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24.領主

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 無事に地面への着地に成功したヴァレンは、周囲の歓声に包まれながら大通りを駆けていく。
 もしかしたら窓からエアイールやネヴィル、アルンが何か文句を言っているかもしれないが、確かめているような余裕はない。
 振り返ることなく、ヴァレンは今回の鍵を握っていると思わしき人物が住まう領主屋敷へと急ぐ。
 領主屋敷は大通りをまっすぐ進んだ先にある。ヴァレンを妨げるような者は誰もおらず、何事もなく到着すれば、屋敷は扉すら開け放たれていた。

 ヴァレンは呼吸を整えながら、屋敷の中に入る。
 すると、入り口近くで水色のドレスに身を包んだ女が待ち構えていた。同じ色のヴェールで顔は覆い隠され、誰なのか判別はできない。
 しかし、ヴァレンはミゼアスが島を出るときに一度だけ、この人物に会っていた。
 顔はわからなくても、ただ立っているだけで存在感と不思議な威圧感があるこの人物こそ、この島の領主であるリーネイン伯爵に他ならない。

「いらっしゃい。早かったわね。窓から飛び降りて、しかもここまでずっと全力疾走できるような白花、あなただけでしょうね」

 くすり、と笑い声がヴェールの奥から響く。

「ミゼアスのことでしょう? 心配はいらないから、まず落ち着いて水でもお飲みなさい」

 領主の声とともに小間使いらしき少女が現れて、杯の乗った盆をヴァレンに向かってうやうやしく掲げる。
 ずっと走ってきたので、確かに喉は渇いている。ヴァレンは杯を受け取って一気に煽ると、杯を盆に戻す。役目を終えた少女は一言も発することなく、ただ優雅に礼をすると去っていった。

「六年前、ミゼアス兄さんを治療したのは領主様、あなたですね?」

 少女が去っていったのを確認すると、ヴァレンは領主に向き直って口を開く。

「そうね。正確に言えば治療ではなく、ちょっと細工をしただけなのだけれど。根本的には治っていないのよ」

「ということは、もしかして……」

 あっさりと認めた領主だったが、不吉な内容にヴァレンは不安を覚える。根本的には治っていないとは、もしやいつ再発してもおかしくないということだろうか。
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