6 / 69
06.宴席
しおりを挟む
宴席の準備を整え、ヴァレンは夕月花事件の協力者を迎えた。約十年ぶりの再会だ。
「十年ぶりくらい? お久しぶりー」
緊張感のないヴァレンの声が響く。
対照的にがちがちと緊張した様子のロシュは、曖昧に頷くだけだった。それでも何か言わなければ、と思ったらしく、口を開く。
「えっと……その……お招きに預かりまして……」
「ああ、かたくならないで。夕月花の件でお礼も言いたかったし、わざわざ来てくれてありがとう」
やんわりとロシュを遮り、ヴァレンはにっこりと笑う。
ロシュは、ミゼアスの夫となったアデルジェスの友人だ。ヴァレンの実家と取引があった家の息子でもあり、ヴァレンも十年ほど前に一度だけ会っていた。
夕月花の件では、夕月花が生贄を必要とする花だと教えてくれたのだ。この情報のおかげで、ヴァレンはそれまでの憶測を確信へと変えていくことができた。
本当は、ロシュはミゼアスの紹介を得て、客として来ようとしていた。しかし、このことを知ったヴァレンは自らが宴席を設け、ロシュを招待したのだ。
「ロシュさんは、俺より三つくらい年上だっけ? 昔、飴をもらったのを覚えているよ。お腹空いていたから、嬉しかったなー」
「そ、そうですね……」
「敬語も必要ないから、もっと肩の力を抜いてくつろいで。まあ、まずは軽く一杯どうぞ」
気が張った様子のロシュに向け、安心させるように微笑みながらヴァレンは酒を注ぐ。
直線的な仕草で杯を受け取ると、ロシュは一気にあおった。思わずヴァレンは手を叩く。
「いい飲みっぷりだね。もう一杯いく?」
ヴァレンの問いかけに、ロシュは無言のまま杯を差し出した。二杯目を注ぐと、ロシュはまたも一気にあおる。
「いやー、いい飲みっぷりだ。でも、最初から飛ばしすぎるのも何だし、食べ物もどうぞ。……おや、きみたち。うずうずしているようだね」
見習いたちに向けてからかうような声をかければ、ロシュも不思議そうな顔で見習いたちに目を向けた。
「お伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
見習いたちの筆頭、アルンが落ち着き払って願い出る。
「え……俺? あ、はい、どうぞ……」
戸惑いながらもロシュは頷く。
「お客様は、ミゼアス兄さんとお会いしたのですよね。ミゼアス兄さんはお元気でしたか?」
表面上は落ち着いた様子だったが、普段の大人びた仮面がやや取れかけている。アルンの瞳がきらきらとしているのを確認し、ヴァレンはこっそりと笑いを漏らした。
「ミゼアス……ああ、フェイちゃんか。うん、元気だったよ。そうだ、もし不夜島に行ったとしたら、祭りのときに遊びに行くからって伝えてくれって言われていたんだ」
ロシュの言葉に、アルン、ブラム、コリンが顔を輝かせる。おそらく、普段だったら歓声をあげていただろう。
宴席の場に控える見習いとしての立場をわきまえて、声を出すのはこらえたようだ。
「十年ぶりくらい? お久しぶりー」
緊張感のないヴァレンの声が響く。
対照的にがちがちと緊張した様子のロシュは、曖昧に頷くだけだった。それでも何か言わなければ、と思ったらしく、口を開く。
「えっと……その……お招きに預かりまして……」
「ああ、かたくならないで。夕月花の件でお礼も言いたかったし、わざわざ来てくれてありがとう」
やんわりとロシュを遮り、ヴァレンはにっこりと笑う。
ロシュは、ミゼアスの夫となったアデルジェスの友人だ。ヴァレンの実家と取引があった家の息子でもあり、ヴァレンも十年ほど前に一度だけ会っていた。
夕月花の件では、夕月花が生贄を必要とする花だと教えてくれたのだ。この情報のおかげで、ヴァレンはそれまでの憶測を確信へと変えていくことができた。
本当は、ロシュはミゼアスの紹介を得て、客として来ようとしていた。しかし、このことを知ったヴァレンは自らが宴席を設け、ロシュを招待したのだ。
「ロシュさんは、俺より三つくらい年上だっけ? 昔、飴をもらったのを覚えているよ。お腹空いていたから、嬉しかったなー」
「そ、そうですね……」
「敬語も必要ないから、もっと肩の力を抜いてくつろいで。まあ、まずは軽く一杯どうぞ」
気が張った様子のロシュに向け、安心させるように微笑みながらヴァレンは酒を注ぐ。
直線的な仕草で杯を受け取ると、ロシュは一気にあおった。思わずヴァレンは手を叩く。
「いい飲みっぷりだね。もう一杯いく?」
ヴァレンの問いかけに、ロシュは無言のまま杯を差し出した。二杯目を注ぐと、ロシュはまたも一気にあおる。
「いやー、いい飲みっぷりだ。でも、最初から飛ばしすぎるのも何だし、食べ物もどうぞ。……おや、きみたち。うずうずしているようだね」
見習いたちに向けてからかうような声をかければ、ロシュも不思議そうな顔で見習いたちに目を向けた。
「お伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
見習いたちの筆頭、アルンが落ち着き払って願い出る。
「え……俺? あ、はい、どうぞ……」
戸惑いながらもロシュは頷く。
「お客様は、ミゼアス兄さんとお会いしたのですよね。ミゼアス兄さんはお元気でしたか?」
表面上は落ち着いた様子だったが、普段の大人びた仮面がやや取れかけている。アルンの瞳がきらきらとしているのを確認し、ヴァレンはこっそりと笑いを漏らした。
「ミゼアス……ああ、フェイちゃんか。うん、元気だったよ。そうだ、もし不夜島に行ったとしたら、祭りのときに遊びに行くからって伝えてくれって言われていたんだ」
ロシュの言葉に、アルン、ブラム、コリンが顔を輝かせる。おそらく、普段だったら歓声をあげていただろう。
宴席の場に控える見習いとしての立場をわきまえて、声を出すのはこらえたようだ。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる