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11.初恋
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かなり早い速度でロシュは酒をあおり続けた。まるで飲み比べを挑まれているかのようだと思いながら、ヴァレンも付き合う。
無理やり押しかけてきたエアイールだったが、素直に弾き手を務めていた。
ヴァレンとロシュの会話を邪魔するつもりはないらしく、背景としてふさわしい穏やかなゆったりとした曲を奏でている。
複数の花が共同で宴席を設けたときの、弾き手としての役割に徹しているようだ。
本来はもっと格下の花がするべき役割で、五花のエアイールがすることではないのだが、本人がやりたいというのだから、そのままにしておく。
ひとまずヴァレンは胸をなでおろし、ロシュと何気ない会話を交わす。
エアイールが演奏を始めてしばらくすると、はらりはらりと花びらが舞い始める。
ロシュは不思議そうに眺めていたが、ふと酒を持つ手が止まった。
「カリナちゃん……じゃなくて、ヴァレンだったね。変なことを尋ねるけれど……今って、幸せ?」
「うん、それなりに幸せかな。まあ、いろいろあるけれどね」
「そうか……実は最初、きみを自由にしてあげたいと思っていた。でも、そんなのは思い上がりだったんだなって思うよ」
まるで独白のように、苦々しくロシュは呟く。
「いや、気持ちは嬉しいよ。十年も前のわずかな縁で、それほど気にかけてくれるなんて、ありがとう」
「……俺、きっと十年前のきみが初恋だったんじゃないかな。ずっと頭の片隅で気にしていたけれど……元気そうで、安心したよ。ああ、今さらどうこうしようってつもりはないから、気にしないで。昔の思い出として、流してほしい」
「……あのときの俺はおとなしかったから、今回会ってみて、こんな奴かってがっかりしたんじゃない?」
初恋という言葉には少々驚いたものの、追及はしてほしくないようだったので、ヴァレンはほんのわずかに方向をそらす。
おそらく、ロシュは酔っているのだろう。
「いや、確かにあのときとは印象が大分違うけれど、今のほうが生き生きとしていて、いいんじゃないかな。でも……今はもう、俺なんかよりもずっと、きみのことを想っている人がいるみたいだし……」
「え? どういうことだろう?」
「だって……あ……まず……い……」
口を開きかけたところで、ロシュは突然、糸が切れたように崩れ落ちた。あわててヴァレンは抱きとめるが、ロシュからは穏やかな寝息が聞こえてくる。
「どうしたのですか?」
エアイールは演奏を中断し、ただ事ではないと思ったのか真剣な表情で問いかけてくる。ロシュが倒れたとでも思ったようだった。
「いや……寝ちゃったみたい。飲みすぎると寝る体質なのかな」
「ああ……そうでしたか。これから三人で床入りしたかったのに、残念でしたね」
表情をゆるめ、からかうようにエアイールは微笑んだ。
「おまえは、またそういう……。まあ、とにかくこれでお開きだな。おまえも、帰れよ」
「……帰ったら、あなたは島を出ているなどということはありませんよね?」
エアイールは不安そうな瞳をヴァレンに向けてくる。
先ほどのロシュとの会話で、わずかにしんみりとした気分になっていたヴァレンの心を揺らすような頼りなさだった。
何度同じことを言うのだろうという呆れよりも、わずかに哀れみが勝った。
「いや、ないから……そんなに気になるんだったら、泊まっていくか? 今日はする気はないけど、添い寝くらいだったらいいよ」
「ええ……もちろん……!」
一瞬にしてエアイールの憂いが失せ、晴れやかな笑みが浮かび上がってくる。
嬉しそうなエアイールとは対照的に、ヴァレンには苦笑しか浮かばない。しかし、エアイールの笑顔を見ていると、それでもいいかと思えてくる。
幼い頃から付き合いのある相手への憐憫なのか、それとも別の何かなのか、ヴァレンにもよくわからなかった。
無理やり押しかけてきたエアイールだったが、素直に弾き手を務めていた。
ヴァレンとロシュの会話を邪魔するつもりはないらしく、背景としてふさわしい穏やかなゆったりとした曲を奏でている。
複数の花が共同で宴席を設けたときの、弾き手としての役割に徹しているようだ。
本来はもっと格下の花がするべき役割で、五花のエアイールがすることではないのだが、本人がやりたいというのだから、そのままにしておく。
ひとまずヴァレンは胸をなでおろし、ロシュと何気ない会話を交わす。
エアイールが演奏を始めてしばらくすると、はらりはらりと花びらが舞い始める。
ロシュは不思議そうに眺めていたが、ふと酒を持つ手が止まった。
「カリナちゃん……じゃなくて、ヴァレンだったね。変なことを尋ねるけれど……今って、幸せ?」
「うん、それなりに幸せかな。まあ、いろいろあるけれどね」
「そうか……実は最初、きみを自由にしてあげたいと思っていた。でも、そんなのは思い上がりだったんだなって思うよ」
まるで独白のように、苦々しくロシュは呟く。
「いや、気持ちは嬉しいよ。十年も前のわずかな縁で、それほど気にかけてくれるなんて、ありがとう」
「……俺、きっと十年前のきみが初恋だったんじゃないかな。ずっと頭の片隅で気にしていたけれど……元気そうで、安心したよ。ああ、今さらどうこうしようってつもりはないから、気にしないで。昔の思い出として、流してほしい」
「……あのときの俺はおとなしかったから、今回会ってみて、こんな奴かってがっかりしたんじゃない?」
初恋という言葉には少々驚いたものの、追及はしてほしくないようだったので、ヴァレンはほんのわずかに方向をそらす。
おそらく、ロシュは酔っているのだろう。
「いや、確かにあのときとは印象が大分違うけれど、今のほうが生き生きとしていて、いいんじゃないかな。でも……今はもう、俺なんかよりもずっと、きみのことを想っている人がいるみたいだし……」
「え? どういうことだろう?」
「だって……あ……まず……い……」
口を開きかけたところで、ロシュは突然、糸が切れたように崩れ落ちた。あわててヴァレンは抱きとめるが、ロシュからは穏やかな寝息が聞こえてくる。
「どうしたのですか?」
エアイールは演奏を中断し、ただ事ではないと思ったのか真剣な表情で問いかけてくる。ロシュが倒れたとでも思ったようだった。
「いや……寝ちゃったみたい。飲みすぎると寝る体質なのかな」
「ああ……そうでしたか。これから三人で床入りしたかったのに、残念でしたね」
表情をゆるめ、からかうようにエアイールは微笑んだ。
「おまえは、またそういう……。まあ、とにかくこれでお開きだな。おまえも、帰れよ」
「……帰ったら、あなたは島を出ているなどということはありませんよね?」
エアイールは不安そうな瞳をヴァレンに向けてくる。
先ほどのロシュとの会話で、わずかにしんみりとした気分になっていたヴァレンの心を揺らすような頼りなさだった。
何度同じことを言うのだろうという呆れよりも、わずかに哀れみが勝った。
「いや、ないから……そんなに気になるんだったら、泊まっていくか? 今日はする気はないけど、添い寝くらいだったらいいよ」
「ええ……もちろん……!」
一瞬にしてエアイールの憂いが失せ、晴れやかな笑みが浮かび上がってくる。
嬉しそうなエアイールとは対照的に、ヴァレンには苦笑しか浮かばない。しかし、エアイールの笑顔を見ていると、それでもいいかと思えてくる。
幼い頃から付き合いのある相手への憐憫なのか、それとも別の何かなのか、ヴァレンにもよくわからなかった。
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