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36.寿命

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 応接室にて、ヴァレンはミゼアスが寝込んだ件について説明した。
 六年前、ミゼアスが大病を患ったときにウインシェルド侯爵が呼んだ魔術医が、実は不夜島の領主だというと、ミゼアスは驚いた顔をする。
 実はヴァレンは六年前に大方の予想をつけ、ミゼアスが島を出る際に領主と会ったことにより、ほぼ確信していた。しかし、当時はずっと寝込んだままだったミゼアスには予想外のことだろう。

 さらに、病気の因子を取り除くことはできず、発病しないように抑える仕組みを作ったのだが、それはアデルジェスの力を借りたと説明すると、ミゼアスは複雑そうな表情で軽く呻く。
 アデルジェスに負担をかけていることを気に病んでいるのだろうと判断したヴァレンは、その負担がたいしたものではないことを説明すると、アデルジェスからも助け舟が出る。

「……昔見た夢で、助けてあげて、と言われて頷いたような気はする。はっきり覚えてはいないけれど、俺にできることなら絶対に断るはずがないよ。たとえ、俺の寿命が縮むとしても、ミゼアスを助けられるのなら、迷わず頷く」

「ジェス……」

 決意をこめたアデルジェスの言葉に、ミゼアスが感極まったように呟く。
 潤んだ瞳でアデルジェスを見つめ、ミゼアスは涙をこらえているようだ。

「あーはいはい、イチャイチャするのは後にしてくれませんかね。俺は独り身なんだから、少しは気遣ってくださいねー」

 今だ、と思ってヴァレンは茶々を入れる。
 予想どおり、ミゼアスは少々呆れたような顔で、アデルジェスは気恥ずかしそうな顔でヴァレンを見つめ返してきた。

「……まあ、そんなわけで、ミゼアス兄さんとジェスさんの間には繋がりが出来上がったわけです」

 ヴァレンは素早く、次の段階に話を移す。
 早く病気そのものから意識をそらしたかったのだ。
 領主ははっきりと語らなかったが、ヴァレンにはミゼアスの病気の正体について、確信を持っていた。

 ──それは、寿命だ。

 おそらく、ミゼアスは十五歳までしか生きられない身体だったのを、領主が不思議な術によって押し留めているのだ。
 ミゼアスの成長が止まったのも、寿命を迎えないように成長を止めたせいなのだろうとヴァレンは思っている。

 しかし、真面目なミゼアスはこんなことを知ってしまっては、苦悩するだろう。
 ヴァレンであれば、ふーんで済ませる程度のことなのだが、ミゼアスはそうはいかない。ならば、知らないほうがよいだろう。
 もし病気のことについて尋ねられれば、寿命であるとはわかっていない前提で答えるつもりだが、聞かれないのが一番だ。
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