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17.出直してくる
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「不夜島の経営……かあ。考えたことはなかったな。言われてみれば、娼館主になろうと思えばなれるんだよなあ」
「のんきだね、ヴァレン。きみなら、身請け話も結構きているんじゃないの? 将来をどうするか考えろって言われていない?」
「……まさに、言われたばかりだよ。でも、俺はどうも気乗りがしなくてなー。まだ十八になるまでには二年あるし、今は見習いたちを一人前にすることのほうが優先かな」
ため息と共にヴァレンが言葉を吐き出せば、ネヴィルがくすりと笑いを漏らした。
「きみも見習いの育成のことを考えるようになったなんて、月日の流れを感じるよ。やっぱりきみと話していると、僕も見習い時代のことを思い出すし、ちょっと変な気分だね」
「……そうだな」
懐かしそうに呟くネヴィルの姿を眺めながら、ヴァレンはわずかに眉を寄せて相槌を打つ。
ネヴィルの目がどこか遠いところを見つめているようで、先ほども胸にわきあがった不安が、より確かな形となってヴァレンを苛む。
やがて、ネヴィルも共に過ごしたことのある館にたどり着く。
ネヴィルにとっては約一年ぶりだが、懐かしそうにはするものの、迷うような様子はなかった。
「あれ? こっちってきみの部屋だっけ?」
「ああ、ミゼアス兄さんの部屋を受け継いだんだよ」
「ということは、今はきみがここの稼ぎ頭か。そうか、そうだよね……ミゼアス兄さんがいなくなったら、そうなるか。なんだか……本当に、月日は流れたんだなっていう気がするよ」
「……俺も、そう思うよ」
わずかに苦い思いを噛み締めながら、ヴァレンは答える。ミゼアスの思い出を呼び覚まされたこともそうだが、やはりネヴィルの様子が少しおかしい。
まずは部屋に連れて行き、それから話を聞き出すことにしようとヴァレンは心に決める。
自室の扉を開けると、そこにはロシュとエアイールがいた。二人で卓を挟んで座り、お茶を飲んでいる。
やや気だるそうで髪にも寝癖がついているロシュとは対照的に、エアイールはきっちりと身だしなみを整えていた。ヴァレンが出て行ったときにはぐったりとしていたはずなのに、今は一分の隙もない。
「お帰りなさい、ヴァレン……ネヴィル? どうしてあなたがここに?」
にこやかに口を開きかけたエアイールだったが、ヴァレンの後ろにいる人物を見て目を見開く。
「エアイール? それと……え?」
ネヴィルも混乱した様子で呟きを漏らした。
「ああ……昨日、ちょっとした恩人を招いて宴席を設けたんだよ。そこにエアイールも加わって、結局泊まりになったんだ。えっと、ロシュさん……」
まさかロシュとエアイールがすでに起きているとは思わなかったが、ヴァレンはまずネヴィルに説明をする。
しかし、続けてロシュに説明をしようとしたところで、ネヴィルがヴァレンの言葉を遮った。
「そうなんだ……ごめん、忙しいときにお邪魔しちゃったみたいだね。じゃあ出直してくることにするよ。ヴァレンもエアイールも、久しぶりに会えて嬉しかった。それじゃあね」
止める間もなく、ネヴィルは部屋を出て行ってしまった。
ヴァレンは後を追いかけようとするが、エアイールに止められる。
「わたくしが行きます。あなたは、ご自分がお招きした方のお相手があるでしょう。どうぞわたくしにお任せください」
「……頼む」
エアイールは真剣な顔でヴァレンに向けて頷くと、ネヴィルの後を追う。
「えっと、今のは……」
状況についていけなかったらしいロシュは、ただ首を傾げるだけだ。
「ああ、ごめん。今は島を出た、元白花の友達なんだ」
「のんきだね、ヴァレン。きみなら、身請け話も結構きているんじゃないの? 将来をどうするか考えろって言われていない?」
「……まさに、言われたばかりだよ。でも、俺はどうも気乗りがしなくてなー。まだ十八になるまでには二年あるし、今は見習いたちを一人前にすることのほうが優先かな」
ため息と共にヴァレンが言葉を吐き出せば、ネヴィルがくすりと笑いを漏らした。
「きみも見習いの育成のことを考えるようになったなんて、月日の流れを感じるよ。やっぱりきみと話していると、僕も見習い時代のことを思い出すし、ちょっと変な気分だね」
「……そうだな」
懐かしそうに呟くネヴィルの姿を眺めながら、ヴァレンはわずかに眉を寄せて相槌を打つ。
ネヴィルの目がどこか遠いところを見つめているようで、先ほども胸にわきあがった不安が、より確かな形となってヴァレンを苛む。
やがて、ネヴィルも共に過ごしたことのある館にたどり着く。
ネヴィルにとっては約一年ぶりだが、懐かしそうにはするものの、迷うような様子はなかった。
「あれ? こっちってきみの部屋だっけ?」
「ああ、ミゼアス兄さんの部屋を受け継いだんだよ」
「ということは、今はきみがここの稼ぎ頭か。そうか、そうだよね……ミゼアス兄さんがいなくなったら、そうなるか。なんだか……本当に、月日は流れたんだなっていう気がするよ」
「……俺も、そう思うよ」
わずかに苦い思いを噛み締めながら、ヴァレンは答える。ミゼアスの思い出を呼び覚まされたこともそうだが、やはりネヴィルの様子が少しおかしい。
まずは部屋に連れて行き、それから話を聞き出すことにしようとヴァレンは心に決める。
自室の扉を開けると、そこにはロシュとエアイールがいた。二人で卓を挟んで座り、お茶を飲んでいる。
やや気だるそうで髪にも寝癖がついているロシュとは対照的に、エアイールはきっちりと身だしなみを整えていた。ヴァレンが出て行ったときにはぐったりとしていたはずなのに、今は一分の隙もない。
「お帰りなさい、ヴァレン……ネヴィル? どうしてあなたがここに?」
にこやかに口を開きかけたエアイールだったが、ヴァレンの後ろにいる人物を見て目を見開く。
「エアイール? それと……え?」
ネヴィルも混乱した様子で呟きを漏らした。
「ああ……昨日、ちょっとした恩人を招いて宴席を設けたんだよ。そこにエアイールも加わって、結局泊まりになったんだ。えっと、ロシュさん……」
まさかロシュとエアイールがすでに起きているとは思わなかったが、ヴァレンはまずネヴィルに説明をする。
しかし、続けてロシュに説明をしようとしたところで、ネヴィルがヴァレンの言葉を遮った。
「そうなんだ……ごめん、忙しいときにお邪魔しちゃったみたいだね。じゃあ出直してくることにするよ。ヴァレンもエアイールも、久しぶりに会えて嬉しかった。それじゃあね」
止める間もなく、ネヴィルは部屋を出て行ってしまった。
ヴァレンは後を追いかけようとするが、エアイールに止められる。
「わたくしが行きます。あなたは、ご自分がお招きした方のお相手があるでしょう。どうぞわたくしにお任せください」
「……頼む」
エアイールは真剣な顔でヴァレンに向けて頷くと、ネヴィルの後を追う。
「えっと、今のは……」
状況についていけなかったらしいロシュは、ただ首を傾げるだけだ。
「ああ、ごめん。今は島を出た、元白花の友達なんだ」
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