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33.人生は勢い
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「多分、そうなんでしょうね」
「それで、あなたの心は決まったのですか?」
「いえ、まったく」
「……ここに来て、大丈夫なのですか?」
「なんだか、取り返しのつかないことをしてしまったような気はします。でも、人生って勢いだと思うんで、まあ仕方がないかなーと」
にっこりとヴァレンが笑うと、マリオンは視線を宙にそらしてそっと息を吐いた。
「ところで、ミゼアス兄さんは『風月花』を弾いて倒れたそうですね。その『風月花』の所有者についてお尋ねしたいんです。俺が直接ここに来たのも、まあ……それが理由のひとつで」
せっかくここまで来たのだから、そちらの問題も片付けてしまいたい。
ミゼアスのことがなければ島から出ることなどなかっただろうから、降ってわいてきたようなこの機会を逃したくはなかった。
「ああ……それでしたら……」
「先ほどから、何やら騒がしいようだが」
マリオンが口を開きかけたところで、奥から茶色の髪を持つ二十代後半程度の男が出てきた。すべての出来事を忘れないヴァレンにとっては、見覚えのある顔だ。
「こんにちはー。お邪魔してますー」
笑いながらヴァレンはひらひらと手を振る。
「ああ……初めて見る顔だが、どなたかな?」
「いやだなー、イーノスさん。昔、俺に飴をくれたじゃないですかー」
イーノスはきょとんとした顔をして思案するが、すぐに思い当たったらしく、目を見開いてヴァレンを見つめる。顔からは血の気が引いていた。
かつてマリオンの客だったイーノスは、薬を盛った飴をヴァレンに手渡した実行犯なのだ。
その後、禁制品の薬を仲介したことによって島を出入り禁止となり、自由意思という名目の追放によって島を出たマリオンと一緒になったのだという。
イーノスは大きな商会を築き上げたやり手の商人だったが、今では商売のほとんどを弟に任せて、マリオンと共にこの港町でこぢんまりとした雑貨店を経営しているそうだ。
つい最近、マリオンが偶然ミゼアスと再会して、ミゼアスはマリオンの店を手伝っているというのが、ヴァレンが領主から聞いた話だった。
「まさか……あのときの子供……」
「そのとおりです。お久しぶりでっす」
幼い頃のように、ヴァレンはびしっと片手をあげる。
ますますイーノスの顔からは色彩が失われていく。
「な……何故、ここに……」
「んー、まあ、いろいろあって。それより、『風月花』の所有者についてお伺いしたいんですけれど、教えてくれますよね」
「それで、あなたの心は決まったのですか?」
「いえ、まったく」
「……ここに来て、大丈夫なのですか?」
「なんだか、取り返しのつかないことをしてしまったような気はします。でも、人生って勢いだと思うんで、まあ仕方がないかなーと」
にっこりとヴァレンが笑うと、マリオンは視線を宙にそらしてそっと息を吐いた。
「ところで、ミゼアス兄さんは『風月花』を弾いて倒れたそうですね。その『風月花』の所有者についてお尋ねしたいんです。俺が直接ここに来たのも、まあ……それが理由のひとつで」
せっかくここまで来たのだから、そちらの問題も片付けてしまいたい。
ミゼアスのことがなければ島から出ることなどなかっただろうから、降ってわいてきたようなこの機会を逃したくはなかった。
「ああ……それでしたら……」
「先ほどから、何やら騒がしいようだが」
マリオンが口を開きかけたところで、奥から茶色の髪を持つ二十代後半程度の男が出てきた。すべての出来事を忘れないヴァレンにとっては、見覚えのある顔だ。
「こんにちはー。お邪魔してますー」
笑いながらヴァレンはひらひらと手を振る。
「ああ……初めて見る顔だが、どなたかな?」
「いやだなー、イーノスさん。昔、俺に飴をくれたじゃないですかー」
イーノスはきょとんとした顔をして思案するが、すぐに思い当たったらしく、目を見開いてヴァレンを見つめる。顔からは血の気が引いていた。
かつてマリオンの客だったイーノスは、薬を盛った飴をヴァレンに手渡した実行犯なのだ。
その後、禁制品の薬を仲介したことによって島を出入り禁止となり、自由意思という名目の追放によって島を出たマリオンと一緒になったのだという。
イーノスは大きな商会を築き上げたやり手の商人だったが、今では商売のほとんどを弟に任せて、マリオンと共にこの港町でこぢんまりとした雑貨店を経営しているそうだ。
つい最近、マリオンが偶然ミゼアスと再会して、ミゼアスはマリオンの店を手伝っているというのが、ヴァレンが領主から聞いた話だった。
「まさか……あのときの子供……」
「そのとおりです。お久しぶりでっす」
幼い頃のように、ヴァレンはびしっと片手をあげる。
ますますイーノスの顔からは色彩が失われていく。
「な……何故、ここに……」
「んー、まあ、いろいろあって。それより、『風月花』の所有者についてお伺いしたいんですけれど、教えてくれますよね」
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