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08.呆れ

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「ヴァレン兄さんが二人、か……」

「お客様、苦労なさったんですね……」

「お疲れ様でした……」

 三人衆が、心からの同情を浮かべて口々に労わりの言葉を述べる。

「……きみたち、それはいったいどういう意味だい」

 低い声でヴァレンは呻くが、三人衆はさりげなく視線をそらすだけだ。さらに何か言おうとヴァレンは口を開きかけたが、ロシュの噴き出す声が響いて口をつぐむ。

「いや……ごめん。不夜島の四花の宴席っていうから、かなり緊張していたんだよね。作法はどうすればいいのかなとか、口上はどうすれば……ってね。でも、なんていうか……普通の会話で、安心したよ」

「そりゃあ、ロシュさんに楽しんでもらうための宴席なんだから、作法や口上のような、格式張ったことなんて気にしないで。楽しければいいんだから、どんどん普通に話して」

「うん。ただ、これはやってはいけないっていうことはある?」

「いや、特にないよ。暴力を振るうとか、暴れて物を壊すといったような、普通に考えてこれはダメだろってことくらい。こうするのが好ましいっていうしきたりはあるけれど、別に強制じゃないし。たとえば、上級白花は初回で床入りしないほうがよいっていうのがあるけれど、実際はそんなに厳密じゃないし」

 決まりごとは、上級になるに従ってゆるくなっていく。下級はかなり厳格な決まりごとがあるのだが、上になるほど自由がきくのだ。

「と、床入り……」

 ロシュは顔をうっすらと赤く染めながら、ぼそぼそと呟く。

「あれ? 床入りに興味があるんだったら、しようか?」

「ええっ!?」

 あっけらかんとヴァレンが問えば、ロシュの顔がますます赤く染まっていく。
 ここは娼館だというのに、何故そのように驚くのだろうかとヴァレンは首を傾げた。
 ただ、宴席は始まったばかりで、まだろくに食事にも手をつけていない。
 床入りするにしても、もっと後でよいだろうとヴァレンが考えていると、扉を叩く音が響いた。

「追加のお酒をお持ちいたしました」

 しっとりとした穏やかな声と共に現れた姿を眺め、ヴァレンはそっと額を押さえる。
 ヴァレンも以前はよく、下働きや見習いがするような小用にかこつけてミゼアスのもとを訪れ、四花の仕事ではないと呆れられたものだ。だが、この相手は四花ですらない。最高位の五花だ。

「なんで、おまえが現れるんだよ、エアイール……」
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