴァレンもニヤリと笑って返すと、周囲の男たちが笑い出した。
頑張れよ、などという声も響くが、どれも余裕を浮かべている。本当に十連勝できるなど、信じていないのは明らかだ。
「せいぜい頑張れよ。もし金が足りなくなっても、兄ちゃんは綺麗な顔してるからなあ。身体で払えば許されるだろうよ」
一人の男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、ヴァレンの全身を舐めるように見回す。
「あっはっは、それはありがたいや」
笑いながらヴァレンは答える。着の身着のままで島を出てきたので、手持ちは小銭が少しだけなのだ。身体で支払えるというのは、ありがたい。
もっとも、負ける気などかけらもないのだが。
こうして、十連勝を目指してヴァレンの勝負が始まった。
三勝目くらいまでは、周囲の余裕も崩れることがなかったが、四勝目の酒を飲み干したあたりで、雰囲気が変わってきた。
「あいつ……全然酔ってないんじゃないか?」
「もっと強い酒にしろよ……」
「というか……カードが見えているのか? どうしたらあれだけ取れるんだ……」
ぼそぼそと囁く声が周囲から漏れ聞こえてくる。
難なくヴァレンが五勝目を獲得すると、それまでの安価なエール酒から、少し値段の張る火酒を振る舞われるようになった。
火酒のほうが強く、酔いやすい酒である。しかしヴァレンはそれまでと同じように、一気にあおって飲み干す。砂時計を見るまでもない、早業だ。
それでもヴァレンの記憶力は一向に衰えることなく、当たり前のように六勝目を手にする。
さらに強めの火酒が差し出されるが、それも水のようにするりと飲み干せば、周囲のざわめきは激しさを増していった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?
キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。
目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。
そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。
どうして僕はこんな所に居るんだろう。
それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか……
コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。
【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】
反応いただけるととても喜びます!
匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(^^)
俺が恋をした相手は
秋元智也
BL
俺がが初めて好きになった人は、同じ男だった。
どうしてだろう?
友人の持ってきたエロ本には全く興味が湧かない。
これは病気なのか?
俺は男が好きなのか?
分からないうちに出会った男性と身体を重ねた。
最初は痛くて入らなかったけど、慣らすうちにこんなところが
気持ちいいなんて初めて知った。
相手は既婚者だと分かっていても止まらない。
俺の気持ちは…。どうしたいのだろう。
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
偽物の恋
秋元智也
BL
一回抱いた女とは二度目はない!
男としては誰でも言いたい台詞を堂々と言ってのける
先輩は毎日のように女性に告白されてうんざりしていた。
そこに「僕も先輩と付き合いたい」と後輩の男子生徒が
名乗りを挙げた。
「もちろん先輩が卒業するまででいいので、恋人のふり
をしませんか?」との提案だった。
明るくて可愛い子犬のような後輩に考える間もなく即答。
その日より、付き合う事を宣言することになった。
本気か?ただの冗談か?
歪な後輩との関係にお互いの距離が縮まる。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる