上 下
20 / 69

20.やってきた理由

しおりを挟む
「さっきのお友達、放っておいていいのかい?」

 ヴァレンと二人きりになったロシュが、気遣うように口を開く。

「エアイールが追っていったから、大丈夫だよ。あいつが任せろって言ったんだから、心配はいらない。それよりも、ロシュさんはどこか行ってみたいところはある?」

 エアイールが追っていった以上、ひとまず心配はいらないだろう。
 後からヴァレンも合流するつもりだが、今はロシュの相手をするべきだ。
 ヴァレンはにっこりと笑いながら問いかける。

「うん……その、人が集まるようなところってあるかな? 花じゃなくて、客が多く集まるようなところ」

「ああ……もしかして、人脈作り? それだったら、俺がいくつか紹介するよ」

 不夜島に来る客は、すべてが花だけを目当てとするわけではない。客同士での社交場もあり、そこで人脈を広げたり、ときには商談が行われたりもする。

「それは助かるな。これからローダンデリアで始めようとしている商売のこともあるし、せっかくここに来たんだから、繋がりを作っておきたくてね」

「ローダンデリアかー。俺の身内だし、俺にできることだったら協力するよ。この島の社交場も、俺の紹介だったらどこでも入れるから。……あ、でも賭博場だけは無理か。俺、出入り禁止になっちゃってるから」



 ロシュにいくつか社交場を紹介し、そのうちのひとつにロシュはそのまま留まることになった。ヴァレンはロシュといったんそこで別れ、エアイールの部屋に向かう。
 予想どおり、エアイールの部屋にはネヴィルとエアイールがいた。朝よりもネヴィルは落ち着いているようで、島にやってきた理由を話し始めた。

「……急速に手を広げようとしすぎたんだろうね」

 ネヴィルを身請けした男は、今は共同経営者となっている。
 王都での立場強化のため、ある権力者に貢物をすることになっていた。それが共同経営者の男が秘蔵していた『風月花』という花月琴である。
 ミゼアスの『雪月花』と双子といわれる、名品中の名品だ。

 ところが、この『風月花』は男の身内が金のため、すでに持ち出して売却済みだった。
 すでに権力者には『風月花』を献上することを約束しており、献上できないのならば話はなかったことに、となってしまった。それどころか、軽々しく嘘をつくような輩は信用できないと、現在の商売にも影響が出てしまいそうだ。
 どうにか売却先を突き止め、買い戻そうとしたが、突っぱねられてしまった。

「その権力者は花月琴でなくてはダメだって言うんだ。収集家らしい。この島に来れば、もしかしたらそれに類する名品があるかも……と思って」

「花月琴、かあ……。まあ、この島には名品といわれるようなのがいっぱいあるけれど」

 ヴァレンがミゼアスから与えられた『貪欲宴』も名品である。当然、エアイールが使用しているものも名品だ。

「ただ、『雪月花』と双子といわれるような品、匹敵するようなものはひとつしかありませんよ」

「うん、当の『雪月花』くらいだろうな」

 エアイールの言葉にヴァレンも頷く。名手が奏でれば花びらが舞うような品は、『雪月花』くらいのものだ。

「確か、『雪月花』はミゼアス兄さんが持っていたよね。今は誰のものなの?」

「アルン君だね。もう少ししたら学校から帰ってくるよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きか?嫌いか?

秋元智也
BL
ある日、女子に振られてやけくそになって自分の運命の相手を 怪しげな老婆に占ってもらう。 そこで身近にいると宣言されて、虹色の玉を渡された。 眺めていると、後ろからぶつけられ慌てて掴むつもりが飲み込んでしまう。 翌朝、目覚めると触れた人の心の声が聞こえるようになっていた! クラスでいつもつっかかってくる奴の声を悪戯するつもりで聞いてみると なんと…!! そして、運命の人とは…!?

第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?

藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。 悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥ すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。 男性妊娠可能な世界です。 魔法は昔はあったけど今は廃れています。 独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥ 大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。 R4.2.19 12:00完結しました。 R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。 お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。 多分10話くらい? 2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。

騎士さま、むっつりユニコーンに襲われる

雲丹はち
BL
ユニコーンの角を採取しにいったらゴブリンに襲われかけ、むっつりすけべなユニコーンに処女を奪われてしまう騎士団長のお話。

倫理的恋愛未満

雨水林檎
BL
少し変わった留年生と病弱摂食障害(拒食)の男子高校生の創作一次日常ブロマンス(BL寄り)小説。 体調不良描写を含みます、ご注意ください。 基本各話完結なので単体でお楽しみいただけます。全年齢向け。

俺が恋をした相手は

秋元智也
BL
俺がが初めて好きになった人は、同じ男だった。 どうしてだろう? 友人の持ってきたエロ本には全く興味が湧かない。 これは病気なのか? 俺は男が好きなのか? 分からないうちに出会った男性と身体を重ねた。 最初は痛くて入らなかったけど、慣らすうちにこんなところが 気持ちいいなんて初めて知った。 相手は既婚者だと分かっていても止まらない。 俺の気持ちは…。どうしたいのだろう。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

140字BL缶詰

阿沙🌷
BL
一話完結、単発ものの140字小説置き場。 ✿Twitterに投げたものをのちのち、こちらで再録したものも混じっています。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

処理中です...