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39.おやすみなさい
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ひととおりの説明が終わり、ヴァレンはふと思い出してウインシェルド侯爵のこともミゼアスに話しておいた。
本来、領主はミゼアスの治療をするつもりはなかったという。それを説得し、心を動かしたのはウインシェルド侯爵だ。
当時はヴァレンも学校を休んでミゼアスの看病をし、ウインシェルド侯爵とは共にミゼアスを案じて励ましあった仲である。
もちろんミゼアスもウインシェルド侯爵に対して恩は感じているのだが、実際にはもっと深い思いがあるのだと伝えておきたかったのだ。
やはりというか、ミゼアスは少し真剣に捉えすぎてしまったようだったが、特別なことは何もなく、ミゼアスが幸せでいることが一番だと言っているところで、扉を叩く音が響いた。
「食事の準備ができましたよ。お話はまだかかりますか?」
「いえ、もう大丈夫です」
扉の向こう側から聞こえてきたマリオンの声に向かい、ヴァレンは答える。
必要なことは話し終えたし、この件については切り上げたいところだったので、ちょうどよかった。
ミゼアスとアデルジェスにも異論はないようで、応接室を後にして食堂に向かう。
色とりどりの野菜に花が飾られたサラダと、魚介類を煮込んだスープ、肉と野菜を挟んだパンが用意されていた。簡素ではあるが、見栄えがよくて食べやすそうに整えられている。温かいスープの香りが漂い、ヴァレンは空腹を刺激されてしまう。
空腹なのは全員が同じようで、まずは皆で食事ということになった。
「この花って、食べられるんですか?」
「……食べようと思えば、食べられますよ」
ヴァレンの質問にマリオンが少し呆れたような顔をする場面はあったものの、和やかな食事の時間が流れていく。
普段、ヴァレンが島で食べているのとは違った、家庭料理の素朴な温もりがあるようだった。あっさりとした味付けが、かえって素材の良さを引き立てているようだ。
やがて全員が食事を終える頃、ミゼアスが眠たそうに瞼をこすり始めた。
「ミゼアス兄さんはちょっと無理に起こしてしまったから、まだ睡眠が必要かもしれませんね。もう眠ったままっていうことはないと思うんで、起きたばかりですけれど、少し寝たほうがいいと思います」
ヴァレンが声をかけると、ミゼアスはやや不服そうに眉根を寄せる。
「……でも、きみは明日の朝、帰ってしまうんだろう?」
「まあ、そうですけれど……二度と会えないわけでもありませんし。今はミゼアス兄さんの体調のほうが大事ですよ」
微笑んで答えると、ヴァレンは援護を求めるように、マリオンへと視線を送る。
「少し、お休みなさい。明日の朝でしたら、起きてからでも時間はあるでしょう。今の状態のまま無理をするよりも、休んで体調を整えてからのほうがよろしいのではありませんか?」
「……はい」
マリオンからも説得され、少しばかり残念そうではあったが、ミゼアスは頷いた。
「アデルジェスさんも、昨日からろくに寝ていないでしょう。ミゼアスと一緒に、少し休んではいかがですか?」
さらに添い寝役として、アデルジェスにも矛先が向く。
ミゼアスを寝かせるためか、それとも自分も眠たいのか、とにかくアデルジェスもあっさりと頷いた。
ミゼアスとアデルジェスが連れ立って食堂を去っていくと、ヴァレンとマリオン、イーノスの三人が残される。
「マリオン、あなたも昨日からまともに寝ていないだろう。後片付けは俺に任せて、あなたも寝るといい」
「でも……」
イーノスに促されながらも、マリオンは口ごもってヴァレンに視線を向ける。
「俺は大丈夫ですよー。マリオン兄さんも寝てください。ああ、俺も後片付けを手伝いますよ」
ひらひらと手を振りながらヴァレンが立ち上がると、マリオンは迷ったようだったが、結局は頷いた。
本来、領主はミゼアスの治療をするつもりはなかったという。それを説得し、心を動かしたのはウインシェルド侯爵だ。
当時はヴァレンも学校を休んでミゼアスの看病をし、ウインシェルド侯爵とは共にミゼアスを案じて励ましあった仲である。
もちろんミゼアスもウインシェルド侯爵に対して恩は感じているのだが、実際にはもっと深い思いがあるのだと伝えておきたかったのだ。
やはりというか、ミゼアスは少し真剣に捉えすぎてしまったようだったが、特別なことは何もなく、ミゼアスが幸せでいることが一番だと言っているところで、扉を叩く音が響いた。
「食事の準備ができましたよ。お話はまだかかりますか?」
「いえ、もう大丈夫です」
扉の向こう側から聞こえてきたマリオンの声に向かい、ヴァレンは答える。
必要なことは話し終えたし、この件については切り上げたいところだったので、ちょうどよかった。
ミゼアスとアデルジェスにも異論はないようで、応接室を後にして食堂に向かう。
色とりどりの野菜に花が飾られたサラダと、魚介類を煮込んだスープ、肉と野菜を挟んだパンが用意されていた。簡素ではあるが、見栄えがよくて食べやすそうに整えられている。温かいスープの香りが漂い、ヴァレンは空腹を刺激されてしまう。
空腹なのは全員が同じようで、まずは皆で食事ということになった。
「この花って、食べられるんですか?」
「……食べようと思えば、食べられますよ」
ヴァレンの質問にマリオンが少し呆れたような顔をする場面はあったものの、和やかな食事の時間が流れていく。
普段、ヴァレンが島で食べているのとは違った、家庭料理の素朴な温もりがあるようだった。あっさりとした味付けが、かえって素材の良さを引き立てているようだ。
やがて全員が食事を終える頃、ミゼアスが眠たそうに瞼をこすり始めた。
「ミゼアス兄さんはちょっと無理に起こしてしまったから、まだ睡眠が必要かもしれませんね。もう眠ったままっていうことはないと思うんで、起きたばかりですけれど、少し寝たほうがいいと思います」
ヴァレンが声をかけると、ミゼアスはやや不服そうに眉根を寄せる。
「……でも、きみは明日の朝、帰ってしまうんだろう?」
「まあ、そうですけれど……二度と会えないわけでもありませんし。今はミゼアス兄さんの体調のほうが大事ですよ」
微笑んで答えると、ヴァレンは援護を求めるように、マリオンへと視線を送る。
「少し、お休みなさい。明日の朝でしたら、起きてからでも時間はあるでしょう。今の状態のまま無理をするよりも、休んで体調を整えてからのほうがよろしいのではありませんか?」
「……はい」
マリオンからも説得され、少しばかり残念そうではあったが、ミゼアスは頷いた。
「アデルジェスさんも、昨日からろくに寝ていないでしょう。ミゼアスと一緒に、少し休んではいかがですか?」
さらに添い寝役として、アデルジェスにも矛先が向く。
ミゼアスを寝かせるためか、それとも自分も眠たいのか、とにかくアデルジェスもあっさりと頷いた。
ミゼアスとアデルジェスが連れ立って食堂を去っていくと、ヴァレンとマリオン、イーノスの三人が残される。
「マリオン、あなたも昨日からまともに寝ていないだろう。後片付けは俺に任せて、あなたも寝るといい」
「でも……」
イーノスに促されながらも、マリオンは口ごもってヴァレンに視線を向ける。
「俺は大丈夫ですよー。マリオン兄さんも寝てください。ああ、俺も後片付けを手伝いますよ」
ひらひらと手を振りながらヴァレンが立ち上がると、マリオンは迷ったようだったが、結局は頷いた。
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