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20.やってきた理由
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「さっきのお友達、放っておいていいのかい?」
ヴァレンと二人きりになったロシュが、気遣うように口を開く。
「エアイールが追っていったから、大丈夫だよ。あいつが任せろって言ったんだから、心配はいらない。それよりも、ロシュさんはどこか行ってみたいところはある?」
エアイールが追っていった以上、ひとまず心配はいらないだろう。
後からヴァレンも合流するつもりだが、今はロシュの相手をするべきだ。
ヴァレンはにっこりと笑いながら問いかける。
「うん……その、人が集まるようなところってあるかな? 花じゃなくて、客が多く集まるようなところ」
「ああ……もしかして、人脈作り? それだったら、俺がいくつか紹介するよ」
不夜島に来る客は、すべてが花だけを目当てとするわけではない。客同士での社交場もあり、そこで人脈を広げたり、ときには商談が行われたりもする。
「それは助かるな。これからローダンデリアで始めようとしている商売のこともあるし、せっかくここに来たんだから、繋がりを作っておきたくてね」
「ローダンデリアかー。俺の身内だし、俺にできることだったら協力するよ。この島の社交場も、俺の紹介だったらどこでも入れるから。……あ、でも賭博場だけは無理か。俺、出入り禁止になっちゃってるから」
ロシュにいくつか社交場を紹介し、そのうちのひとつにロシュはそのまま留まることになった。ヴァレンはロシュといったんそこで別れ、エアイールの部屋に向かう。
予想どおり、エアイールの部屋にはネヴィルとエアイールがいた。朝よりもネヴィルは落ち着いているようで、島にやってきた理由を話し始めた。
「……急速に手を広げようとしすぎたんだろうね」
ネヴィルを身請けした男は、今は共同経営者となっている。
王都での立場強化のため、ある権力者に貢物をすることになっていた。それが共同経営者の男が秘蔵していた『風月花』という花月琴である。
ミゼアスの『雪月花』と双子といわれる、名品中の名品だ。
ところが、この『風月花』は男の身内が金のため、すでに持ち出して売却済みだった。
すでに権力者には『風月花』を献上することを約束しており、献上できないのならば話はなかったことに、となってしまった。それどころか、軽々しく嘘をつくような輩は信用できないと、現在の商売にも影響が出てしまいそうだ。
どうにか売却先を突き止め、買い戻そうとしたが、突っぱねられてしまった。
「その権力者は花月琴でなくてはダメだって言うんだ。収集家らしい。この島に来れば、もしかしたらそれに類する名品があるかも……と思って」
「花月琴、かあ……。まあ、この島には名品といわれるようなのがいっぱいあるけれど」
ヴァレンがミゼアスから与えられた『貪欲宴』も名品である。当然、エアイールが使用しているものも名品だ。
「ただ、『雪月花』と双子といわれるような品、匹敵するようなものはひとつしかありませんよ」
「うん、当の『雪月花』くらいだろうな」
エアイールの言葉にヴァレンも頷く。名手が奏でれば花びらが舞うような品は、『雪月花』くらいのものだ。
「確か、『雪月花』はミゼアス兄さんが持っていたよね。今は誰のものなの?」
「アルン君だね。もう少ししたら学校から帰ってくるよ」
ヴァレンと二人きりになったロシュが、気遣うように口を開く。
「エアイールが追っていったから、大丈夫だよ。あいつが任せろって言ったんだから、心配はいらない。それよりも、ロシュさんはどこか行ってみたいところはある?」
エアイールが追っていった以上、ひとまず心配はいらないだろう。
後からヴァレンも合流するつもりだが、今はロシュの相手をするべきだ。
ヴァレンはにっこりと笑いながら問いかける。
「うん……その、人が集まるようなところってあるかな? 花じゃなくて、客が多く集まるようなところ」
「ああ……もしかして、人脈作り? それだったら、俺がいくつか紹介するよ」
不夜島に来る客は、すべてが花だけを目当てとするわけではない。客同士での社交場もあり、そこで人脈を広げたり、ときには商談が行われたりもする。
「それは助かるな。これからローダンデリアで始めようとしている商売のこともあるし、せっかくここに来たんだから、繋がりを作っておきたくてね」
「ローダンデリアかー。俺の身内だし、俺にできることだったら協力するよ。この島の社交場も、俺の紹介だったらどこでも入れるから。……あ、でも賭博場だけは無理か。俺、出入り禁止になっちゃってるから」
ロシュにいくつか社交場を紹介し、そのうちのひとつにロシュはそのまま留まることになった。ヴァレンはロシュといったんそこで別れ、エアイールの部屋に向かう。
予想どおり、エアイールの部屋にはネヴィルとエアイールがいた。朝よりもネヴィルは落ち着いているようで、島にやってきた理由を話し始めた。
「……急速に手を広げようとしすぎたんだろうね」
ネヴィルを身請けした男は、今は共同経営者となっている。
王都での立場強化のため、ある権力者に貢物をすることになっていた。それが共同経営者の男が秘蔵していた『風月花』という花月琴である。
ミゼアスの『雪月花』と双子といわれる、名品中の名品だ。
ところが、この『風月花』は男の身内が金のため、すでに持ち出して売却済みだった。
すでに権力者には『風月花』を献上することを約束しており、献上できないのならば話はなかったことに、となってしまった。それどころか、軽々しく嘘をつくような輩は信用できないと、現在の商売にも影響が出てしまいそうだ。
どうにか売却先を突き止め、買い戻そうとしたが、突っぱねられてしまった。
「その権力者は花月琴でなくてはダメだって言うんだ。収集家らしい。この島に来れば、もしかしたらそれに類する名品があるかも……と思って」
「花月琴、かあ……。まあ、この島には名品といわれるようなのがいっぱいあるけれど」
ヴァレンがミゼアスから与えられた『貪欲宴』も名品である。当然、エアイールが使用しているものも名品だ。
「ただ、『雪月花』と双子といわれるような品、匹敵するようなものはひとつしかありませんよ」
「うん、当の『雪月花』くらいだろうな」
エアイールの言葉にヴァレンも頷く。名手が奏でれば花びらが舞うような品は、『雪月花』くらいのものだ。
「確か、『雪月花』はミゼアス兄さんが持っていたよね。今は誰のものなの?」
「アルン君だね。もう少ししたら学校から帰ってくるよ」
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