39 / 69
39.おやすみなさい
しおりを挟む
ひととおりの説明が終わり、ヴァレンはふと思い出してウインシェルド侯爵のこともミゼアスに話しておいた。
本来、領主はミゼアスの治療をするつもりはなかったという。それを説得し、心を動かしたのはウインシェルド侯爵だ。
当時はヴァレンも学校を休んでミゼアスの看病をし、ウインシェルド侯爵とは共にミゼアスを案じて励ましあった仲である。
もちろんミゼアスもウインシェルド侯爵に対して恩は感じているのだが、実際にはもっと深い思いがあるのだと伝えておきたかったのだ。
やはりというか、ミゼアスは少し真剣に捉えすぎてしまったようだったが、特別なことは何もなく、ミゼアスが幸せでいることが一番だと言っているところで、扉を叩く音が響いた。
「食事の準備ができましたよ。お話はまだかかりますか?」
「いえ、もう大丈夫です」
扉の向こう側から聞こえてきたマリオンの声に向かい、ヴァレンは答える。
必要なことは話し終えたし、この件については切り上げたいところだったので、ちょうどよかった。
ミゼアスとアデルジェスにも異論はないようで、応接室を後にして食堂に向かう。
色とりどりの野菜に花が飾られたサラダと、魚介類を煮込んだスープ、肉と野菜を挟んだパンが用意されていた。簡素ではあるが、見栄えがよくて食べやすそうに整えられている。温かいスープの香りが漂い、ヴァレンは空腹を刺激されてしまう。
空腹なのは全員が同じようで、まずは皆で食事ということになった。
「この花って、食べられるんですか?」
「……食べようと思えば、食べられますよ」
ヴァレンの質問にマリオンが少し呆れたような顔をする場面はあったものの、和やかな食事の時間が流れていく。
普段、ヴァレンが島で食べているのとは違った、家庭料理の素朴な温もりがあるようだった。あっさりとした味付けが、かえって素材の良さを引き立てているようだ。
やがて全員が食事を終える頃、ミゼアスが眠たそうに瞼をこすり始めた。
「ミゼアス兄さんはちょっと無理に起こしてしまったから、まだ睡眠が必要かもしれませんね。もう眠ったままっていうことはないと思うんで、起きたばかりですけれど、少し寝たほうがいいと思います」
ヴァレンが声をかけると、ミゼアスはやや不服そうに眉根を寄せる。
「……でも、きみは明日の朝、帰ってしまうんだろう?」
「まあ、そうですけれど……二度と会えないわけでもありませんし。今はミゼアス兄さんの体調のほうが大事ですよ」
微笑んで答えると、ヴァレンは援護を求めるように、マリオンへと視線を送る。
「少し、お休みなさい。明日の朝でしたら、起きてからでも時間はあるでしょう。今の状態のまま無理をするよりも、休んで体調を整えてからのほうがよろしいのではありませんか?」
「……はい」
マリオンからも説得され、少しばかり残念そうではあったが、ミゼアスは頷いた。
「アデルジェスさんも、昨日からろくに寝ていないでしょう。ミゼアスと一緒に、少し休んではいかがですか?」
さらに添い寝役として、アデルジェスにも矛先が向く。
ミゼアスを寝かせるためか、それとも自分も眠たいのか、とにかくアデルジェスもあっさりと頷いた。
ミゼアスとアデルジェスが連れ立って食堂を去っていくと、ヴァレンとマリオン、イーノスの三人が残される。
「マリオン、あなたも昨日からまともに寝ていないだろう。後片付けは俺に任せて、あなたも寝るといい」
「でも……」
イーノスに促されながらも、マリオンは口ごもってヴァレンに視線を向ける。
「俺は大丈夫ですよー。マリオン兄さんも寝てください。ああ、俺も後片付けを手伝いますよ」
ひらひらと手を振りながらヴァレンが立ち上がると、マリオンは迷ったようだったが、結局は頷いた。
本来、領主はミゼアスの治療をするつもりはなかったという。それを説得し、心を動かしたのはウインシェルド侯爵だ。
当時はヴァレンも学校を休んでミゼアスの看病をし、ウインシェルド侯爵とは共にミゼアスを案じて励ましあった仲である。
もちろんミゼアスもウインシェルド侯爵に対して恩は感じているのだが、実際にはもっと深い思いがあるのだと伝えておきたかったのだ。
やはりというか、ミゼアスは少し真剣に捉えすぎてしまったようだったが、特別なことは何もなく、ミゼアスが幸せでいることが一番だと言っているところで、扉を叩く音が響いた。
「食事の準備ができましたよ。お話はまだかかりますか?」
「いえ、もう大丈夫です」
扉の向こう側から聞こえてきたマリオンの声に向かい、ヴァレンは答える。
必要なことは話し終えたし、この件については切り上げたいところだったので、ちょうどよかった。
ミゼアスとアデルジェスにも異論はないようで、応接室を後にして食堂に向かう。
色とりどりの野菜に花が飾られたサラダと、魚介類を煮込んだスープ、肉と野菜を挟んだパンが用意されていた。簡素ではあるが、見栄えがよくて食べやすそうに整えられている。温かいスープの香りが漂い、ヴァレンは空腹を刺激されてしまう。
空腹なのは全員が同じようで、まずは皆で食事ということになった。
「この花って、食べられるんですか?」
「……食べようと思えば、食べられますよ」
ヴァレンの質問にマリオンが少し呆れたような顔をする場面はあったものの、和やかな食事の時間が流れていく。
普段、ヴァレンが島で食べているのとは違った、家庭料理の素朴な温もりがあるようだった。あっさりとした味付けが、かえって素材の良さを引き立てているようだ。
やがて全員が食事を終える頃、ミゼアスが眠たそうに瞼をこすり始めた。
「ミゼアス兄さんはちょっと無理に起こしてしまったから、まだ睡眠が必要かもしれませんね。もう眠ったままっていうことはないと思うんで、起きたばかりですけれど、少し寝たほうがいいと思います」
ヴァレンが声をかけると、ミゼアスはやや不服そうに眉根を寄せる。
「……でも、きみは明日の朝、帰ってしまうんだろう?」
「まあ、そうですけれど……二度と会えないわけでもありませんし。今はミゼアス兄さんの体調のほうが大事ですよ」
微笑んで答えると、ヴァレンは援護を求めるように、マリオンへと視線を送る。
「少し、お休みなさい。明日の朝でしたら、起きてからでも時間はあるでしょう。今の状態のまま無理をするよりも、休んで体調を整えてからのほうがよろしいのではありませんか?」
「……はい」
マリオンからも説得され、少しばかり残念そうではあったが、ミゼアスは頷いた。
「アデルジェスさんも、昨日からろくに寝ていないでしょう。ミゼアスと一緒に、少し休んではいかがですか?」
さらに添い寝役として、アデルジェスにも矛先が向く。
ミゼアスを寝かせるためか、それとも自分も眠たいのか、とにかくアデルジェスもあっさりと頷いた。
ミゼアスとアデルジェスが連れ立って食堂を去っていくと、ヴァレンとマリオン、イーノスの三人が残される。
「マリオン、あなたも昨日からまともに寝ていないだろう。後片付けは俺に任せて、あなたも寝るといい」
「でも……」
イーノスに促されながらも、マリオンは口ごもってヴァレンに視線を向ける。
「俺は大丈夫ですよー。マリオン兄さんも寝てください。ああ、俺も後片付けを手伝いますよ」
ひらひらと手を振りながらヴァレンが立ち上がると、マリオンは迷ったようだったが、結局は頷いた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

魔王のお気にのパンツを探せ!〜犯人はたぶんこの中にいる?〜
ミクリ21
BL
魔王と勇者の戦いが始ま………らない!
理由は、魔王のお気にのパンツがないからだ。
魔王討伐に来た勇者は、仕方がないから魔王のお気にのパンツ探しを手伝うことにした。
一体、魔王のお気にのパンツはどこにいってしまったのか………。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる